第14話 喜多会長と草壁先輩

 4月21日の放課後、きみと僕と志賀さんは部室へ行った。

 僕は外で待ち、きみたちは部室の中で制服から体操服に着替える。次いで、僕も。

 僕たちは青十字高野球部のユニフォームを持っていない。

 草壁先輩がやってくる。先輩はユニフォームを持っているから、もちろんそれに着替える。

 4人揃ってグラウンドへ向かおうとしたとき、僕たちの前に生徒会長の喜多緑さんが現れた。


「こんにちは」と喜多会長が言う。

「こんにちは」と僕たちは答える。


「こんなことは言いたくないのだが、野球同好会に好ましからざる人物が加入したようだ」

 会長は情報の入手が早い。

 明らかに草壁先輩のことだが、彼女はきょとんとしている。自分がそういう人物であるという自覚がないのだろう。

「誰だそれは?」と先輩は言う。

 会長は口をへの字にした。


「きみだよ」

「えっ、あたし?」

「きみ以外に誰がいる?」

「あたしは新入部員じゃないぞ。以前から野球部にいる」

「退部してなかったのか? 冬に高浜先生から、野球部員はゼロになったと聞いたんだが」

「退部なんてしてない」

 喜多さんの表情がさらに険しくなる。


「ならば言い方を変えよう。好ましからざる人物がまだ在籍しているようだ」

「失礼だな。何者なんだ、あんたは?」

 会長は驚愕する。

「ボクを知らないのか、2年生のくせに」

「知らない」

「生徒会長の喜多だ。覚えておいてくれ」

「わかった。なるべく忘れないようにするよ」

「時根くん、空尾さん、そして……」

 会長は志賀さんを見た。

「い、1年の志賀千佳です」

「志賀さん、きみたちは野球部をぶち壊したこの草壁さんと一緒に、部の再建をするつもりなのか?」

 それを言われると苦しい。


「草壁先輩は優秀なピッチャーです」

「そんなことはどうでもいい! 伝統ある野球部をたったひとりで破壊した女だ! ボクは生徒会長として、その事件に心を痛めていた。きみたちが部を復活させようという意志を持っているのを知って、とても喜んだ。しかし、ぬか喜びだったようだ。こんな人を許して、一緒に活動しようとするとは!」

「先輩は犯罪をおかしたわけではありません。僕たちには断罪できません」

「ただの犯罪者よりタチが悪い! こいつは男と女の敵で、最悪の部活クラッシャーだ!」


 喜多会長ははっきりと怒った表情になって、右手の人さし指を草壁先輩に突きつけた。

 先輩は言い返そうとして、口ごもった。四股は悪いことで、自分が野球部を壊した元凶だと、彼女は昨日知った。


「草壁先輩と話し合いました。先輩は悔い改めています。もう二度と同じあやまちは繰り返しません。そうですね、先輩?」

「あ、ああ、なにが悪かったのかわからんが、もう二度としない」

「なにが悪かったのかわからんって言った! 全然悔い改めてないぞ!」

「先輩は子供のように無垢な人なんです。僕たちが教育します」

「こいつの行動に責任を取れるのか?」

 僕も言い返せなくなった。草壁先輩の行動に責任を持つのは、相当にリスクが高い。


「責任なら取ります」と言ったのは、きみだった。

「空尾さん、どう責任を取るつもりだ?」

「もし今後、草壁先輩が道義にもとることをしたら、野球部は活動を無期限停止します。これでどうですか?」

「きみは単なる野球同好会の一員じゃないか。部の責任者ではない。きみの言葉にはなんの重みもない」

「ワタシが部長だったら、耳を貸してもらえますか?」

「部長の言葉なら、一定の重みがあると認める」

 きみは僕と志賀さんと草壁先輩を見回した。


「ワタシが部長でいいと思う人は、手を挙げて!」

 3人が挙手した。

「これでどうです、喜多会長?」

 会長は一瞬押し黙った。

「それでもきみは部長ではない。野球同好会長だ」

「近いうちに部にしてみせます!」

 ふっ、と喜多緑さんは笑った。

「面白い。やってみるがいい。ただし言質は取ったぞ。次に草壁さんが問題を起こしたら、無期限活動停止だ」

「いいですよ。先輩は問題なんて起こしませんけどね」

 喜多会長はきみと草壁先輩を交互に睨みつけ、校舎に戻っていった。

「ありがとう~」と言って、先輩は泣いた。

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