【#43】ラビスさんとの休日

(うおぉ……流石にすげぇ並んでるな……!!)


 ドドバシカメラ、開店前。


 その前にできた長い行列の中に、俺はこっそりと変装しながら潜んでいた。


 今日は久しぶりのオフだ。つい最近まで雑司ヶ谷ダンジョンの関係でバタバタしてたからな……。


 ティーシャの正体バレとか、【憤怒】の血を持つ悪魔との戦いだとか。たった一日にして激動すぎた。


 さて、それよりも今日は買い物の方が大事だ。


 今日はこんな長い行列に並んでまでも買いたいものがあった。それは──!!


(ギャンダム・1/144リアルグレート……!!)


 昔からシリーズが続く大人気SFアニメ・ギャンダム。


 その主役機であるギャンダムの最新技術で作られたプラモデルが……本日発売される!! 


 もし買えたらリスナー達にも報告するつもりだ。


 俺が「プラモを作る」と聞いたらみんな驚くかもしれないが、”元々はニートの女子”だったという設定なのでそこは受け入れられるだろう。


(あぁ、この手で早く作って……技術の進歩を感じてぇ!!)


 そんな風にワクワクしながら待機している時──小声で後ろから呼びかけられた。


「あれ……? もしかして、酒クズパイセン?」


「!?」


 だ、だれぇ!?


 ドキドキしながら後ろを振り向くと──そこには知った顔があった。


「ら、ラビスさん……!?」


「おっすー! こんなとこで会うなんて奇遇ッスねー?」


 おしゃれなグラサンをかけたラビスさん。


 童貞を殺しそうなニットセーターに、白のホットパンツ。そして、頭からピョンと出たウサ耳。そんなギャルファッションなラビスさんがそこに立っていた。


 ま、まさかこんなところで会うなんて……予想外だ!?


「ま、まったく奇遇ですね!? それより、どうされたんですか!? こんな朝早くにドドバシに並ぶなんて!?」


「んー? ウチはアレっすよ。ギャンプラ買いに来て~」


「えっ?」


 俺は思わず目をキラキラさせて言った。


「うそーー!? わたしもですよーー!? ラビスさん、ギャンプラ作るんですかーー!?」


「うおっ!? 距離が近いッス!? 酒クズちゃん!?」


「──あっ!? すみませぇん!?」


 やばいやばい。仲間を見つけた興奮で我を失っていた。てゆーか、それより。


「でも、ラビスさんが”プラモ”とは意外ですね? 以前よりそういう趣味に理解があるとは聞いてましたけど……」


 漫画やアニメに理解があり、時にはコスプレもしてくれる。オタクに優しいウサ耳ギャル。それがラビスさんである。


 しかし、プラモを組むというのは聞いたことがない。彼女は俺の質問に対し、少し恥ずかしそうに目を逸らして言う。


「実は……これから初めてみようと思ってるッス。前々から興味はあったんスけど、なかなか難しそうなイメージがあって。でも、今日発売のヤツはビギナーにも向いてるって聞いたッスから……」


「おぉ!! そういうことでしたか!!」


 なんということか。初心者ならば手厚くサポートする!! それが俺のオタクとしての信念である!!

 

「それじゃ、わたしと一緒に買いましょうよ! ついでに必要な道具なんかも一緒に買っちゃいましょう!!」


「!? マジッスか!?」


 ラビスさんはパァ―っと晴れた表情で手を取ってくる。


「実は一人で買い物するの不安だったんスよ~~!! 酒クズパイセン!! 神ッス!!」


「お、おぉ……」


 た、頼られてる!? この俺が……!? こんなに嬉しい事があるだろうか。プライベートで褒められるなんて……!! 


 しかし、そうなると失敗できないプレッシャーもあるな。最初だけにラビスさんには道具選びで失敗してほしくないし……おっと。


「あっ! 開店しました!! 行きましょう!!」


 ◇◆◇◆◇


【ドドバシカメラ3F・プラモコーナー】


「いやー、無事に買えてよかったッスね~~♪」


「えぇ!! ホントに!!」


 ギャンダム・1/144リアルグレートをそれぞれ入手して、なんともご満悦な俺達二人組。ラビスさんもゴキゲンそうだ。


「それに……酒クズパイセンに道具も選んでもらってよかったッス~♪ いっぱいありすぎて、どれが良いモノなのか全然分かんなかったッスから~」


「いえいえ……。大したことはしてませんよ。わたしも道具必要でしたから、ちょうどよかったです♪」


 そんな風になんとなく店内を歩いていると、ラビスさんが何気なく聞いてくる。


「ところで、酒クズパイセン? この後は予定あるッスか?」


「い、いえ。ありませんが……?」


「それじゃっ!! いいトコロに連れていくッス!!」


「い、いいトコロ!?」

 

 オロオロと戸惑っているうちに、そのままラビスさんに誘拐されるように引っ張られていった。


◇◆◇◆◇


「「いらっしゃいませぇ~♪ お嬢様方~~♪」」


「あ、えっと……」


 入店と同時に、たくさんのメイドにお出迎えされた。そう──ここは。


「な、なんで急にメイド喫茶なんか来てるんですか~~!?」


 そもそもメイド喫茶に入るのも、人生で初めて。きっと今の俺はソワソワしてて不審者にしか見えないだろう。


 一方、ラビスさんは慣れたようにメイドに挨拶する。


「以前、ウチがバイトしてたお店ッス♪ ──あっ!! 店長、おひさッス~~!!」


「よぉ、ラビスじゃねぇか?」


 奥からダウナー系のお姉さんメイドが出てくる。


 編み込みが入った黒髪が特徴的なかっこいい雰囲気のお姉さん。しかし、このかすかに感じる焼けた匂いはまさか……。


 ラビスさんも困ったように言ってくる。


「店長~~。また裏でタバコ吸ってたッスか~? メイドの夢が崩れ落ちるッスよ~?」


「いいんだよ、アタシは裏方だから。つーかよ、その連れは誰よ? パッと見めっちゃ可愛いけどよ。顔隠してても分かるくらいには」


「あぁ、店長!! 大きな声出さないでほしいッスよ!! なんと、特別ゲストの……酒クズちゃんッス~~!!」


「──えっ!!」


 すると、店長のお姉さんはビックリしたように俺の目の前に来た!? ち、近い……!!


「ま、マジかよ!? おいおいおい……!?」


 そして、店長さんは落ち着けるように深呼吸した後、クイッと親指で店のバックヤードを示しながら言った。

 

「と、とにかくちょっと奥で話そうや。腰を落ち着けて話がしてぇ」


 ◇◆◇◆◇


 こうして個室で話すことになった俺達。店長は電子タバコを片手に俺の方を見てくる。


「しかし、まさかウワサの酒クズちゃんが来るとはな……」


「わ、わたしのこと、ご存じですか?」


「ご存じもなにも……。まさに話題の中心の女じゃねぇーかよ」


 店長さんはハァ~っと白煙を吐き出した後、今度はラビスさんに視線を向けて聞く。


「ところで、ラビス? ティーシャは元気か?」


「うっす!! まぁ、先日の一件があって今は忙しそうッスけど」


「あぁ、アレか。まさか、アイツがハーフサキュバスだったなんてなぁ……アタシも騙されちまったよ」


 その反応を見て、俺は驚きのあまり聞いてしまう。


「店長さん? もしかして、ティーシャとお知り合いなんですか?」


「あん? そうだよ。アイツもこのラビスと同じで、配信者として有名になる前はこの店でバイトしてたんだよ」


「えぇーーーーーー!? うそぉ!?」


 思わず固まってしまう俺。そこへラビスさんが補足するように言ってくる。

 

「そうッス。実はウチも、ティーシャパイセンとはこのお店で知り合ったのがお初ッス」


「そ、そうだったんですか……!?」


 すると、店長さんはその時を思い出したようにクツクツと笑う。


「そうそう。お前ら、仲良かったもんな~。それが今じゃ、ダンジョン配信界を代表する有名人達だ。アタシも頭が上がんねぇよ」


「そんな!? 店長さんとは今も変わんねぇッスよ~!? あの頃の教え……今もめちゃくちゃリスペクトしてるッスから!!」


 照れたように顔を赤くするラビスさん。その言葉通り、ちゃんと敬意を失わずにいるらしい。


 それから店長さんはフフっと笑いながら、ブラックコーヒーを飲んで言った。


「しかし、ティーシャも面白いヤツだよな……。ウチからあげたメイド服、まだ使ってるんだから」


 メイド服……? もしかして──!!


「あの!! ティーシャがメイド服着てるのって、ここが由来なんですか!?」


「あぁ、そうさ。今は制服のデザイン変わっちまったけど……元はこの店で使ってたメイド服なんだよ。アレは」

 

「し、知りませんでした!? メモメモ……!!」


 更にティーシャの情報が知れて感激。急いでスマホのメモ帳に情報を書き込んだ。


 そんな光景が滑稽こっけいに見えたのか。店長さんは大笑いしてから、俺の肩に手を回しながら言う。


「おい? なんだったら、一日だけでも働いてみねぇか? 酒クズちゃん?」


「はいっ!?」


「それによ……以前のトランプゲーム配信で見たメイド服──すげぇ似合ってたぜ? なぁ、アタシの前でもう一度披露してみろよぉ~~!? なぁ~~!?」


「ひっ!? お、お断りします……!!」


 そんな全力で怖がる俺を、楽しそうに笑い飛ばす二人なのだった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る