第8話 バカは解放した
「よっしゃ、コイツはワイの獲物や。ジュラ、またレイスは任せるで」
「うん」
楽しくてしょうがないという様子のジュンがジュラの返事を聞く前に飛び出す。
上段唐竹割りとばかりに大剣を振り下ろすとレッサーデーモンは両腕を交差して防ごうとするが今度は薄皮と言えない傷から血が噴き出す。
悲鳴を上げるレッサーデーモンにジュンは鳩尾を蹴り抜く。
「はっははっ、さっきとは違うで、ジュンちゃんちょっと本気出してるからな~」
ジュンはレッサーデーモンを対峙してる時にジュラの様子が見えて告げる。
「ジュラ、さっきみたいに全ツッパはすんなよ?」
「分かってる。さっきみたいに何度も呼ばれるか分からないもん」
精神集中しているジュラの言葉に、それでええ、と笑みを浮かべるジュン。
そんなジュンを血眼になったレッサーデーモンが叫ぶ。
「ん、なんや?」
その叫びと同時にレッサーデーモンを覆うように薄らと光るのをジュンは気付く。
笑みを引っ込め、眉間に皺を寄せるジュンだが考える前に飛び出し叫んだままのレッサーデーモンの胴に斬りかかる。
大剣が当たる瞬間、ジュンは気付いた。レッサーデーモンの目が笑った事に。
「うなっ」
ジュンの大剣がレッサーデーモンの腹の毛皮に触れるように止まってしまっている。
一瞬、動きが止まってしまったジュンにレッサーデーモンが殴りかかってくるが慌てて後ろに回避行動に出て拳を大剣で受け止め、吹き飛ばされる。
「ジュン君!」
「大丈夫や。後ろに飛んでダメゼロや」
ジュラの心配する声をジュンは間髪なく返事を返すが眉間に皺を寄せ、歯を食い縛る。
ジュラに空元気してダメージがあるのにないと言ったとかではない。
目の前のレッサーデーモンがはっきりと分かるようにジュンを嘲笑ったのに気付いたからだ。
「ワイはナメられるのが一番我慢ならんのじゃぁ!」
赤みがかかった茶髪を怒りから逆立てる。
前世のヤンチャな頃からこういう事には我慢ならないジュンの根幹のような気性が爆発する。
空いた距離をジュンは一瞬で飛び込むと先程失敗した胴薙ぎを敢行する。
「マジでぶっとべ――!」
今度は全力で振り抜くとレッサーデーモンは吹き飛び、背後の木々に吹っ飛び叩きつけられ木が折れる。
叩きつけられたレッサーデーモンがよろよろと立ち上がろうとするのを追撃する為に飛び込む。
「そのバリアかなんか分からんけど削り殺す」
眉間に血管を浮かべるジュンが大上段から入れる為に飛び上がるとまだ嘲笑う様子のレッサーデーモンに違和感は感じるが怒りが凌駕してるジュンは構わず振り下ろそうとした。
だが、再び、叫び出すレッサーデーモンの声と同時にジュンに異変が生まれる。
「な、なんや、おもっ!」
そうジュンが言ったと同時に地面に叩きつけられる。
倒れたジュンが四肢を使って起き上がろうとするが体が重くて緩慢にしか動けない。
「ジュン君、デバフ受けてる」
「マジか!」
どうやら先程の叫びは何らかの魔法、ジュンが空中で叩き落とされた様子からすると身体能力の低下ではなく重力がかけられたようだ。
ジュラは治療系の光魔法は一切使えない。なので解除などは出来ない。
仮に解除出来る方法があったとしてもどんどん沸き出してくるレイスの相手をしてるジュラにその余裕はなさそうである。
プルプルと震える四肢に叱咤するジュンの目の前にレッサーデーモンが立ち塞がる。
今度は目だけではなく口許にも残虐な笑みを浮かべるレッサーデーモンが拳を振り下ろしてくる。
ジュンは緩慢な動きで大剣でその攻撃を防ごうとするが中途半端に差し入れただけで吹き飛ばされて今度はジュンが吹き飛ばされてジュンの体で同じように木が折れる。
砂塵が舞うがすぐに収まり、そこには力なく倒れるジュンの姿があった。
「ジュン君、今、行く!」
ジュラはターンアンデットを全ツッパして一掃して駆け寄ろうとするがリポップするレイスに囲まれる。
「もうぉ! もう一度……」
もう一度、全ツッパしようとしたジュラであったが発動しようとした瞬間、激しい脱力を感じて一瞬倒れそうになる。
どうやらもう一度、全ツッパするには魔力が足らないようだ。
小規模なターンアンデットに切り替えてジュンに近づこうとするジュラ。
「ジュン君!」
ジュンが虐殺される未来を想像してしまったジュラの悲痛の声が響く。
残酷な現実は変わらずレッサーデーモンがジュンへと歩を進める。
だが、そのまま蹂躙されるかと思われたジュンが立ち上がっていた。
額から血が流れ、呼吸は荒く天を仰ぐジュンの姿。
レッサーデーモンは怪訝な表情を浮かべる。
何故ならば、ジュンのデバフは解除されていないのにも関わらず、先程は立つ事すら出来なかったのに立っているのだからだ。
レッサーデーモンが目を向ける先のジュンは先程と違い薄らと赤いオーラが覆われている。
同じようにそれを見ていたジュラがハッとなり、何かに気付く。
「まさか……」
その変化。
そういえばジュンに与えられた融通の3つ目の説明がまだであった。
先程述べた通り、1つ目は兄貴を道連れ転生、2つ目が剣聖。
3つ目が全魔法適性。
ジュンがあらゆる魔法を使いこなす事を目論んで神様に頼んだ。
だが、転生後に分かったのは使いこなす才能があるだけでそれだけで使えるのではなく理論などを理解する必要があった。
ジュラの光魔法でも分かるように適性だけという事だ。
バカなジュンはすぐに諦めて放棄、死にスキルと化けたのである。
ジュンが何をしようとしてるか悟ったジュラに少し弱った笑みを見せる。
「兄(にい)やんに怒られるの付き合ってくれな?」
死にスキルとなった全魔法適性であったが抜け穴があった。それに気付いたのも兄貴であったがそれを使えるようになったジュンはこれでもかという程調子に乗った過去がある。
そのせいでジュンとジュラは5歳の時に兄貴にガチ切れされる事件を起こした過去がある。
その時の事はジュンにとってもジュラも強い戒めになった。だからジュラはその後、兄貴の訓練を受けるようになった。
この力は兄貴との訓練以外では禁止されたもの。
ジュンは四肢に力を込めて叫ぶ。
「兄やんのガチ切れは怖いけど……死ぬよりはマシやぁ!!」
そう叫ぶと同時に薄らと赤みを帯びていたオーラが深紅に変わる。
ジュンの叫びを受けたレッサーデーモンがその覇気に身を固くする。
前屈みになったジュンが両足に力を込める。
「ダチョウ!」
そう呟いた瞬間、飛び出したジュンの姿は深紅のオーラだけしか視認出来ずに掻き消える。
吹き飛ばされるレッサーデーモン。
何が起こったかはレッサーデーモンもジュラにも視認出来なかったがレッサーデーモンが立っていた場所には深紅のオーラを纏ったまま大剣を横薙ぎした姿があった。
兄貴が気付いた抜け穴。
それは強化魔法だけはイメージ次第でなんとかなるというものである。
強き者、速き者をイメージしてそれに倣うというもの。今のダチョウというのもジュンが瞬発力が一番イメージしやすかったという理由から強化対象。
吹き飛ばされたレッサーデーモンがであったが、先程より衝撃があっただけでそれ程大きなダメージは入らなかったようで怒りの叫びを上げる。
「まだまだこんなもんじゃないで、ジュンちゃん激オコやからな!」
再び、ダチョウと叫んで飛び込んだジュンが下から斬り上げる時に更に叫ぶ。
「ゴリラ!」
そう叫んだジュンの細く引き締まった両腕が一周り大きくなる。
上空に吹き飛ばされたレッサーデーモンの逞しい胸には大きな傷が生まれ、それを押さえながら背中の翼で対空する。
怒りで濁った血眼をするレッサーデーモンはジュンに向かって滑空してくる。
それを見つめるジュンはイメージする。
強き牙を。
「ライオン!」
ジュンの叫びに呼応するように大剣にジュンに覆う深紅のオーラが伝う。
滑空してくるレッサーデーモンを迎撃するべく大剣を振り上げる。
「からのぉ~ゴリラぁぁ!」
再び、両腕が肥大させるジュンは歯を見せる大きな笑みを浮かべてレッサーデーモン目掛けて振り下ろす。
先程まで固かったのが嘘のように豆腐を切るように真っ二つにする。
斬られたレッサーデーモンがドドンと両端に別れるようにして地面に倒れるのを見たジュンが叫ぶ。
「どんなもんや、ワイが本気出せばこんなもんや!」
ジュンは右手を突き上げて勝利宣言した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます