第18話


 あらゆる生物の細胞内では、細胞を構成する“量子領域(ゼロポイントフィールド)”となる部分が絶えず循環しており、これがいわゆる“エネルギーを出入り”させるための運搬路になっている。


 細胞分裂学に於ける一つの定義としては、生物という存在は皆、“0と1の間に連続している事象形態の一種“とみなされており、この意味に於いてより具体的なことは、ある特定の位置、及び時間に於いて、「100%の位相不変量」を持つことがない連続体である、と形容することができる。


 描こうと思えばどんな図形でも描くことができ、逆にこれといった「形」というものが、現在進行形において存在しない。


 物質と非物質の境界を絶えず行き来しており、その過程において“図形を構成する点の連続的位置関係”を生み出すポイントを、非定常場の量子空間において“ある有限な領域に連結”させている存在。


 平たく言えば、そういうことだ。


 人とは黒であり、白でもある。


 「1つ」という決定的な事象ではなく、“事柄”でもない。


 途切れのない「変化」の中に生き続けているもの。


 水のように、決して一つの場所に留まることがないもの。


 ここからここまで、という“境界線”を持たないもの。


 少なくとも、「存在」という観点で見れば、そういった数学的な見方ができる。


 μ粒子というのは、その「核」となる部分であり、魔力全般を構成する“連続変形可能なグランドポテンシャル(点と点を自由に連結させるための量子場)”であると言える。



 ジークハルトは、「魔力」の扱い方を2人に教えていた。


 生命活動を維持するために必要なエネルギーの大半は、“魔力を扱う”という観点で見ればなんの役にも立たない。


 人間には生まれつきμ粒子を扱うための「ポケット」のようなポテンシャル領域が存在しているが、その領域を外へと拡張できる者はそう多くない。


 魔力は「外」へとエネルギーを放出する力だ。


 この“放出”という意味は単純に内から外へというイメージではなく、「単位時間あたりに動ける範囲を広げる」という意味のエネルギー流域のことを指す。


 人間の持つポテンシャルには無限の可能性が含まれており、μ粒子はその可能性を押し広げるためのもっとも重要なパーツであると言われている。


 一つの動作、呼吸の取り方を取っても、「運動」という領域に関与するスペースには自由エネルギーの有効場となる「可動域」が存在し、“時間の経過によって進行できる距離の上界値”が自ずと算出できるようになる。


 この「壁」を打ち壊すことができるのが、つまり『ブックメーカー』と呼ばれる者たちの持つ“潜在能力”であった。

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