第55話 裸足のシンデレラ
颯真はきっと、香雅里さんの姿が見えるところにいるはず。
そう思って、近くの、向こうからは見えても、こちらからは見えないような場所を探した。
ほら、やっぱり。
颯真はタキシードを着ていた。
そして、ひとり遠くから香雅里さんがいた部屋の方を見ている。
彼の元へ急いだ。
途中、石畳の石と石の隙間にパンプスのヒールがはさまって、力任せに引っ張ったら、勢い余って空を飛んでどこかにいってしまった。
ありえない……
片方の靴を持ってどうしようかと困っていたら、さっきまでそこにいた、颯真の姿が見えなくなってしまった。
それで、片方だけになった靴を手に持って、裸足で颯真を探した。
天使の格好をした人や、騎士の格好をした人もいる。
その間を、颯真を探して走った。
ドレスを着たまま走った。
待ってたって、彼はわたしを探しになんか来てくれないのだから、わたしが探すしかない。
颯真を見つけて、言わなくちゃ。
しばらく探し回って、ようやく颯真を見つけた。
「颯真!」
名前を呼ぶと、こちらを向いた。
「颯真はいろんなものをくれたよね!」
颯真は黙ってわたしの次の言葉を待ってくれている。
「でもわたし、もっと欲しいものがあるって気がついた!」
「何それ?」
「黙って!」
「は?」
「颯真、わたしを好きになって!」
せっかく勇気を出して言ったのに、もっと颯真の元に近づこうとして、ドレスの端を踏んづけた。
もらったブーケを離したくなかった。
もう片方の手には、片方だけの靴。
手を付けなくて、でも、颯真に体重をかけたら悪いとか思って、思いっきり肘を地面にすりながら自分を支えるように颯真を押し倒した……とにかく痛い。
わたしに押し倒されて尻もちをついたまま、ぽかんとしていた颯真が、突然笑い出した。
「オレを押し倒すなんていい度胸してる」
上半身を起こした颯真の上にのっかったまま、わたしは持っていたブーケを彼の目の前に差し出した。
「わたしがあなたを幸せにする」
「それで、ウェディングドレス着てるわけ? 話が早くない?」
「これは、香雅里さんに着るように言われて――」
颯真はブーケを受け取ると、反対側の手でわたしを引き寄せた。
「違うよ。オレが香雅里に頼んだ。花蓮にウェディングドレス着せてくれって。さっき、今頃このドレス着てるかなって、部屋を見てた」
「何言って……」
そうだ……
これ、オーダーのウェディングドレスって言われた。
それに、サイズがぴったりの靴が最初から用意されてた。
「よく似合ってる。何で裸足? 靴は……」
「片方はどこかにいってしまって……もう片方は持ってる」
手に持っていた靴を見せた。
「靴、これだ。さっき歩いてたら空から降ってきた」
颯真は自分の持っている片方だけの靴をわたしに見せて笑った。
「花蓮のウェディングドレス姿を見たかったんだ」
「颯真……」
「オレのこと、幸せにしてくれるんだろ?」
「颯真はわたしのこと――」
「好きでもない女にウェディングドレス着せる趣味はないよ」
「でも、あの日テーマパークで……終わりにしようって……」
「自分のことだとなんでそんなに鈍い? あれは、嘘の関係を終わらせただけ」
「それ本当?」
「いつの間にか、花蓮のことばかり考えるようになってた。それを言おうとしたのに、とめたのはそっち」
「颯真、わたしのこと……」
「そのくらい気づけよ」
口ではそんなことを言いながらも、優しい顔。
颯真はわたしの足に、さっき無くしたはずの靴を履かせてくれた。
END
裸足のシンデレラ 野宮麻永 @ruchicape
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