第32話
「ぐぼぁ!」
衝撃と同時に、ジークハルトの口から唾が飛ぶ。
死角から飛んできたその「パンチ」は、一直線に顔の真ん中を捉えていた。
力強く握りしめた拳が、メキッと頬骨の表面にめり込んでいた。
重い衝撃音が波打つ。
踏みしめたままの下半身と、窪む地面。
——ッ
振り切った右腕の先端に走る衝撃は、彼の身体を吹っ飛ばすのに十分な威力を持っていた。
接触と同時にジークハルトの体が浮く。
その挙動は“不自然”だった。
クラウスは確かに右腕を“振り切って”いるが、体全体の動きは「前」へと傾いていた。
ジークハルトが身構えたように、真正面へと右腕は向かっていた。
体の正面、接触面積の多い、——ボディに。
ズザァァァ
受け身も取れないまま、芝生の上に勢いよく倒れ込む。
大の字に倒れるその様子を見るや、クラウスはド派手なガッツポーズをかましていた。
「よっしゃああああ」という大声が、スタジアムに鳴り響く。
白い歯が、響き渡る声の下に露わになっていた。
爆発する感情を抑えようとする素振りもなかった。
隠すつもりもない“喜び”を、剥き出しにしたまま。
してやったり顔。
ニヤァという、満面の笑み。
クラウスはこの日いちばんのドヤ顔で、ジークハルトの方を見ている。
まさかの展開だった。
もろに顔面にヒットした。
それは間違いなかった。
それに一番驚いていたのは、他でもないジークハルトだ。
「…おいおい」
「ザマーミロ!」
…一体何が起こったのか
整理しようとしていたが、思うように動けない。
クラクラする頭を手で押さえる。
(…バカな)
クラウスが何やら罵声を浴びせているが、ジークハルトの耳には届いていなかった。
それよりも、彼は起こったことを振り返ろうとしていた。
確かにボディに向かって右腕が動いていた。
見間違いなんかじゃない。
クラウスの視線も、連動するモーションも。
…だとしたら、どうして顔面に…?
わけがわからない。
わかっているのは、自分が地面に倒れているということだけだ。
絵に描いたようなドヤ顔で、ギャーギャー騒いでるガキが1人。
…いや、待てよ
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