オマージュ(星新一)

筋肉こそがすべて

 ジョナサンは「筋肉こそがすべて」という考えの持ち主であった。

 子供の頃から様々なものを犠牲にして、ボディビル・コンテストで世界一になると、自分のなまえを冠したフィットネス・ジムやプロテイン販売の会社などを経営して、巨万の富を得ていた。

 多くの者がジョナサンをうらやましがったが、彼からすれば、「おまえたちがだらしない暮らしをしている間に、俺がどういう生活をしていたと思っているんだ」と一人憤りつつも、「俺はおまえらとちがって、選ばれた人間なんだ」と優越感に浸っていた。


 そんなある日、ジョナサンのもとへ、幼馴染おさななじみのマイケルがやってきた。

 みすぼらしい格好をしたマイケルはジョナサンとちがって、背が低く、太っていた。マイケルは子供の頃から頭がよく、名門大学を卒業していたが、その後は就職せずに発明を生業なりわいとしていた。

「実はね。ジョナサン、ビジネスの話なんだが……」

とマイケルが鞄の中から書類を出そうとする手を、ジョナサンが止めた。

「マイケル。俺に話を聞いてほしければ、まず、その醜い体型をどうにかして来い。そんなぶよぶよの体をしたやつと、俺はビジネスの話をする気はない」

 すると、マイケルはあきれた口調で「僕は自分のこの体型を気に入っているんだ。誰も彼もがマッチョになりたいわけではないよ……。ジョナサンにも良い話だと思ったから、まず、幼馴染の君のもとを訪れたが、もういいよ」と言うと、帰ってしまった。


 それからまたしばらくしたある日、テレビを観ながら、ジョナサンが日課のトレーニングをしていると、マイケルが画面に現れた。

 ジョナサンがテレビに近づくと、インタビュアーが興奮気味にマイケルを紹介した。

「トレーニングや食事制限をせずに、だれでもマッチョになれる。しかも副作用がない。そんな夢の薬をつくられた、発明家のマイケルさんにお話を伺いたいと思います……」

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