第35話
ジークハルトが察したのは、その生徒の「能力」と、“クラス3の生徒”という点だった。
確かルシアやクラウスとも仲が良かったはず…
…いや、仮にそうじゃなくても、この能力は…
ルシアが“史上最年少”で鳳凰院に入学できた理由。
それは彼の「スキル」が、“特級クラス”であると認定されたからに他ならない。
『ACCP』の指標のうち、「アビリティー ability」の評価ポイントにおいて、クラス3の中では異例中の異例とされる「80」。
クラス1の生徒でさえも1つのカテゴリーが80に達する生徒は早々おらず、その数値がいかに特別であるかがわかる。
パーフェクト・コピー
ルシアのスキルの名前だ。
自分以外の対象1人のスキルを“完全”にコピーし、それを利用できる。
コピーできる対象にはこれといった制限はないが、コピーできる時間には制約がある。
スキルを発動した24時間。
この時間内であれば、コピーしたスキルを何度でも扱うことができる。
たんに相手のスキルをコピーするだけの能力なら、“特級スキル”と呼ばれることもなかっただろう。
パーフェクト・コピーが特級スキルだと言われる所以は、『ストック』と呼ばれる特殊な“保存領域”にある。
この領域において一度に3つのスキルを保持することができ、それを併用できるのだ。
単純に考えれば、およそ3人分ものスキルを同時に所有するブックメーカーとなる。
優れている点は、組み合わせ次第によって、既存のスキルの能力を越えた応用力と範囲性を持てるという点だった。
いわばコピーしたスキル同士の「互換性」を作れる、変換可能な識別コード&ソースコードを自らの「場」に埋め込むことができ、これによって“編集可能なスキル”に拡張できることが、評価されるべき一番のポイントとなっていた。
「やりやがったな」
「何がだ?」
「とぼけんじゃねぇ。スキルは使わねぇんじゃなかったのか?」
「…」
クラウスはそっぽを向いていた。
彼は顔に出やすい。
性格に裏がない分、隠し事をするのは大の苦手だ。
ここ数回の訓練では、ルシアはスキルを封印していた。
ジークハルトが指摘したのは、その部分だ。
手を抜くために封印しているわけではなく、スキルの扱いに関してうまくいかないことがあったために、使用を制限していた。
ルシアはまだ自らのスキルをうまく使いこなせてはいなかった。
コピーする能力が強力であればあるほど、そのコントロールが難しくなるという側面があった。
つい最近のことだった。
最近と言っても約1ヶ月以上も前のことだが、ある生徒のスキルをコピーした折、それを上手く扱えなかっただけでなく、同じタイミングでコピーしていた他のスキルでさえも、正常に機能しなくなった。
能力の特性上対象のスキルを完全にコピーすることはできるが、それを100%の状態で扱うためには、様々な知識と経験が必要だった。
まだ、自らの「スキル」を持て余していた。
あえて使用しないことで、スキルの扱いそのものを客観視しようとしていた。
「基礎」を、築いていこうとしていた。
ルシアなりの考えだった。
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