第30話

 学園の正門を抜け、真っ直ぐ進むと、大きな十字路に差し掛かる。


 その十字路の真ん中には、等身大の女神像が立ち、噴水と花壇がそれを取り囲み、水と色とりどりの花が来訪者を出迎えてくれる。


「女神像か……」


 私は台座を含めると、2メートルほどになるその像の顔を見上げてみる。

 石で彫られているとはいえ、その顔は端整に作られていた。 


「世界樹の女神、ですね」

 エメスから、スールアの声がする。


「ええ、知っていますとも」


 象られた女神の名は、フィーユと言う。

 かつて、世界樹を守護していたとされる、この世界唯一の神だ。

 伝説では遥か昔、魔神に世界樹を滅ぼされた時に消え失せたと言われているが――……。


 なるほど。

 魔法は、女神の消失と同時に、この世に生まれた。

 つまり魔法学においては、始祖と言うべき存在というわけだ。

 だからこうして、仰々しく祀られているのだろう。

 そして、巷では始祖であるフィーユを語る魔術師も後を絶たない。

 詐欺に使われたり、商品名に使われたり。

 極めつけは、大陸で信仰されているのも唯一神のフィーユ様だったりする。


「……この場にミラが居たら、何というのでしょうね」


「え?」

 エメナの訝しむ声に。

「ああ、こちらの話です」

 私は、そう答えて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る