四季は巡り
紫鳥コウ
四季は巡り
雪国――××県××市×村の今年の冬は厳しい。昨年はからっきし雪が降らなかったのに、今年は雪かきがかかせなくなってしまった。坂道からくだってきた車が残した軌跡は、親切にもすぐにかき消えてしまう。緩やかな
除雪作業に忙しない×村の人びとも年を越し、
真夏。×村からそう遠くない、川沿いにある△△農林高校の教室で、緋奈は、窓枠を握りグラウンドを眺めていたが、それに気付いて恭平が手を振ると、弾ける笑顔で手を振り返した。玄関から教室へ。恭平は階段も廊下も足早に通り過ぎていった。扉を開けると、ぶどう味のゼリーが、恭平の方へ山なりに飛んできた。
暮れ方。赤色の水筒を緋奈に返すと、彼女は残り半分をゆっくりと飲んだ。
初秋。×村から西××駅へは十五分。一時間に一度来る電車で、その西××駅の次の駅で下りると、半シャッター商店街。そこからバスで二十分
バスの一番後ろに座る静香は、日差しを横から受けて本を読んでいる洋二郎に、切ない視線を送っている。来年は、一学年下の洋二郎とは離れて――恋心を地元に置いて、××府でひとり暮らしを始めることになるだろう。彼のいないところで、何度もため息が出る。しかし、切ない視線を感じ取れないほど、洋二郎は鈍感ではない。ということを、彼女は知らない。
初冬。港には何隻もの漁船が、旗を海風に揺らせている。人魚海岸の先にある公園から砂浜に下りると、冷え冷えとした風に身が凍えそうになる。ふたりは砂浜に足跡を作り、流木の上に横並びになり、来春での別れを悲しみあった。これからは受験勉強だけに集中したい――ふたりの付き合いは、一カ月と少しを経て氷結した。
×村に厳しい冬がやってきた。連日の大雪で、
里崎家のペロは足を病んでいた。もうすっかり老衰していた。
ペロはこの家に来てから
栄二郎が雪かきから戻ると、知代婆さんは炬燵に入るよう勧める。彼は着替えてしまうと、そこへもぐりこむ。もう
雪どけの後、×村の通りを一台の霊柩車が通り過ぎていった。それを見かけた知代婆さんと国枝婆さんは、顔を見合わせて、誰が死んだのだろうと話しあった。次は自分なのではないかという不安を、頭の片隅に追いやりながら。
国枝婆さんは、家に入ると仏間へ行き、線香をあげた。手を合わせた。泣くまいとしても、目尻に涙が浮かぶのは禁じ得なかった。息子の死のために、他の家の者に、どれくらいの嫉妬を感じたことだろう。知代婆さんの息子へ、どれくらいの呪詛を与えたことだろう。本音を言えば、知代婆さんとは話したくもない。しかし孤独は寂しい。
国枝婆さんは、一万円を袋に入れて、目を見ずに義理の娘に渡した。彼女は
雪国――××県××市×村。人々はたくましく生きながら寂しさを抱えている。光を背に受けると前に暗がりができるように。正面から陽を受けると、後ろに影が伸びるように。或いは、完全な暗闇はあっても、光だけがあるということはないように……。
〈了〉
四季は巡り 紫鳥コウ @Smilitary
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