第7話 バカは追い込まれると興奮する

 最初に飛びかかってきたのは数匹のゴブリン。


 そのゴブリン達をニヤリと笑みを浮かべたジュンは大剣を横に引き絞るようにして溜める。


「うっしゃ、ぶっとべ――!」


 溜めた力を解き放ち、襲いかかる数匹のゴブリンを一刀で真っ二つにしてしまう。


 ぶっとべ――と言いつつ綺麗に真っ二つという辺り、言ってる事とやってる事が違うのがジュンクォリティである。


 本来、大剣は斬るというより叩き斬るという仕様のもの。だから本来はジュンの言ったようにぶっ飛ぶのが普通のはずが真っ二つにするという規格外なのはジュンに与えられたチートによるものである。


 あの白い場所で神様に融通された3つの条件。


 1つ目は兄貴を道連れ転生。


 2つ目が剣聖である。


 この剣聖は剣、刃が付いたモノの扱いが飛躍的に成長させやすい。だから、極端な話、ナイフでも上手く成れるが大剣を使ってるのはジュンの趣味である。


 ジュンは数匹のゴブリンを一刀で始末した事で相手に警戒心を抱かせたようで大剣の届かない距離からの睨み合いに移行する。


 勿論、バカと定評のあるジュンがおとなしく睨み合いなどするつもりはない。だが、その前に


「ジュラ、レイスは頼んだで」

「うん、任せて。いっくよ~、ターンアンデット!」


 ジュラの光属性のターンアンデットが数十メートルの範囲に広がり、周りにいたレイス達が一掃される。


「さすがジュラの光魔法、半端ないわ」


 普通であれば数メートルと言われるターンアンデットであるがジュラのはその約十倍、ジュンの言う通り半端ない。


 ジュンが感心したように言い、ジュラが自慢げに頷いたと同時にブルッと身を震わせるのを見て首を傾げ、どした? と聞く。


「うん……お兄さんの特訓の日々を思い出して……」

「なるぅ」


 ジュンは納得する。


 ジュラは確かに光属性の適性はあったがどうしてか回復系、治療関係がさっぱり発動出来なかった。


 それは獣人の為かそれともジュラ独特の個性だったかは分からないが兄貴に


「ふむ、それを特化させてエキスパートになればいい。さあ、訓練を始めよう」


 そして、ジュラは6歳から今まで兄貴による思考錯誤を繰り返され、今の規格外の力を得た。


 その過程でジュラは兄貴には逆らってはいけないという楔を打たれてしまい、性格の矯正も受けた。

 本来のジュラはジュン程ではないがじゃじゃ馬なところがあり、正直言うと無謀な所もある少女だったが今ではちゃんと考える事が出来る少女に成長した。


「お兄さん本当にとんでもないし、容赦なかったし……」


 遠い目をするジュラの瞳には涙が浮かび、ウルウルしてるジュラにヘラっと笑うジュン。


「兄(にい)やんやからな」


 そう言うと同時に前に飛び出し、残るゴブリンを殲滅せんと大剣を振るう。


 草を刈るようにゴブリンを狩り続け、最後の1匹と大剣を振り上げたジュンは躊躇するように動きを止める。


「お、お前は……」

「ギャ」


 ジュンの視線の先にいたのは連れションしたアイツであった。


 2人の視線が混じり合う。


 女性には分かり難いかもしれないが男は連れションを一緒にした時、不意に生まれる連帯感を感じる時がある。


 そう、友情に似た何かが2人に生まれる。


 ジュンは2人で飲み交わした酒、一緒に路地裏で吐き、そして拳での熱い殴り合いなどが走馬灯のように脳裏を駆け廻る。


 2人の熱の籠った視線を交わし合い、そして人とモンスターという種族の垣根を越えた友情が……


「そんな思い出ないし、ソレはソレ」

「ギャギャ――!」


 なかった。


 ジュンは笑みを浮かべたまま、一度は止めた大剣をそのまま振り下ろして無残にもゴブリンを真っ二つにする。


 酷いヤツである。


 ゴブリン、レイスを一掃したジュンは辺りを見渡しながらジュラに言う。


「うっし、とりあえず駆除済んだし、この後の調査は兄やんを連れて」

「ジュン君、それなんだけど……」


 さあ、戻ろうかと言いかけたジュンにジュラが言い難そうに言ってくるのを首を傾げて続きを待つ。


 えへへ、と弱った笑みを浮かべるジュラ。


「さっき制限もせずに放ったターンアンデットがそのボスらしきのにもあたちゃったみたいで気付かれちゃった」

「はぁ?」


 どうやら思ったより近くにいたらしいモンスターを統べていたボスらしきがこっちに向かってるらしい。


 ジュンは掌に唾を吐きかけ、再び、大剣を握る。


「ワイはそれはそれで結果オーライや。やからしたのはジュラやさかい、怒られるのはワイと違うし」

「ええっ、ジュン君、助けてよ」


 ジュンに詰め寄るジュラに知らんがな、と冷たく言い放つ。


 泣きの入ったジュラが更に詰め寄ろうとするのをワクワクしているジュンが顔を手で押し返しながら告げる。


「来たようやで」


 その言葉の通り、池の畔の方向の木々を避けるようにしてくる大柄のモンスターがやってくる。


 牛頭の巨躯でミノタウロスを彷彿させる容姿であるが背中に蝙蝠を思わせるような羽根がある。


 それを見たジュラが目を丸くする。


「あ、あれ、レッサーデーモンだ」


 お兄さんの本で見た事があるというジュラが少しビビってしまったようだ。


 そこらのモンスターとは比較にならないモンスターでギリ魔族と言っていい。


 1000年前に存在したとされる魔王の眷属と言われ、現在ではこのレッサーデーモンですらほとんど目撃情報がない。


 そんなモンスターで尻込みしたジュラを余所にジュンは関係ないとばかりに飛びかかり大剣を振るう。


 しかし、ジュンの大剣はレッサーデーモンの太い腕に振り払われてジュンは元の場所へと戻される。


「かてぇ」


 それなりに力を込めたつもりだったが薄皮を切っただけで弾かれてしまった。


 レッサーデーモンが奇声を上げる。するとその周りに先程、ジュラにやられたと同数程度のレイスがポップする。


「ええ~」

「おもろなってきた」


 驚くジュラ、喜ぶジュンと両極端のリアクションをする2人。


 ジュンは本当に楽しそうに歯を見せる大きな笑みを浮かべた。

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