神刀剣《かむとのつるぎ》

その頃、源頼煌たちは、大技・天曹地雷で鬼達を次々に薙ぎ払っていく。


天曹地雷とは武者に陰陽師の呪詛を注入することで武者の力を増大させる技、まさに重装歩兵であった。


陰陽師は身固により姿を隠しながら呪力を武者に注入し続け、星兜を変容させる。源頼煌と頼煌四天王の2人は鬼達を蹴散らす。


すると痺れを切らしたて鬼たちの背後から山がゆっくりと近づいてくる。


それは体長15メートルはある牛鬼(うしおに)であった。


頭は牛、胴体は鬼。胴体と同じ大きさの棍棒(こんぼう)を引き摺りながら迫ってくる。牛鬼は辺りを見回しながら進んでくる。


と眼前の武者達を見つけるとあまりの小ささに驚き溜息をついて「踏み潰して終わりじゃ!」と言ったかと思うと味方の鬼達を踏みつけながら突進してくる。


「牛がしゃべった!?」坂上公時が驚いてつい声が出た。牛鬼が武者に向け唸り声をあげ、叫声で音波攻撃を仕掛けてきた。


「グォ〜!!」素早い攻撃で武者達は受けるしかなかった。「ビリビリビリ!」3人は絶叫の圧を受け星兜がなければバラバラになったかもしれない。


「源次たちが来るまで持ち堪えるのだ!長蛇の陣(ちょうだのじん)」源頼煌が指示を出し、2人は頼煌の背後に控える。


「ゥグォ〜!!」間髪を入れず叫声音波攻撃の第2弾が来た。


「将監神流・正當剣(しょうとうけん)!」頼煌は叫声の塊を一刀両断切り裂いた。


神刀剣・童子切は音も斬れる。その時四天王の残りの2人が前線に加わった。


さらに勘解由五尭(かでのごぎょう)の弓削是雄(ゆげのこれお)も加わっていた。


「偃月の陣(えんげつのじん)」源頼煌が即座に陣形を変えた、それは頼煌四天王が揃ったことを示していた。2人の陰陽師はそれぞれ3人と2人を引き受けた。


滋岳川人は源頼煌、坂上季猛、坂上公時の背後から天曹地雷を仕掛ける。


弓削是雄は渡辺喬綱、平貞通の背後から奥義・乙神烈火(おっしんれっか)で炎の鞭を武者に繋ぎ、その力で自由自在に素早く移動させ空中戦を仕掛ける。


牛鬼は鬼たちをさらに踏み潰しながら源頼煌たちめがけて突進してくる。闘牛さながら鼻息を荒くし棍棒を肩に乗せ一歩踏み出す度、大地が揺れる。


「ンゴォゴォ〜!」牛鬼は顔を真っ赤にし渾身の力で、源頼煌たちに近づくにつれ棍棒を徐々に振りかぶってくる。頼煌四天王は圧倒的な迫力で突進してくる牛鬼に動ずること無く陣形は崩れない。


「是雄!彼奴の眉間に飛ばしてくれ!」渡辺喬綱が言う、「御意。」弓削是雄が黒い星兜に変容し隙間なく体を覆い尽くしている渡辺喬綱を炎の鞭で牛鬼に向けて飛ばす。


背中には炎の命綱が付いており方向を微調整して常に頭が上に来るようにバランスを取っている。飛ばされながらも右肩には神刀剣・鬼切を担いで一の太刀に全神経を集中。


喬綱が牛鬼の頭に当たる直前、「天曹地雷!」弓削是雄が詠唱すると喬綱が体長3メートルまで巨大化。


「将監神流・水車(みずぐるま)!」刀を脇構えから横に回転し、炎の命綱はまるでヨーヨーの紐のようにコントロールされている。


ソーサーと化した喬綱が牛鬼の首を切った。首を刎ねられた弾みで牛鬼の胴体が尻餅をつく。座ったままで倒れない。


すると座ったまま両手で何かを探っている。「え〜いぃ!この鈍間が首はこっちじゃ!」刎ねられた首が胴体に指示を出している。


胴体には口が無いので言い返せない、そして目も付いてない。鬼は首を斬られても死なないようだ。


「ほぇ〜!近頃の鬼は首を斬っても死なんぞ。」平貞通が呆れ顔で言う。


「まだ首が死んでいない。眉間に神刀剣を刺すのじゃ。」源頼煌が言うと、坂上季猛が雷鳴の如き速さで牛鬼の首の前に立つ。


すると驚いた牛鬼の首は「べぇべべべ〜っ!」と牛の涎を吐きかける。実はこの唾、猛毒である。「汚なっ!」猛毒とは知らず坂上季猛が一瞬後退りすると牛鬼胴体が首を捕まえた。


奇跡的に唾はかかっていなかった。左手で首を抱え、武者の方を向き、右の拳で轟音を轟かせて突いてきた。


牛の唾を避けていた坂上季猛は不意を突かれ弾き飛ばされる。「ぐほぉお!」両腕でガードしているが衝撃で吐血した。かなりの距離飛ばされたが、倒れることなく着地。


その隙に牛鬼は斬られた首を元の位置に据え直す。が、神刀剣で斬った部分は繋がらない。首はずり落ちる。


「ええ〜いぃ!やりにくいわ!」牛鬼は首を小脇に抱えるが動きにくい。仕方なく地面に置き、他の鬼たちを呼び寄せる。


鬼たちは10匹ほど集まって神輿を担ぐように牛鬼の首を担いだ。鬼たちは掛け声で統率を取りながら動き回る。


「わっしょい!わっしょい!」掛け声とは裏腹に鬼たちは必死だった。


牛鬼の胴体は棍棒を頭上と背中で交互に回し始めた。


「侮るな!来るぞ!」源頼煌が叫ぶと牛鬼の首と頼煌四天王の間に胴体が割って入る。


首の前に立ちはだかると棍棒を突くように飛ばしてきた。棍棒には鎖が繋がれており、一撃すると瞬時に胴体の手元に戻ってくる。


棍棒の大きさと速さに避けるのが精一杯であった。連続で飛ばしてくるため何本もあるようだ。


「どうする。」滋岳川人と弓削是雄が思案する。


「首は破魔弓(はまのゆみ)の神矢(かみや)で射抜く!胴体も厄介だが、首も近づくと毒吐があるぞ!」「胴体はあのデカさが弱点だ!」「武者たちを飛ばして、胴体を走らせる!」


滋岳川人が言うと「武者は耐えられるか?我々が本気で投げると気を失うのでは?」と弓削是雄が心配する。


「案ずるな!あの方々は人ではない!」と言った刹那「乙神烈火!」各武者に火炎の命綱を装着。


坂上公時だけが滋岳川人を睨んでいる。


気づいた滋岳川人が一言「お健やかに。」「光箭一閃(こうぜんいっせん)!」笑顔から形相が変わり詠唱。


と同時に牛鬼の胴体の上に武者たちは背中の火炎を伴い瞬間移動。


「無茶言うな〜!!俺たちは人間だ〜!!」坂上公時が叫びながら移動。


「公太郎(きんたろう)殿が何か叫んでおられたな。」弓削是雄が言う。


「はて。聞こえんかった。」滋岳川人は嘯(うそぶ)いた。2人は放電を纏いながら見えなくなった。


そして牛鬼の首が斬られたことで新たな鬼が出てこようとしていた。


遠くで地響きを立てながら山がこちらに向かっている。「ヒョーヒョー!」と山の方から不気味な鳴き声が聞こえてきた。


牛鬼の胴体は泣き別れの首から指示を受け、動きが良くなっていた。


乙神烈火で繋がった武者たちは炎の命綱で意思の共有が陰陽師と瞬時に出来ている。


『皆様、牛鬼胴体を走らせてください。術で足を樹に変えます。牛鬼胴体を倒し動けない隙に牛鬼首にトドメを!』滋岳川人の声が武者たちの頭の中で響いた。


武者たちは胴体に炎の命綱の楔を打ち瞬時に方向転換。「ぐぬぬ!動きが遅すぎるわ!」牛鬼の首が胴体の動きに歯軋りする。


牛鬼胴体は体に群がる武者たちを叩き落とそうと手を四方に振り回す。


とその時、炎の命綱が鞭のようにしなって胴体の前方に武者たちを飛ばす。


手を伸ばせば、はたき落とそせそうな絶妙の間合いで牛鬼胴体は前へ歩き出す。


「緑郷點威(ろくごうてんい)!」すかさず滋岳川人が詠唱。牛鬼胴体の足指から植物の根が地面に向けて突き刺さっていく。


植物は徐々に足指から足の甲に広がっていく。牛鬼胴体は何も見えず何がおこているが分からない。


ただ足がモゾモゾして何か歩きにくい。みるみるうちに足指から湧き出てきた樹木は蔦を伴いながら膝から下を樹木にし根を下ろした。


牛鬼胴体は足が前に出ず轟音と共にゆっくりと横向きに倒れた。


武者たちは倒れた牛鬼の上にふわりと降り立った。牛鬼胴体は衝撃で沈黙。


ぴくりとも動かない。「鬼ども〜!急げ〜!」神輿化した牛鬼首は切り札を用意する。


「ぬぅ〜。平安武者どもに目にもの見せてくれるわ!」牛鬼の背後から体長7メートルほどの星熊童子が現れた。


「この恨み、晴らさでおくべきか〜。」星熊童子の眼光が鋭くなる。星熊童子が牛鬼首を持ち上げる。


そして鎖で編んだ風呂敷を取り出し、牛鬼の首を包んだ。


「厭魅〜唾毒(えんみ〜だどく)」風呂敷を鎖に繋いで振り回す。


「ゴゴゴゴゴォ!」牛鬼首の唾液が散布される。「ザー、ザー。」雨のように降ってくる唾毒に触れると煙を上げてあらゆるものを溶かしていく。


「けけけけ!」鎖の風呂敷の中で振り回される牛鬼首の笑いがとまらない。


「平安京の武者ども全て叩き潰してやる!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る