第7話
兄も貧乏だ。 封筒の中身は36万円。
兄に10万円渡すつもりだった。
あの主婦は遠くへ逃げるだろう。一人で。
兄のボロアパートに着くと、深夜だが構わず玄関の呼び鈴を鳴らした。
執拗に押していると、兄が起き出したようだ。
眠たげな顔で玄関から出てきて、
「なんだ。お前か。依頼か?」
しきりに目元を擦る兄に10万円を渡すと、訝しい顔で俺の顔を睨んだ。
「中へ入れ」
狭いキッチンで兄は砂糖を大量に入れたコーヒーを渡してくれた。
兄はコーヒーカップ片手にちゃぶ台に座った。俺は向かいに座るとスマホの画像を見せ、事情を話し出した。
突然、兄はコーヒーカップを投げ捨て怒鳴り声を上げた。
「馬鹿野郎! この刺し傷はバタフライナイフか飛び出しナイフだ! 普通の主婦がそんなもの使うか! きっと深夜に帰ってきた息子か娘の行動を不審に思って匿ったんだ!」
兄はそう叫び。私を連れてアパートを飛び出した。
あの主婦の家まで全速力で走ると、玄関のドアを激しく叩き、チャイムを鳴らした。
「どうか!ここを開けて下さい!犯人はきっと息子さんか娘さんでしょう?!」
出てきたのは旦那さんだった。
兄は旦那さんを押しのけ家に入った。
「なんだ! お前たち不法進入だぞ!」
旦那さんは何も知らない。
玄関からすぐのキッチンでさっきの主婦が血を流し倒れていた。
「何てことだ!」
俺は後悔した。子供の罪に耐え切れなかったのだろう。
旦那さんがバットを持ち出しキッチンへ現れると同時に10代の青白い顔の息子が二階からやってきた。
「見ろ!お前が小遣い欲しさに殺人なんて大それたことをしたから、母親が死んでしまっただろうが!」
旦那さんと息子は立ちすくんでいた。
遺書が二つ洗い場に置いてあった。
一つは警察宛。もう一つは息子宛。
警察宛には自分が罪を犯したと書かれてあり、被害者の遺族にも謝罪をしていた。
もう一つを俺が捲ると、息子は笑い出した。
「はは。母さんが死んで良かったじゃないか。いっつも金をくれない。俺が悪い訳じゃないぜ」
旦那さんが息子を見つめて、口をパクパクしていると、俺と兄は手紙を冷静に読んだ。
(誠司へ。いつも小遣いをあげられなくて、そして構ってやれずにゴメンなさい。家は大きいけど、実はおじいちゃんの借金が家には残されていました。私が働こうとすると、お父さんが必ず怒るので、仕方なかった。
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