第10話 クローズド・サークル

「ねえ、何かの冗談?」

菅野がキョロキョロと

部屋の中を見回して声をあげた。

「ふん、馬鹿馬鹿しい。

 何がゲームだ。

 ゲームで人を殺す馬鹿がいるわけないだろ?

 わっはっは」

松平は薄い頭を自分で叩くと大声で笑った。

「ゲームでなくても人を殺す人間はいるぞ」

西岡の言葉に一瞬で部屋が静まり返った。


「門の所にいたあの女性に聞いてみませんか?」

車椅子の少女が提案した。

「そ、それなら!

 わ、わたしが呼んできます」

そう言うと六条は駆け足で部屋を出ていった。


「しかし。

 悪ふざけにしても面白くない」

松平はルールの書かれた紙を手に取ると

テーブルの上のガラスの灰皿へ入れた。

そして徐にポケットからライターを取り出して

火を点けた。

紙はあっという間に燃え上がった。

その炎を皆が無言で見つめていた。

炎は徐々に小さくなり、

灰皿には黒く焦げた紙の残骸が残された。

それを見た時、

心の中で言葉にできない不安が

チラリと顔を覗かせた。


応接室の柱時計が

コツコツコツと時を刻んでいた。


「はぁ・・。

 どちらにせよこんなことなら。

 あたしは帰らせてもらおうかねぇ」

平原が大きな溜息を吐いて

ソファーから立ち上がった。

小さく華奢な体で、

年齢も80ということだったが、

その足腰はまだしっかりしていた。

本当に魔女かもしれないと

僕は一瞬、ありえないことを考えた。


次の瞬間、

勢いよくドアが開いて、

血相を変えた六条が部屋に飛び込んできた。

「げ、玄関に・・!

 か、鍵がかかっています!」

ふたたび部屋が沈黙に包まれた。


「な、何を馬鹿なことを!

 鍵なんて内側から開けられるだろうに!」

平原は叫ぶと

六条を押しのけるようにして

部屋から出ていった。

すぐに菅野も立ち上がって後に続いた。

松平も「やれやれ」と呟くと腰を上げた。


僕は3人の出ていったドアを

ただ呆然と見つめていた。

それからふと我に返ると

ポケットからスマホを取り出した。

「無駄だよ」

僕は声のした方を見た。

西岡が笑みを浮かべてこちらを見ていた。

「さっきあの派手な姉ちゃんが言ってただろ?

 どういうわけか

 建物内は電波が届いていないんだよ」

「な、何だって・・」

「妨害電波が発生してるのかもしれないな。

 現に、建物の外では普通に使えたからな」

「それが本当なら・・。

 助けも呼べないということですか?

 どうすればいいのでしょうか・・。

 私・・。

 こんな恐ろしいゲームには

 参加したくありません・・」

塚本が震える声で呟いた。

少女の怯えた表情を見て

僕は気持ちを奮い立たせた。

固定電話があれば。

そんな期待を込めて僕は部屋を見回した。

「残念だが電話はないぜ」

僕の考えを見透かしたかのような

西岡の発言だった。

でもこれだけ広い建物なら

どこかに一つくらいはあってもおかしくない。

僕が食い下がると

西岡が露骨に面倒くさそうな顔をした。

「携帯を使用不可にしているような主催者が

 そんなミスをすると思うか?」

何も言い返せなかった。

「どうやら主催者は

 是が非でも俺達に

 ゲームをさせたいようだな」


その時、勢いよくドアが開いて

先ほど慌ただしく出ていった3人が戻ってきた。

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