第36話 昔とは違う
IKEDAでは、食品を扱うところにいるから、普段はきっちりまとめている髪の毛を、今日は低めのポニーテールにして、後れ毛を残して巻いている。
メイクもがんばった。
颯真にプレゼントしてもらった服の中から、シンプルな黒いニットに、歩くとふわりと揺れるモノトーン花柄のスカートを選んで、足元は5cmヒールのストラップミュールを合わせた。
堂々と中に入るつもりでいたのに、「販売促進部」と書かれたドアの前まで行くと躊躇した。
『背筋伸ばせ』
颯真の声が聞こえた気がした。
思い切って、大きくドアを開け、「お疲れ様です」と言いながら中に入った。
そして、あの、辞令が出た日と同じように、課長の元へ向かった。
「今日、こちらに呼ばれたのはどういった理由でしょうか?」
「あ、小鳥遊さん……何か雰囲気変わったね。えっと、ケーキフェスタなんだけど、去年出展してもらったショップで、「今年は出展しない」ってもめてるところがあって。そこ人気の店だから、君が行って交渉してもらえないかな」
「どちらのショップですか?」
「cachette。大垣くんと一緒に行ってオーナーと話してくれる? 3時にアポがとってあるから」
優次と……
今更もう、わたしが言い寄ってるとか言わないよね?
優次の方を見ると、気づいていてわざとなのか、ずっとPCから目を離さないでいる。
他のみんなも自分のデスクの方を向いていて、わたしと目を合わすのをさけているように見えた。
違う。
そうじゃない。
みんな忙しいんだから、他のことに気をとられてる暇がないだけ。
わたしは、大丈夫。
「わかりました」
課長に返事をした。
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