第52話 販売促進部へ

颯真と別れてからの2週間は、あまりにもいろんなことが起きてついていくのが精いっぱいだった。


株式会社池田が、深水グループに買収された。

最初は提携の話で動いていたようだったけれど、それが一転買収に変わったらしい。

筆頭株主が深水グループに変わり、その次に堂元不動産が続いた。

経営陣は刷新され、代表は深水グループが海外から引き抜いて来た人物が務めることとなり、縁故入社で実力がないと見做された者達は、軒並みIKEDAに配置転換されるか、系列のスーパーへ出向になった。

これまで椅子の上でふんぞり返っていた人達が、いきなり販売なんかできるわけがない。

明らかに自主退職を狙っての異動だった。


深水さんはずっと、清掃員のフリをして自分の目で誰を残して誰を切るか、社員の仕事ぶりをチェックしていたらしい。

どうしてそこまで? と思っていたら、香雅里さんが「お祖母様、暇だったみたい」と教えてくれた。

でもきっとそれだけではなかったはず。



わたしはIKEDAから販売促進部に戻され、入れ違いで優次はスーパーに出向となった。あまり接客が得意とは思えない優次にとっては、かなり厳しい辞令になったんじゃないかと思った。

この異動が原因で、彼女とも別れたと聞いた。

彼女の高村聖奈はIKEDAの配送センターに異動になった。


販売促進部の中もだいぶ入れ替わって、村中さんには今まで誤解していたことを謝られた。

本当のことをわかってもらえればそれでいいし、またイベントの企画が出来ると思うとそれだけで充分だった。


誰がわたしを戻してくれたのか、わかってる。




ようやく会社の中のゴタゴタが落ち着いた頃、香雅里さんからお茶に誘われた。


「いろいろ大変だったでしょ? 楽しいことしましょ」


香雅里さんはにこにこ笑いながら、目の前のケーキを口にした。

もう4つは食べ終えて、今から5つめを食べようとしているところだった。


「ちょっとしたパーティを企画してるの。堅苦しいのじゃなくて、ガーデンパーティ。花蓮ちゃんもぜひ来てね」

「あの、どんな格好で行ったらいいんですか?」


以前颯真と行った、深水さんの誕生パーティが頭に浮かんでひるんでしまう。


「楽しい格好で来て! みんなが楽しめるような『集まり』にするから」

「わかりました」

「日時が決まったら連絡するね」

「はい、楽しみにしています」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る