鬼の総大将

「ドーン!」鵺の脇腹に白虎が前足で一撃を加える。


白虎の後ろ足の一部を鵺が噛みちぎる。


堪らず白虎が鵺の尻尾を巻きつけたまま、上空に駆け上がる。


鵺が尻尾から引き摺られて上空へ上がっていく。


白虎に絡まってしまい尻尾は外れない。白虎が鵺を引き摺って、どんどん上に駆け上がっていく。


鵺の尻尾が伸び切った瞬間、白虎は水平に方向転換する。


鵺が白虎を通り過ぎて上空へ、さらに白虎は方向転換して地上へ真っ逆さま。


鵺はそれに引っ張られて地上へ。白虎が地上スレスレで横へ方向転換。鵺はさらに加速して地上へ。


鵺が地上へ激突する瞬間、さらに白虎は上空へ駆け出す。鵺は轟音と共に体半分地上にめり込んでいる。


鬼一法眼に源頼煌とその四天王が対峙していた。


「此処を通す訳にはいかん。」鬼一法眼が静かに言う。


「左様でござるか。お相手仕らん!」源頼煌が言うと「ん?此処は「押し通る!」だろ?」鬼一法眼が言い返す。


「向こうに行った鬼達は特に心配しておりません。」渡辺喬綱がさらに言い返す。


「そうか。纏めて掛かってまいれ!」防御用の鬼を背後に何匹か置いて、鬼一法眼が静かに構える。


「此処は国家の一大事ゆえ、御免!」


「鋒矢の陣(ほうしのじん)!」源頼煌が合図を送ると渡辺喬綱が先頭で両翼に坂上季猛と坂上公時、渡辺喬綱の背後に平貞通、さらに最後尾に源頼煌がいる陣形を取る。


鬼一法眼の身体に妖気が纏い始める。「行くぞ!」源頼煌の一声と共に鬼一法眼の目が蛇眼に変わる。


「将監神流・飛龍(ひりゅう)!」


最後尾の源頼煌が上空に舞い上がり、一の太刀、渾身の斬撃を上段から振り下ろす。


鬼一法眼が上段で受け止める。源頼煌の斬撃に鬼一法眼が膝下まで地面にめり込む。


それと同時に源頼煌の背後から平貞通が現れる。すでに源頼煌の背後から続けて平貞通が飛び上がっていた。


まだ鬼一法眼が上段で一の太刀を受け止めている最中に二の太刀、霞の構え(かすみのかまえ)からの諸手突き。


鬼一法眼の胸に諸手突きが刺さるかと思われたが鬼一法眼が持つ礙刀剣・瞋の柄の頭から諸手突きを防御するかのように刀剣が出てきた。


「ガキーン!」すると平貞通の下から渡辺喬綱が低い体勢で踏み込んでくる。


三の太刀、八相の構え(はっそうのかまえ)からの袈裟斬り、さらに踏み込んで左逆袈裟斬りを繰り出す。


一の太刀から三の太刀まで瞬きひとつ。


「くっ!」鬼一法眼は一の太刀と二の太刀は礙刀剣・瞋で防いだが、三の太刀を後ろに隠していた鬼を右手で引っ張ってきて防御するが鬼ごと斬られる。


斬られた鬼は塵となった。


さらに両翼から四の太刀、坂上季猛と坂上公時の一文字斬りを同時に繰り出す。


「一の太刀と二の太刀は罠か。くそ!」すると礙刀剣・瞋の受けている刀剣から枝のように刀が伸び四の太刀を受ける。


「ガキ〜ン!」鬼一法眼が弾き飛ばされた。斬られた右腕は鬼と共にすでに塵になっていた。


「ん〜。斬られた腕が焼けるようだ。これが神刀剣か。」鬼一法眼が悔しがる。


「飛龍で祓われなかった物の怪は、初めてだ。」坂上公時が倒れている鬼一法眼を見て驚く。


すると礙刀剣・瞋の柄の頭から出てきた刀剣の部分が刀から変形し右腕に繋がり義手になった。


「天王なのか?儂を消さずに留めたのは。」礙刀剣・瞋の有り得ない動きに鬼一法眼は大きな力を感じていた。


星熊童子が鬼たちを引き連れて御所目掛けて突進している。


だが御所があると思われる所は霧の渦が発生しており、目の前までは近づけるもののそれ以上は進むことが出来ない。


「うぬ〜。陰陽師どもめ、どういう術じゃ。」星熊童子たちが近づくために、四苦八苦していると霧の渦の中から轟音が轟き始める。


「ゴゴゴゴー!」1匹の鬼が霧の中を覗き込む。すると霧の中から武者が飛び出してきた。


出てきたと同時に魔障調伏(ましょうちょうぶく)の銘が刻まれている神刀剣が一閃。鬼の首をはねる。


出てきた武者は漆黒の星兜、背中に破魔雷上の弓と兵破(ひょうは)の矢を装備した精鋭、頼煌武士団(らいこうぶしだん)であった。


次から次に武者が飛び出してくる。4人5人武者が出てきた所までは鬼たちも戦うつもりでいたが100人を超え500人になったところで、反対方向へ逃げ出していた。


「待て待て〜!どっちへ行っている!敵は反対だぞ!」星熊童子が逃げる鬼たちを捕まえて頼煌武士団の方角に投げる。


投げる鬼が無くなると、いつの間にか星熊童子は頼煌武士団に取り囲まれていた。


「あら。あら。」星熊童子が現状を理解して慌て始める。一人の武者が前に出る。


「星熊と見受けた!神妙にせい!覚悟!」頼煌武士団・近習頭(きんじゅうがしら)の加地盛綱(かじもりつな)が神刀剣を抜く。


「やば!ちょちょっ!」星熊童子は手を前に出して、後退りする。だが頼煌武士団に囲まれて逃げれない。


「くそ〜。人間どもが!目にもの見せてくれるわ!」取り囲まれて最後を悟ったのか、祓われるのを覚悟で最後の戦いを挑もうとしている。


「ヒュ〜〜!」すると遠くから何かが飛んでくる音がする。「ドーン!」星熊童子の目の前に10メートルはある朱顛童子(しゅてんどうじ)の金砕棒(かなさいぼう)が突き刺さった。


頼煌武士団は辺りを警戒して一瞬怯んだ。


「朱顛様!有り難や。有り難や〜。」星熊童子は金砕棒に拝んでいる。


「しかし、朱顛様。この金砕棒、加勢に投げて頂きましたが、デカ過ぎて儂には引っこ抜けません。」と申し訳なさそうに言うと星熊童子は自分の背後から手斧2本を取り出した。


「ズシン!ズシン!」鬼の総大将、朱顛童子(しゅてんどうじ)が親衛隊を引き連れて鉄(クロガネ)の奪還に来た。


体長15メートル、怒りで赤鬼の朱顛童子がさらに赤黒くなっていた。


後方には再側近の茨木童子(いばらきどうじ)、配下の鬼四天王の3匹、熊童子(くまどうじ)、虎熊童子(とらくまどうじ)、金熊童子(きんくまどうじ)が並んでいて、さらに後ろに数千の鬼たちがこちらへ向かっている。


四天王のもう一匹は最前線にいる星熊童子。「ぬ〜。戦況はどうか。」朱顛童子が茨木童子に確認する。


「ん〜。何か亡霊も一緒になって出張ってきてまして、グチャグチャです。かなり鬼どもが劣勢に立たされておりますな。


「お任せあれ!」とか何とか言って先陣を切りましたが、星熊に任せるとこんなもんでしょう。」茨木童子が冷静な分析をする。


「グゥ〜!」「ガシーン!」朱顛童子が持っていた金砕棒を地面に突き立てる。「星熊め〜。今度会ったら体を引きちぎってくれるわ!」朱顛童子が怒りで体の血管が浮き出ている。


「あれをご覧あれ!」茨木童子が鵺と白虎の戦いに指差す。


「鵺が地面にめり込んでますな。」熊童子が手で双眼鏡の形を作って覗き込み状況を報告する。


「どっから持ってきた、あんな、どデカい虎。」熊童子が手双眼鏡を覗き込んで報告。


「ん?牛鬼はどこ行った?見当たらんぞ。ん?鬼どもが牛の頭の神輿を担いでおる。ん〜。楽しそうじゃ。」


牛鬼胴体がぴくりとも動かなくなり、牛鬼首を鬼たちが持って移動しているが牛鬼首が唾毒をひっこめることができなくなり、担いでいる鬼たちに猛毒が降りかかる。


それを避けているだけだが、遠くで見ると遊んでいるようであった。


そして一番近くで鬼一法眼と源頼煌四天王達が戦っており、鬼一法眼の敗色が濃厚になっていた。


「あの武者達は見るからに危ないですな。かかわると時間がかります。先を急ぎましょう。」茨木童子が進言する。


「もう時間がない!亡霊などほっとけ。しかし、あの大虎を退けんと次が見えぬ。行くぞ!」朱顛童子が鬼たちに号令をかける。


朱顛童子率いる鬼は総勢1000匹。鵺と白虎の戦いの方へ進軍していく。


地面にめり込んだ鵺が動き出した。白虎もその動きを見て再び対峙する。


「グォォー!」白虎が牙を剥き威嚇する。負けじと鵺も牙を剥き威嚇し返す。


両者あい譲らず間合いを詰めていく。「ガァァー!」両者同時に立ち合い前足をぶつけ合う。一旦引いて次の攻撃の間合いを見る。


円を描くように相手を睨みながらジリジリと近づいていく。鵺と白虎が対峙している周りに茨木童子と鬼四天王の3匹が取り囲む。


茨木童子は体長10メートル、鬼四天王たちは体長7メートルほどで両手を広げて鵺と白虎に近づいてくる。


鬼たちに気付いた白虎は後退りし、警戒態勢をとる。


「ガァァー!」白虎は牙を剥き鬼たちが攻撃してきたら一気に噛みちぎろうと待ち受ける。

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