第25話



 ドンッ




 直線。



 ——やはり



 ジークハルトは、構えた状態から右側へとステップする。


 ベースを上げても、動きそのものの基本動作は変わらない。


 スペースを開け、繰り出されるパンチの軌道を読んでいた。


 避けるのは造作もないが、ただ単に避けるのではなく、クラウスの動きのレベルに合わせようとした。


 ファイターとしての質を上げるためには、動きのベースを上げることがもっとも肝心だが、それを扱うための多くの引き出しを持つことも、等しく重要だ。


 どうすれば攻撃を当てられるか。


 そのために必要なヒントを、ジークハルトなりに散りばめようとしていた。


 クラウスは下半身を中心に攻撃のモーションを連結させる。


 左から右。


 右から下。


 踏み込んだ足を交差させる。


 ジークハルトの影に重なるように、左足が食い込む。


 地面を掴んだつま先に乗っかるように、膝が深く沈む。


 連動する動作の中で、上半身が勢いよく傾く。


 ダッキング。


 上半身を前に傾けることで、相手のパンチの軌道から頭を守る。


 ただし、クラウスは腕を下げていた。


 攻撃を避けるために屈んだのではない。


 攻撃の動作の中で相手の動きを予測し、スペースを作る。


 ジークハルトがどう動くか、ある程度は予測できた。


 右足を軸に移動したステップは、上半身をより近距離へと運ぶための土台を作りつつ、立体的な動作の「接点」を作っていた。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る