修行の成果
エヌ氏はひとり、山奥で暮らしていた。
基本的に、自分で採ったり、育てたりしたものを口にし、獣肉と酒だけでなく、女色も遠ざけていた。
雨が降っていようが、雪が舞っていようが、エヌ氏は呪文を唱えながら山中を駆け、滝行を行ったのち、その昔、修験者が建てたとされている神社へ出向くのを日課としていた。
もはやエヌ氏しか通わぬ、その朽ち果てた社で座禅を組み、彼は精神の修養に努めた。
そのような厳しい修行の日々の果てに、第六感の高まりをおぼえると、エヌ氏は念入りに斎戒沐浴を行い、身の穢れを落としたあと、自分で建てた道場に籠る。
そして、幾日も一心不乱に呪文を唱え、神との一体感をおぼえたところで、彼は立ち上がり、道場のすみにある机へ向かうのであった。
机の上には、「数字選択式宝くじ ロトシックス申込カード」と鉛筆が置かれている。
椅子に坐ったエヌ氏は、さらに第六感を研ぎ澄ませ、神に何度も問う。
「我に、一等最大6億円の番号を教えたまえ。教えたまえ!」
ここまで来ると、エヌ氏はトランス状態に入っており、「ウンニャラハリャリャリャハァ」などと、訳の分からぬことを口にしつつ、無意識のまま、申込カードにある43個の数字から、6個の数字を選ぶのであった。
それが終わると、精魂尽き果てたエヌ氏は、毎回、机に倒れ込むんだ。
申込カードに記入した翌日、エヌ氏は山を降りて街まで出向き、宝くじ売り場でロトシックスを購入したのち、みずほ銀行の支店へ入った。
前に当たった3等の当選金を受け取るためだ。
今回は三十万円が懐に入った。これでまた、エヌ氏は修行というか、夢を追い続けることができた。
「しかし、よくお当てになりますね」
女性行員が金を渡しながら、エヌ氏に声をかけた。3等や4等を頻繁に当てるエヌ氏は、その支店で知られた存在だった。
「いや、まだまだ、修練が足りません」と、髭面のエヌ氏は不満げに答えた。
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