第4話

「あなたは、妊娠してますね」


 鋭い目の兄の一言で俺は泣きたくなった。


「……ええ。あの人の子です」


「……産むのですね」


「……ええ……」


 俺はたまらなくなって叫んだ。


「その子を立派に育てることは、あなたにとって良いことなのか?! 今まで散々利用されてきたのに! そして、捨てられたのに!」


 彼女はニッコリと笑うと、


「この子が立派に育てば、父親の罪滅ぼしにもなります。ちゃんと育てますから。あなたたちはどこか警察の方たちとは違うように思えます。どうか逃がしてもらえないでしょうか? この子の責任は私が全部負いますから」


 彼女のとつとつとした言葉に滲む優しさに俺は急に溜息をついた。

 金になる仕事はこの世にはない。

 俺は財布から一万円札を取り出して、彼女に渡した。


「これで、どこか遠いところへ行ってくれ。そして、二度と東京へ戻るな」


 俺は厳しい顔の兄を強引に引っ張りボロアパートを後にした。


電信柱のところに付着した血は、妊娠中の出血だったのだ。

だから、そこしか血痕が無かった。




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