第29話 ネネ1 外野守備練習

 高浜先生がノックしてくれて、フライが飛んでくる。

 私は追いかけていってボールを捕ろうとするが、簡単にはいかない。

 ときどき目測を誤る。

 ダーッと背走してくるりと振り向くと、行き過ぎていたり、左右にずれていたりして、ボールがポトリと落ちる。


「あー、失敗したのじゃ」

 先生は「ドンマイ!」とは言ってくれない。「下手くそ!」と言う。

 私、千佳っち、ランランの3人は外野を守ることになって、このところ守備の特訓を受けている。


 先生がノックして、3人で順番に捕球する。

 ライト、センター、レフトの順。捕球に失敗しても、次の人に移る。

 レフトの私の番が終わると、ライトの千佳っちに戻る。


 最初はほとんど動かないで捕るイージーフライの練習をした。

 簡単そうでいて、意外とむずかしかった。

 硬球が高々と上がり、落ちてくる。どういうタイミングでグラブを出せばよいのかわからず、へっぴり腰で受け、はじいてしまった。


「顔の横あたりにグラブを出して捕れ!」

「はいなのじゃ」

「捕ったら、グラブをはめていない方の手で蓋をしろ。こぼすな」


 だんだんとイージーフライは捕れるようになった。

 次に練習したのは、前方に落ちるフライ。

 前進してキャッチする。

 初めは少し前に出るだけで捕れるフライ。

 しだいに前に走って捕るフライへ移行していった。

 うまく捕れず、ワンバウンドも捕りそこねて、後逸してしまうことがあった。


「下手くそ! 捕れないボールは無理をするな。ノーバウンドでキャッチできるかどうかしっかり判断して、だめだと思ったらあきらめて、確実にゴロを捕れ」

 一度ジャンピングキャッチを試みたら、激しく怒られた。 

「飛ぶんじゃねえよ! ファインプレーなどいらん! 堅実な守備をしろ!」

「すみませんなのじゃ」


 そして最近は、守備位置後方へ飛ぶフライを捕る練習をしている。

 これはむずかしい。

 何日も繰り返し練習する。


 千佳っちは3人の外野手の中で一番器用だった。最初に捕球のコツをつかんだ。

 球が宙を舞う。ボールを見ながら半身で走って、落下点に入る。グラブを顔の横に出してキャッチ。

「よっしゃ」

 ガッツポーズ。楽しそうだ。


 ランランは足が速い。勘も良い。ボールをちらっと見て、目測の落下点へ向かって走り、振り向いて捕球するようになっていった。


 私が一番上達に時間がかかった。

 目測で追うのはやめた。すべてのフライをしっかりと見ながら、半身で追うことにした。捕れるボールを確実にキャッチ。

 半身の走りでは追いつけそうにない大フライは、早々に捕球をあきらめ、落下点へ急ぐ。

 たいてい追いつけずに球はバウンドし、転がっていく。走っていってつかむ。

「それでいいんだ。ほどほどのプレイができりゃあそれで充分だ」と監督は言う。


 送球の練習もした。外野から2塁へ投げたり、ワンバウンドでホームベースへ投げたりする。

 私は自分の肩がけっこう強いことを知った。

 遠投力は千佳っちやランランを上回っていた。

 私にもとりえはあったのだ。


 青十字高野球部には優れた選手がいる。

 空尾さん、時根くん、方舟先輩はかなり上手で、本気で甲子園をめざしている。

 彼女たちが甲子園へ行くということは、私も行くということだ。

 私は初心者だが、がんばって初心者の域を脱し、初級者になり、中級者へと進歩していきたい。

 野球を初めて4か月で、全国大会にレギュラーで出場する。

 実現したら、物語みたいだ。

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