第19話



 「相変わらず芸がねぇなぁ、お前は!」



 矢継ぎ早に攻撃を繰り返すクラウスの攻撃を全て躱す。


 その身のこなしは軽やかで、かなりの余裕がある。


 反対に、クラウスは息が切れつつあった。


 手数が多く、攻撃のバリエーションも豊かだが、ジークハルトとの距離は開く一方だ。


 最初の一撃こそ至近距離まで踏み込めたが、それ以外はからっきしだ。


 クラウスが動く動作に合わせて、ジークハルトも動いている。


 外から見ればギリギリの攻防をしているように見えるかもしれない。


 それくらい、“近い距離”でやり取りをしていた。



 「ちょこまかすんな!」


 「ハハッ。勢いがあるのは口だけか?」



 まるで、届く気配がない。


 それを間近で感じていたのはクラウスだ。


 近い距離であればあるほど、手合わせをする相手との間合いの「広さ」が、立体的な感覚の中に掴めた。


 踏み込んだ時の感触。


 繰り出した攻撃のスピード。


 そのどれもが、柔らかいスポンジの上のような質感を含んでいた。


 はっきりとした手応えがなかったのだ。


 目の前にある距離以上に、ジークハルトを遠く感じた。

 


 「それじゃあダメだな」



 痺れを切らしたように、ジークハルトは迎え撃つ。


 両腕は組んだままだった。


 オープンスタンスで踏み込んだクラウスの左ストレートを、右足1つで受け止めた。



 ドンッ



 重い接触音が、サンダルの靴底で響く。


 ただのサンダルならすでに燃え尽きているところだ。


 それくらい、威力があった。


 ブックメーカーの多くは「ナノバイト」と呼ばれるナノ炭素材料でできた装備品を身につけており、ジークハルトのサンダルもその素材でできていた。


 ナノバイトとは最も軽量で極めて高い電子移動度を有し、導電性や熱伝導性、力学特性などに優れたナノ炭素材料である。


 電子材料への応用が期待できるだけでなく、プラスチック等にその素材の強度と復元力を高められるため、汎用できる新たな素材としても期待されている素材だ。


 戦闘服や防具、軍用品の多くにもこの素材が流用されており、その使用用途は多岐に渡る。


 クラウスやルシアも同様、この素材を使った高分子繊維の服を着用していた。

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