第28話 高浜1 勝てるチームづくり

 4月26日までとんとん拍子に部員が増え、9人が揃った。

 この調子ならもっと増えるだろうと期待したが、野球部の好運はそこで打ち止めだった。

 部員増加はストップした。

 試合ができるギリギリの人数のまま、5月のゴールデンウィークが明けた。


 俺はこのメンツで試合に勝てるチームをつくろうと決意した。

 そう思わせてくれるだけの逸材がいる。

 空尾凜奈と時根巡也。

 このふたりがいれば勝つことは可能だ。

 空尾が投げて0点に抑え、時根がホームランを打てばいい。


 全国高等学校野球選手権大会S県予選は7月11日に開幕する。

 5試合勝てば、7月28日に行われる決勝戦に進出できる。

 6連勝すれば甲子園出場。


 青十字高校の過去最高戦績は準決勝進出。ベスト4だ。

 俺が3年だった年のこと。もう20年前の話だ。

 空尾は本気で全国大会に出るつもりのようだ。

 ならば俺もそのつもりでチームをつくる。

 5月9日月曜日、俺は部員たちの前で話した。


「予選は7月11日に始まる。あと2か月で勝てるチームをつくらなきゃならねえ」

 部室の中に俺を含めて10人がいる。手狭だが、落ち着くスペースだ。ここなら煙草も吸えるしな。

「攻撃の戦略を言う。1番に時根を据える。全打席ホームランを狙っていけ」

「ええ~っ」と時根が言うが、

「それしかないよね。監督はわかってる」と空尾はつぶやく。


「守備の戦略を言う。空尾、全試合完封しろ」

「やっぱり監督はわかってる。それしかない」

「先生、あたしを使わなければ負ける!」と草壁が叫ぶ。

「おまえは2番手だ。エースになりたければ、時根を抑えられるようになれ」

 練習で草壁は時根にめった打ちされている。空尾と時根では、面白い勝負になる。つまり空尾と草壁を比べると、空尾が上ということだ。


「これからはポジションを固定して練習していく。2か月で守れるようになれ。内野を重視する。野球経験者に守ってもらう。初心者は外野に置く」

 それが順当だよな、と雨宮がつぶやく。


「ポジションを告げる。投手、空尾。1塁も守れるようにしておけ」

「はい」

「捕手、時根」

「はい」

「ちっ、正捕手は取られちまったぜ」

「1塁手、草壁。投球練習もつづけておけ」

「エースになってやる!」

「2塁手、雨宮」

「きっつー。2塁かよ」

「3塁手、能々」

「あのあの、わたし、ピッチャーがいいんですけど」

「遊撃手、方舟」

「はい」

「ライト、志賀」

「はい。9人しかいないから、先発するんよね。怖……」

「センター、胡蝶」

「はい」

「レフト、毬藻」

「はいなのじゃ。がんばるのじゃ」

「以上だ。各自全力を尽くせ」


 内野を重視すると言ったが、現時点でそれなりに守れそうなのは、ショートの方舟しかいない。

 捕手だった雨宮にセカンドは荷が重いだろうし、ソフトボール選手の能々を経験者扱いしなくてはならないのはいかにもつらい。ファースト草壁には不安しかない。

 それでもこの陣容でやるしかない。これが最善だ。

 外野陣は特訓して、守備範囲のイージーフライくらいは取れるようになってもらわなくてはならない。幸い、3人とも筋がいい。鍛えがいはある。


「千佳ちゃん、外野には飛ばないから、安心していいよ」

 空尾は気楽なことを言っているが、まだ1年生で、高校野球の試合経験はない。どこまでやれるか未知数だ。

 まあいい。負けても命を取られるわけじゃない。

「練習してこい! 俺は1本吸ってから行く」

「先生、ここは禁煙ですよ」と時根が言う。

 俺はかまわずに吸う。

 部員たちがグラウンドへ向かっていく。 

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