エピローグ
数十年後ーー
その日は、穏やかな小春日和。まだ蕾の桜を眺めながら、少年は人を待つ。と、向こう側から誰かが走ってくる。スカートを揺らめかせてやって来るその少女を見て、少年はパッと笑顔の花を咲かせた。
「湊!」
「おまたせ、
にっこりと微笑む少女。いつも通りの可愛さを放つ彼女に照れる。僕の彼女は今日も可愛い、と。
「遅くなってごめんね」
「謝らないで。僕も今来たばかりだから」
「そんなこと言って、待ってたくせに」
事実を言い当てられて駿矢は顔を赤らめる。隠し事ができない彼氏に、湊は悪戯っぽく笑い声を上げた。
「素直だねえ」
「もう、僕のことはいいからっ」
照れ隠しのために、少年は彼女の手を握った。
「それで、今日はどこ行きたい?」
「うーん、どこでもいいけど……あっ、じゃあフラワーパークは?丁度新しいお花が咲いているみたいなの!」
手を繋いで歩く2人は恋仲。それも、人間とAIの。
科学技術の発達に伴い、AIも数十年前とは比べ物にならないほどの進化を遂げた。種類によっては、殆ど人間と似たようなものもあると言う。
それも合間ってか、人間とAIの恋愛が法律的に許されるようになった。多くの制約や条件はあるが、それさえクリアしてしまえば人間の恋人同士と変わらない。
昔は絶対に許可が降りなかったこと。それが、今や現実と化している。
機械と動物。それは一見、妙な関係にあるが、手を繋ぐ少年と少女は、この上ないほど幸せそうだった。
ふと、湊が足を止めた。連なり、駿矢も止まざるを得ない。どうしたの。と尋ねようと駿矢が見た湊の視線の先には、とあるポスターがあった。彼女は食い入るようにそれを見つめている。
『AIと人間の関係の法律改正を目指して』
それは、過去の選挙ポスターだった。AIにかんする法律改正を目指すという公約と、1人の男性の写真が映し出されている。それを見て、駿矢はあっと声を上げた。
「お父さんのポスターだ」
「うん。まだ貼ってあったんだね。お父さん、当選したんだよね、この選挙で」
「そう。それで、法律改正を本当にしちゃうから凄いよ」
彼の父、暁美坂駿は、今や新たな時代を切り開く政治家の1人として世のために尽くしている。そんな立派な人がいたおかげで、長い道のりではあったがAIとの恋愛に関する法律が変わった。
「私と、駿矢が付き合うのを許してくれたことも」
「そうだね。父さんは、本当にAIのことを想っているんだ」
正直、駿矢は湊を紹介するか否か迷っていた。だが、彼女に背中を押されたことで思い切って付き合っていることを公言した。すると駿矢の父は、一瞬驚いたように目を見開き、かと思えば泣きそうな表情を浮かべた。滅多に見ない父の表情の変化ぶりに戸惑う駿矢だったが、無事許可を得れたことで、2人は今こうして恋人となっている。
「本当に、父さんには感謝しきれない」
「私もだよ。駿矢のお父さんが良い人で本当に良かったって思う」
そう言う湊の瞳は、ほんの少しだけ潤んでいた。それが何の感情を示すかは、誰にも分からない。けれどそれは、確かに人間も浮かべるものだった。
「ごめんね、急に止まって。行こうか」
「そうだな」
2人は再び歩き出した。
恋は不平等 葉名月 乃夜 @noya7825
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