第53話 ガラスの靴はないけれど

香雅里さんから招待された「ちょっとしたパーティ」の会場に着いて、入口で固まってしまう。


ナニコレ?


事前に「楽しい格好で来てね」と言われてはいたけれど、まさか仮装パーティだとは思ってもみなかった。

だから、普通にパーティ用として売っていた薄い紫のレースのワンピースを着ているわたしは、見事に浮いている。

そもそも受付の人がドラキュラと狼男だった。


「気軽な集まりだから」と言われていたけれど、どの辺が気軽なのかさっぱりわからない。


きょろきょろしながら歩いていると、美月さんに会った。

わたしがIKEDAに異動になって、1日だけだけど、初めて一緒に仕事をした人で、alternativeの社員さん。

美月さんは、スターウォーズのレイア姫の格好をしていた。


「それ、一般人の仮装?」

「そういうことにしてください」

「『楽しい格好で来て』って言われなかったの?」

「言われました、でも、まさか仮装だとは思いませんでした」

「相変わらずね」

「美月さん似合ってます」

「当たり前じゃない。招待された人は、みんな本気だから」


本当に、みんな本気で仮装している……



「小鳥遊さん?」


声のする方を見ると、深川さん、じゃなくて、香雅里さんの祖母にあたる深水会長が、魔女?の格好で立っていた。


「それ、一般人の仮装なの?」


美月さんと同じことを言う……


「そう思っていただけると助かります」

「香雅里にはもう会った?」

「これからです」

「会ってやって。ケーキぱくついてたから止めてきて」


香雅里さんは、どんな時も香雅里さんらしい。


わたしは深水会長に頭を下げて、香雅里さんの元へ向かった。

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