第26話
グッ
沈んだ上体を屈ませながら、前へと進む力を利用する。
ダッキングによって攻撃に角度をつける。
狙いは顔ではなく、——下。
ジークハルトの体は真横へとスライドしていた。
クラウスが動いた時には、まだ始動していなかった。
前へと突っ込む間際、微かにジークハルトは右足を下げていた。
引き付けるだけ引きつけて、攻撃が届かないギリギリの境界上へと線を引く。
近すぎず、遠すぎず。
反面、クラウスは全力で地面を蹴っていた。
出力を高めるだけ高め、踵を持ち上げる。
自分の領域の中へと、——動く。
打撃に必要なスピードと威力は、下半身をいかに連動させるかにかかっている。
1つ1つの攻撃が手打ちにならないためには、しっかりと体重を乗せなければならない。
伸び切った右足。
跳躍するための“バネ”。
蹴り出した地面の上で、土埃が舞う。
一見すると、それは「突進」にも見えた。
ジークハルトへと向かうための足取りは、尚も積極的な忙しさを、1つの動作の中に運んでいた。
しかしそう思えたのも束の間だった。
爆発的な初速の内側で、自らの動きを制御するためのステップを踏む。
勢いよく前に飛び出した力をコントロールする。
そのために必要な力は、すでに下半身に預けていた。
ザザザザァ——ッ
ジークハルトの動きを予測する。
どのように動くか、頭の中でシュミレートしていた。
何度も手合わせをしていくうちに、それとない動きの“癖”を読み取れるようになっていた。
行動のパターンがどのように分布しているか?
ジークハルトが取る選択は?
そういった部分を、クラウスなりに分析していた。
考えて動くようなタイプではないが、彼の「虚」を突こうとした。
掴んだ地面を押し込むように膝を曲げる。
ジークハルトの進行方向に向かって、視線を傾けた。
タイプ1
この日のために練習を重ねていた。
焔武装は、彼が編み出した独自の技だ。
それ故にまだまだ改良の余地があり、全体的にも部分的にも、「技」としての精度を高めていく必要があった。
タイプ1にしろ2にしろ、それが「完成形」であるとは言えなかった。
タイプ2に移行した状態で、タイプ1を併用させることはできるか?
ルシアと教室で話し合っていた。
最初はイメージでしかなかったが、エネルギーの絶対量をうまくコントロールすれば、部分的により強力な“効率性”を構築することができるのではないか?
理論上は可能であるが、そのためには技そのものの熟練度や、エネルギーの操作性をより具体的に磨いていかなければならない。
2をベースにしつつ、1を「動き」の中に差し込んでいく。
当然、それに伴う身体へのダメージは計り知れない。
より強力なエネルギーを出力するためには、それを収めるだけの「容量」が必要になる。
エネルギーの出力に耐えうるだけの物理的な領域が身体の“中”に存在している以上、闇雲に強化を行うことはできなかった。
2は、あくまで準備期間を経ての強化だ。
1に比べて使用までに時間がかかる分、肉体的な強化レベルを底上げすることができる。
しかし、2の使用中にさらに負荷をかけるとなると、その分指定した場所の肉体的な組織破壊が起こり、行動そのものが行えなくなる危険性があった。
ただ、もしも、その一撃で相手を倒すことができれば——
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