第3話
いつもの金にならない。探偵というアルバイトのような仕事がつくづく嫌になって、そんな仕事はこれからも長い間毎日続くのだと思った。
「まず。この女を探そう」
兄の一言が俺の耳には入りにくかった。
「まず、警察もバカじゃない。二三日で犯人は見つかるんだ。持永にその女の痕跡でもあればすぐ見つける。今頃は持永の交際相手。俗にいうガールフレンドを洗っているだろうから、俺たちは警察と同じくその女の足跡を最初に見つける。こっちが先回りできればいいんだが」
兄は鋭い目をして世田谷区の地面を見つめていた。
俺は落胆して、今までの目を背けたくなるほどの貧乏な生活に戻ることになった。兄も貧乏だ。俺と兄は根本的には似通っているのかも知れない。
俺はその女から金を貰えば、逃がすつもりでいたのだから。
足跡はすぐには見つけにくい場所にあった。丁度、角を曲がったところにパンプスだろうか、についた血の跡が電信柱の隣にあった。
足跡はそれだけだった。
「この方角のボロアパートに行けば。彼女はいる。簡単だろ。警察もいるかも知れないが。今頃は令状を出してもらっているだろうから、俺たちのほうが早い」
兄にくっついて、不思議と犬の散歩をする人が絶えない住宅街を歩いて行くと、兄は急に立ち止まった。
「ここだ」
雑木林のような手入れをされていない庭のボロアパートの玄関先で兄は止まった。ここは高級住宅街から更に西へ行ったところだ。血塗れの女性が血相変えて入って来ても。誰も気が付かないような人の気配がしない幽霊屋敷のようだ。一階には人が住んでいないので、アパートの外階段を兄と上がって行った。
兄は二階に行くと、住んでいそうな部屋を片っ端から訪問する。
最後は青い顔の女性の部屋へとたどり着いた。
209号室の女はなかなかの美人だが、青白い顔のせいで長い髪もあって幽霊のように思えた。
俺は幽霊屋敷で彼女の名を聞いている兄を見つめた。
新聞の勧誘で来たと兄が言った。
世間話のように彼女の身辺を聞いて、最後に。
「持永を殺したのはあなたですね」
「……私を捕まえるのですか?」
女性の名は津川 晴美。24歳だ。
大学卒業後に持永に出会い。金を騙し取られていたのだと聞いた。
目を見開き震える声は、妙に素直だった。
それもそのはず、被害者で新宿の放火による死者たちから見れば英雄だ。
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