第3話:立ち往生

 こちら、吸血姫です。私、少々寝ぼけていたのかもしれません。深層の聖域は、「迷宮」奥深くにあります。地上に出ようと思ったら、「迷宮」の中層部、上層部を突破しなくてはなりません。

 

 私は、「イリア」の記憶があるのと、種族特性で夜目が効くので、煉瓦らしき素材で綺麗に舗装された下層部はそこらを徘徊する怪物たちをうまく避けながらも、するすると進んでいけたのでした。戦って進まない理由は面倒くさいというのもありますが、今の私が空前絶後の弱さを誇っていることも要因の一つではあります。吸血をしない吸血鬼である私は、何百年もの眠りを経て、一般的なヒト族の兵士より少し強いかな?くらいの力しか持っていません。もし深部の魔物に見つかったら、数瞬もしない内にr-18指定のミンチになってしまいます。吸血鬼としてある程度の再生能力を持ってるとは言え、ミンチは嫌ですよ、流石に。ってか、いくら吸血鬼でも普通に死にます。

 

 と、まあそんなこんなで息を潜めながら、私は今中層部の1番広い階層にいます。面積的には1番広いはずなのですが、中央に一本の太い道があり、それ以外はコポコポと音を立てながら発泡する毒の沼地が広がっているため実際よりも狭く感じます。

 

 そして道の中央で目を光らせているのは鈍重そうな胴体に四本の短い足、竜鱗に覆われた三叉の首をもつ怪物。前世風にいうと、「三叉亜竜レッサー・ヒュドラ」がおわしますのです。「三叉毒竜ポイズン・ヒュドラ」や、「三叉地竜アース・ヒュドラ」のような上位種みたいに厄介な種族魔法を使うというわけではないのですが、それでも、巨体からくるパワーと三つの首が別々に攻撃してくる予測不可能性は十分な脅威です。

 

 そんな怪物ヒュドラ相手では、横をすり抜けるのも少々厳しいと言わざるを得ません……が。

 

 ご心配には及びません。作戦は既に立案済みです!

 

 けどまあ、私が頑張ってどうにかできるレベルの魔物ではないですけどね。

 ……なので、私は岩の影で休憩をとることにしました。果報は寝て待て。悩みに悩みまくった末に、偶然の「魔力感知」でサーチできたちょうど迷宮を下ってくるであろう冒険者様方にヒュドラを倒してもらおう!という作戦です。

 

 そういう作戦なので後は待つだけなのですが――しかし、やるべき事がなくなると暇、ですね。こういう待ち時間があると生活必需品であるスマートフォンが欲しくなります。


 ないものねだりをしてもスマートフォンが出てくるわけではないので、仕方ない。横にでもなりましょうか。ゴツゴツした岩肌は若干の冷たさを伝えてきます。――棺桶が恋しいです。


 そうそう、暇潰し程度に話しますが、吸血鬼といえば棺桶が好きというのは前世でもよくある設定ですよね。何故だろうと思った人も多いはずです。そこで吸血鬼である私からお伝えしましょう。


 ……何故でしょうね?よく考えると明確な理由は思い当たりません。なぜか入ると落ち着くんですよね。布団をかぶって寝ると安心するみたいなもののような気もします。吸血鬼という種族の本能かもしれません。……知らんけど。


 と、くだらないことに頭を悩ませているとやっと眠くなってきました。長い長い時間休眠していたというのに、吸血鬼は便利な身体ですね。寝ようと思ったらいくらでも寝続けられます。もちろん、起きようと思ったら長い間睡眠なしでも生きれますし、長いこと寝ても寝起きの頭痛なし!です。控えめに言って最高ですね。……起きる時がしんどいんですけどね、低血圧なので。


 ……では、そろそろ眠いのでおやすみなさい。景色が滲んでいき、ゆっくりと眠りに落ちました。

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