第12話 御堂さん

午後になって、一番お客さんが来ない時間を選んで、美月さんが休憩に入った。


「どうかお客さんが来ませんように」、そんな不届なことを願いながら立っていると、御堂さんが店に入って来た。

そして、わたしを見ると、自分の頭に手をやり、眉を顰めて言った。


「何でお前がここにいる?」


午前中とは打って変わって口調もきつい。

テンパっていたせいか、つい、見たままを口に出してしまった。


「どうして午前とカフスが違うんですか?」


御堂さんの驚いた顔を見て、失敗した、と思った。

おしゃれに疎いわたしには分からない理由があるんだ。

きっとおしゃれな人っていうのは、一日に何回もカフスを変えるのかもしれない。


けれども、御堂さんは想像とは違うことを言った。


「へぇ。他には何が違う?」

「え? そうですね……午前中はシャツに薄いストライプが入っていたと思うのですが、今はそれがありません」

「ふうん……」


御堂さんは、美月さんがそうだったように、わたしのことを上から下まで見てから言った。


「お前、alternativenの社員じゃないよな。お前みたいなの雇うわけないし」


御堂さんOFFバージョン?

って、あれ?

IKEDAからのヘルプって話、したと思うんだけど?


そこへ、もうひとり、同じ顔が現れた。


「颯真、新しい人をあんまりいじめるな」

「柊真はこんな女がalternativenにいるのを許せるのか?」

「まぁ、彼女はIKEDAの社員さんだから」

「ブランドイメージが崩れる」

「人出が足らないところをヘルプで入ってくれている訳だし、長い目で――」

「いや、ないだろ? バカにしてる」


同じ顔同士が言い争っている。

ONバージョンとOFFバージョンがあるわけじゃない。


御堂さんは、双子なんだ。

それも顔は全く同じで、性格がまるっきり正反対の双子。


「ごめんなさい! わたしもこちらに配属されたのは場違いだってわかっています! でも、わたしにはどうにもできないから、ご迷惑をおかけしないよう、これから勉強します!」


お店にとってブランドイメージがどんなに大切かわかる。

だから今回、怒るのは最もなことだった。


「お前の配属先変えるように掛け合う」



そう言ったのは、もちろんOFFバージョンの御堂さんだったけれど、わたしにはそれが救いの言葉に聞こえた。

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