第9話 バカが振り返るとヤツがいた

 レッサーデーモンとの激闘を終えたジュンとジュラは池の畔にやってきていた。


「わぁ~綺麗」

「ああ、そうやな」


 それほど時間が経ってないと思っていたがどうやらあの激闘は時間が経過していたようで辺りは茜色に染まり始めていた。

 茜色に染まる池の畔は美しく、池の水面も幻想的に輝いている。


 池の畔を見渡していると墓らしきものを見つけたジュンは重たい足を気力で動かして目の前にまでやってくる。


 そしてしゃがみ込む。


「アンタがばあちゃんの旦那? どれくらい寂しい思いしたか知らんけどワイ達がばあちゃんがまた来れるようにしたからな」


 目を瞑って合掌するジュンの隣で同じようにするジュラ。


 しばらくそうして目を開けると3人は同時に立ち上がる。


「よし、急いで帰るで。今なら兄(にい)やんに気付かれる前に帰れるかも」

「うん、お兄さんの折檻は怖いから急ご、ねぇ、お兄さん……あ、あれぇぇ?」


 そう言うジュラはプルプルと震えたと思えば次はガタガタと震え出す。


 ジュラの視線の先にはボサボサの黒髪を放置してその黒髪の隙間から双角を覗かせるゴツイ男が紫煙を吐き出すここにいるはずのない男の姿があった。


 ジュンはジュラの様子を見た瞬間、ハッとした顔をするがすぐにヤレヤレだぜ、と言いたげに両手を左右に広げてジュラの横を抜けようとする。


「なんや、寒いんか? さっさと帰るで」


 ジュンは何事もなかったようにこの場を去ろうとするが後頭部を大きな手に掴まれる。


 そう、ガシッと


「なぁ、ジュン、俺はいつまでお前のボケに付き合えばいいんだ?」

「あ、あれぇ~兄やんいたん? ジュンちゃんまったく気付かなかったわ」


 あはは、乾いた笑いをするジュンに紫煙を溜息と共に吐き出す兄貴。


 まったく帰ってくる様子がなかった2人を捜してやってきたようだ。恐るべき索敵能力である。


「派手にやらかしたようだな。ここに来るまでの痕跡でだいたいの状況は把握したが」

「そ、そうやねん、しゃーなかったんやって!」


 痕跡を兄貴が調べている以上、適当に言ったところで誤魔化される兄貴ではない事はジュンは重々理解している。


 禁止されていた強化魔法を使った事も当然バレてると確信しているジュンは正当性を訴えて許しを得ようと奮闘する。


 あれこれと言い訳をするジュンの背後から溜息を零す様子を感じ取り、許される流れを経験から悟る。


「そろそろ解禁しようと思っていたところではあったし、レッサーデーモンが相手となると使わないのは苦しい戦いになっただろうしな」

「そうやねん、さすがにアレはナシではジュンちゃんもどうなったか、分からんかったしな」


 露骨にホッとした様子のジュン。


 そのジュンを見て助かったとばかりに安堵の溜息を零すジュラ。


 そんなジュンの頭に兄貴はポーションをぶっかける。


 いきなり、ぶっかけたせいか鼻に入ったようで咽るジュンを無視してジュラにポーションを投げてよこし、飲めと告げる。


 ジュンは傷が癒え、ジュラは疲労が回復したのを見た兄貴が告げる。


「お前等なりに色々と事情はあったんだろう……」


 そう兄貴が告げた時、2人の警戒心が最大級に危険を報せてくる。


 幼い頃、ジュンに至っては前世から込みの経験から逃げようとするがその前に伸びてきた両手に捕まる。


「それはそれ、折檻だ」


 ジュンは顔面を掴まれ、ジュラは鼻を抓まれる。


「い、痛いの、ジュラのお鼻が取れちゃう!」

「ジュンちゃんの叡智が詰まった柔らかい部分がピンチぃ!」

「珍しく難しい言葉を知ってたな? だが、詰まっているのは叡智ではなくエッチだ、お前の場合はな」


 ジュンの叡智という言葉はアニメか何かの引用だと兄貴は見抜くと同時に本人は意味はきっと分かっていないだろうとも。


 痛がる2人をそのまま引っ張りながら街、モルプレへと向かいながらジュラに力加減を考えるようにこんこんと染み込ませる。


 そしてジュンにも何か言おうとした兄貴だったが諦めたかのように告げる。


「ジュンは……反省しないだろうから悪い事したら痛いという事を体に刻め」

「ワイだけ酷くない!?」


 ジュンの訴えは顔を掴む力を更に込められた事で返され、ジュンの悲痛の声は夕陽だけがジュンを優しく茜色に染めた。

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