トリだからさ……

 俺はわざと大きな音を立てながら、まな板の上のねぎを切っていった。

 その音が、俺の怒りと憤りを表していることが、ロープでがんじがらめにされて、床の上で身動きが取れないトリにも伝わっているのだろう。トリはガタガタと震えていた。

 切ったねぎをボールへ入れ終わった俺は、ハンマーを右手に持ち、床にころがっているトリを見下ろした。

 ペチ、ペチ。

 俺がハンマーで、自分の左の手のひらを叩く音だけがキッチンに響いた。


「俺はねぎまが好きなんだ」

「助けてくれピイ。僕を食べてもおいしくないピイ」

「またまた。ふくろうの肉はおいしいと聞いているぞ。……そうだ。おまえにチャンスをやろう。クイズに答えられたら、助けてやる。感謝しろよ」

「あ、ありがとうございますピイ」

「問題。古代ローマでは、ふくろうの卵は、ある症状に効くと珍重されていました。その症状とは何でしょうか?」

「か、かぜ?」

「残念。二日酔いでした。さて、腹も空いて来たことだし、まずは締めなければな。・・・・・・安心するなよ、ひと思いには(ピー)さないからな。ゆっくりと、このハンマーで(ピー・ピー)を(ピー・ピー)にしてやる」

「ひいい。お助けをピイ。待ってくださいピイ。僕がそんなにひどいことをしましたかピイ」

「した。KACのお題には前々から不満があったが、『88歳』って何だよ。許さん。さあ、正義の鉄槌を食らえ。みなの怒りの宿った一撃を!」

「待ってくれピイ。あれは運営の指示だピイ。僕はただ、それをみんなに伝えただけだピイ。それに、いやなら、書かなければ良いだけだピイ。カクヨムを退会すればいいだけだピイ」

「うるさい。だまれ。おまえも同罪だ。それに俺は紳士だから、実在する人物を傷つけるようなまねはせん」

「もう、十分、非難しているピイ!」


 これ以上の議論は無駄と判断した俺は、無言でハンマーを振り上げた。

「カタリとバーグ……、私の手向けだ。トリくんと仲良く暮らすが良い……。おまえらを(ピー)したのは俺ではないがな」

「まっ、まってくれピイ。最後に、チャンスをくださいピイ。スマホを見てくださいピイ。きょう、カクヨムWeb小説コンテストの中間選考結果が出る日だピイ」

「ピイピイ、うるさい鳥だな。しかし、それは知らなんだ。どれどれ」


 俺はハンマーをスマホに持ち替えて、審査結果を見た。

 それから、まな板の上の包丁を手に取り、トリへ近づいた。

「ひいい。せめて、ひと思いにお願いするだピイ!」

 泣き叫ぶトリの意に反して、俺は包丁をトリの首筋ではなく、ロープへあてた。


 ロープが切られ、自由を取り戻したトリが俺を見上げた。

 しかし、俺はトリを無視して、ねぎの入ったボールを冷蔵庫へしまった。

「と、とおってたんだねピイ。おめでとうございますピイ」

「20万字予定で書いていたんだが、28万字を越えても半分しか終わらなくてな。それで期限を迎えたから、ダメだと思っていたんだが・・・・・・」

「関係ないピイ。長編部門は10万字以上が条件で、完結してなくても問題ないピイ」

 「へへ。それは、運営様様だな」と、俺は右手の人差し指で鼻をすすりながら、トリの方へ振り向いた。

 それに対して、「そうだピイ。運営様様だピイ」と、陽気に鳴いたトリの首に、俺は包丁を突きつけた。

「調子に乗るな。すべて、読んでくださった、みなさまのおかげだろう!」

「情緒不安定だピイ!」

「最初のころにレビューを書いてくださった方々、誤字を指摘してくださった方々、ありがとうございました。さあ、復唱しろ!」

「最初のころにレビューを書いてくださった方々、誤字を指摘してくださった方々、ありがとうございましたピイ!」

「まあ、いい。俺はこれから、やる気が出なくて、2月から放置している小説の続きを書かねばならん。中間選考を突破してやる気が出たからな。四月から再開すると約束しているし。よくわからん鳥の焼き鳥を食っている暇はなさい。さあ、さっさとね!」


 俺が包丁を振り上げると、トリは窓辺へ逃げた。

 そして、一礼してから、空へと消えていった。

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