【#38】決戦

「クハハ……来い!! 全て奪いつくしてやる!!」


 空中に六本の剣を展開していくヴァルフレッド。


 これから俺達五人と戦うにも関わらず、それをまったくリスクに感じていない様子だった。それだけでもこの悪魔の強さはかなりのモノだろうと思える……。


 だが、もうヤツは放っておけない!!


 もし俺達がここで食い止めなければ、ヤツはそのうち地上へと進出して更なる被害をもたらす。──そうなる前に、ここで確実に倒しておく!!


「喰らいなさい!! 【ホーリースピア】!!」


 ミカリアちゃんの先制攻撃。


 彼女は周囲に無数の光の槍を出現させると、ヴァルフレッドを取り囲むように発射した。


「こざかしいっ!!」


 悪魔の翼を出現させ、空中へと飛び上がるヴァルフレッド。


 さらに周囲に浮遊させた剣により、ミカリアちゃんの光の槍を叩き落としていく!


 ”詠唱”を使わない速効性の高い魔法とはいえ、ミカリアちゃんの魔法をこうも簡単に対処するか──なかなか厄介な相手だな。


 そんな中、間髪かんぱつ入れずにラビスさんが突進していく。


「まだまだ行くッスよー!! 【忍術・ゲンエイホタル】!!」


 高速で動く五人に分身するラビスさん。さらに多方向からの同時攻撃を仕掛けていく!!


 だが──。


「またそれか? 芸のないヤツだ」


 まるで「つまらない」とでも言うように鼻で笑うヴァルフレッド。


 その後、ヤツは魔力で六本の剣にそれぞれタメを作り──。


「我に二度と同じ手は通用しない!!」


「ぐっ!?」


 周りにいた五人のラビスさんを一気に薙ぎ払った!! 


 もちろんラビスさん本体も分身ごと斬られているはずで、もう既に彼女は死亡してリスポーンしているものだと思われた。


 だが、次の瞬間──ヴァルフレッドの目が驚きで見開かれる事となる。


「なに……?」


「フフッ♪ 同じ技だからといって、同じ戦術とは限らないッスよー? "ステルス"解除!!」


「!!」


 ホール内に響くラビスさんの声。そして、ラビスさんが姿を現したのは──ヴァルフレッドの背後だった!!


「チッ!?」


 大量の手裏剣によるラビスさんの攻撃を、片手でいなすヴァルフレッド。


(なるほど……そういうことか!!)


 その光景を見て、俺は理解した。

 

 おそらくラビスさんは分身と同時に"透明化ステルス"の忍術も使っていて、背後から攻撃したのだろう。


 :うおぉー!! 熱い!!

 :流石はラビスちゃんー!!! 

 :さっきの戦術を一度見せて変えた……やっぱSランク冒険者は戦い慣れてる!!


「この……はえのようにわずらわしいっ!!」


 ヴァルフレッドは一瞬で剣を引き戻し、ラビスさん本体へと再度さいど狙いを定める。


 だが──その動きに合わせてパーティーは既に動きだしていた!!


「フィオナ!! 合わせて!!」「ハイっ!!」


 敵の近くへ飛び上がって攻撃する、ミカリアちゃんとフィオナさん。そして、二人は呼吸を合わせるように技を繰り出していく。


「【ライトレイ・フォース】!!」「【スレイプニル】!!」


 ミカリアちゃんの光魔法が螺旋らせんとなって、フィオナさんのロングランスへと巻き付いていく。そして──。


「「あまつよ、我らの声を聞け──【エンジェリック・バースト】!!!」」


 ロングランスの先端から放たれる、光魔法の砲撃。


 それは見るからに強力な魔法攻撃で、もし相手が並大抵の悪魔だったら一撃で消し飛ばしてしまうだろう。


 だが、ヴァルフレッドもまた実力者だった。


「──ぬるい!!」


 魔力を込めた剣を四本重ねて盾代わりにして、ミカリアちゃん達の砲撃を受け止めるヴァルフレッド。 

 しかし、それに対しミカリアちゃんとフィオナさんは焦っていなかった。なぜなら──!!


「そこぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 俺が後ろに控えていたからだ!!


 そのまま彼女達の背中側から飛び出し、それと同時に妖刀を振り下ろしていく。狙うは──ヴァルフレッドの首!!


 :おぉーーーーーー!?

 :酒クズちゃんきたーーーーー!!

 :やれぇーーーーーーーーー!!!

 

「ハァァァアアアアアアア!!」「ちぃっ!?」


 ──キィン!!


 ホール内に響く金属音。


 俺の妖刀による斬撃に対し、ヴァルフレッドは残りの二本の剣で受け止めていた。


 お互いの刃と刃がギリギリと交差する中、俺は【酔剣】の力を更に加速させていく!! そして──!!


「とりゃぁ!!」


「ぐぅっ!?」


 :おぉ!?

 :酒クズちゃんが押してる!?

 :いけるぞーーーーーーーーーーー!?


「おのれ……!!」


 いったん俺との距離をとるヴァルフレッド。俺はその隙に追加の酒を飲んで、更なる力を蓄えながらヤツを挑発する。


「あららー? もうバテてるんじゃないですかー? 意外と楽に勝てちゃうかも??」


「クハハ……何を勘違いしている?」


 ヴァルフレッドは顔に片手を当てて笑い、周囲に紫色の瘴気しょうきを纏いながら浮遊する。


「言っておくが、我はまだ本気を出していない。今までのは軽い”遊び”だ。……そろそろ終わりにしよう」


(!? なにか……来る!?)


 自然と身体が身構える。明らかに今までと違う雰囲気……一体何をする気だ!?


 そして、ヴァルフレッドは右手の甲をかざし、そこへ”炎の紋章”を写したあざを出現させて叫ぶ。


「──紋章解放!! 【憤怒ふんぬ】の獄門!!」


「!? みんな、気を付けて!?」


 鋭く響くティーシャの警告。それだけで危険性が察せられるほどの語気ごきで。


 :え!?

 :よく分からんが……なんかヤバそうだぞ!?

 :待ってくれ……まだ強くなんのかよ……?


 ヴァルフレッドの手の甲から凄まじい魔力が放たれていき、その魔力は全身を覆っていく。そして──!!


「クハハハハ!! 見よ!! これが【憤怒ふんぬ】の力だぁーーーーーーーーーーー!!」


 ヴァルフレッドは新たな姿へと変貌へんぼうした。


 全身に禍々まがまがしい紫炎しえんまとい、六本の剣にも同じように炎を纏っていた。さっきまでとはまた一段と違う強さのオーラを感じてしまう。


 その変化を受けて、ラビスさんがタラリと汗を流す。


「ティーシャ!? なんッスか、アレは!?」


「”紋章解放”……【九獄門ナインスゲート】の血を継ぐ者にしか使えない秘術だよ。紋章の力を最大限まで引き出すことによって、一定の時間だけ更なる力を得ることができるの」

  

「クハハ……!! そうだ、混血種まざりものよ!!」


 ティーシャの言葉に対し、ヴァルフレッドは両手に紫炎しえんを宿しながら叫ぶ。


「この紋章の力をもってして、貴様らをまとめて焼き払ってやろう!! ──でよ、【憤怒ふんぬ】の炎!! 【イモータル・フレア】!!!」


「「「!!!」」」


 地面から噴き上がる数多あまたの火柱。


 その範囲はホール内全域を覆いつくすほどで、次々と不規則に飛び出してくる灼熱。その一つ一つが凄まじい超高温であり、もし当たればひとたまりもないだろう!!


「みんな──こっち!!」


(ティーシャ!? 何か考えがあるのか……?)


 とにかく行ってみよう。他のみんなも察したらしく、同じように彼女の元へ集まってくる。そして──。


「”紋章解放”!! 【色欲しきよく】の獄門!!」


(えっ……!?)


 次の瞬間、ティーシャも右手にハート型の紋章を浮かべて新たな姿へと変身する。


 頭の黒い二本角は更に大きく伸びて、四枚へと増えたコウモリの翼。更に衣装の露出度も更に高くなり、胸元には【色欲しきよく】の証であるハート型の紋章が浮かんでいた。


 まさにサキュバスの完全体……といった感じか。恐らくその場にいた全員が驚いていたであろうその瞬間に、ティーシャは新たに魔法を唱えた。


「【色欲しきよく】の盾──【ラスト・ウォール】!!」


 ティーシャの周囲に展開される、巨大なピンク色の球体盾。


 彼女の作ったドーム型の盾は俺達パーティーを包みこみ、地面から襲いかかる炎を完全に防ぎきった!! 


 まさかこんな力を隠し持っていたなんて!? そ、そうか……もう正体もバレてるからこっちも本気出すって感じか!?


 そして、そんなティーシャの姿を見たヴァルフレッドは、一度炎の魔法を解除しながらクツクツと笑った。


「クハハ……やるではないか? 混血種まざりものの分際で?」

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