第15話



 ドンッ




 土埃が飛散する。


 火花を散らしたように、重力が持ち上がる。


 掴んだ地面を蹴り上げる。


 ——その下で、爆発的なスピードが生まれた。


 しゃがんだ姿勢のままだった。


 低い体勢のまま、ジークハルトの足元に潜り込む。



 「喰らえ!」



 右手に溜め込んだエネルギーを解放する。


 右腕は赤い炎に包まれていた。


 『焔武装』と呼ばれる、クラウス独自の強化技だ。



 ボッ



 突進しながらの一撃は、空気を切り裂くような音を残しながら疾走した。


 スウィングした右手の軌道に乗って、炎が放出された。


 炎は”副産物“だ。


 焔武装は、肉体的な強化に使われる技。


 つまり、一撃に込めていた。


 左足に集中したエネルギーを支点として、右手をスウィングするための力を”運んで”いた。


 中途半端な攻撃が通用しないことはわかっていた。


 全体重をジークハルトに向け、攻撃する。


 命中すれば決して無傷ではないだろう。


 それだけ、クラウスには自信があった。



 ザザザザザァァ



 右手には感触が無い。


 ジークハルトは寸前で避けていた。


 クラウスは右腕を振り切った姿勢のまま、数十メートルほど前に走り抜けていた。


 止まれなかったといった方が正しい。


 それだけ、勢いがあった。



 「チッ」



 悔しがるクラウスをよそに、ジークハルトは不敵な笑みを浮かべている。


 皮一枚届かなかった。


 いや、実際にはもっと距離があった。


 ギリギリまで近づいていた。


 視界の中で、肥大化する「姿」があった。


 ジークハルトの、ガラ空きの懐が。




 右足を地面につけ、勢いを殺しながらブレーキをかける。


 クラウスが駆け抜けた地面の上は、焼け爛れたようなスライド痕が刻まれていた。

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