第34話

 兵科の校舎から、訓練場へ出てきたのが見えた。


 ――そういえば。


「確か、兵科では『常に急な襲撃に備えておく』と言われているんでしたっけ?」


「はい。1年生の時からそれは言われます、けど……?」

 今度は、エメナからスールアの声が答えた。

 言葉の最後は、私の質問の意味を測りかねているようだったが。

 私は構わず念を押す。


「それはつまり、いついかなる時も?」


「ええ……」


「そうですか。――それでしたら、まぁ、でもせめて、白兵戦闘で試してみますか」


「え……?」


 試験までの間、ギルダーは生徒達を部下に襲わせるかもしれない、という噂まで出ているらしい。

 この真意は、常に油断するな、ということに尽きるだろう。

 なら……、それを言っている大本はどうだろうか?


 というわけで。

 ――お手並み、いや、お手本を拝見と行こうか。


「『気配隠蔽ハイド・シークェンス』」

 私は、一つ●●の術式を実行する。


 けれど、実行されるのは、多数●●の魔術。 

 なぜなら、それは術としては一つではあるが、実のところは『設定した多種の魔術をまとめて一度に実行する』、と言う効果を持つ私のオリジナルの術式であるからだ。


 『風』の術式3種で音、匂い、空気の流れを――。

 『ひかり』と『やみ』の術式で実体を――。

 『土』の術式で地面を伝う振動を――。

 『無』の術式で、霊覚による探知を――。


 ――まとめて隠ぺいする。


 本来は、それら一つ一つの魔術を、別々に順番に行使する――その筈だが。

 私の術式はその手間を省き。

 全てがまとめて実行される。

 それによって。

 私は、自身の発するあらゆる『気配』を抹消する。


「えっ!?」


 その驚きの声は、人形から二人分。

 私の特殊な魔術に対してか。

 それとも気配を殺したことに対してか。


 けれど、私はその理由を気にするよりも……。

 

 「つちに煌めき、締結ていけつみずを暴く――集え、うつつまぼろし示現じげんの刃――『金剛抗槍パルティザン魔銀器ミスリル』」


 

 私は、魔術で自身の手に『槍』を作り出し――。


「では行ってみますか……!」


 ――地上へ向けて急降下を開始した。








 

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