【#37】配信者、ティーシャ・クラリオン

 二重世界デュアルワールドを崩壊させ、ティーシャ達の元へと合流した俺達。


「貴様が例の”酒クズ女”か……」


 剣の悪魔──ヴァルフレッド。


 ヤツは乱入してきた俺に対し、パチパチと皮肉交じりな拍手を送ってきた。

 

「我の闇魔法で作った二重世界デュアルワールドを突破した事は、素直に”上出来”であると褒めておいてやろう。だが、それも『少し遅かった』と言わざるを得んな」


 ヴァルフレッドは「クハハッ」と笑った後、俺のそばで膝をつくティーシャへと視線を送る。


「もうすでにティーシャ・クラリオンが”裏切り者”である事は、全世界に知れ渡ったのだからな!!」


「”裏切り者”……?」


「そうだ!」


 静かに見つめ返す俺に対し、ヴァルフレッドは気持ちが高ぶったように演説してくる。


「そもそも気に食わなかったのだ!! 魔界デモニアから逃げ出した女が、新天地で民の人気を得て成功するだと!? ──そんな事が許されるものか!!」


 ヴァルフレッドはニヤリと哄笑こうしょうを見せつつ、ティーシャの方へと右手を差し出しながら言った。


「そして、今日──これまでティーシャ・クラリオンが築き上げたモノは、我が手によってになったのだ!!

 これで分かっただろう!? たとえどのように環境を変えようが、というワケだ!! クーッハッハッハッ!!」


 気持ちよく高笑いするヴァルフレッド。もう完全に勝ち誇った様子。自分が”絶対的強者”である事を疑わない表情だ。


 そんな気分の悪いモノを見た俺は、酒で軽く口直ししながら問い返す。


「──言いたいことはそれだけですか?」


「……なんだと?」


 気に食わないように見返すヴァルフレッドに向けて、俺は震える怒りを剥き出しにして告げる。


「──ふざけたコトを言うなぁ!!」


「!?」


 ホール内に強く響き渡る俺の叫び声。そして、今まで溜めていたモノを一気に吐き出していく。


「ティーシャは……!! そりゃ確かに、今までずっとハーフサキュバスだったコトを隠してたかもしれない!! もしそれを知ってしまったら、”騙してた”って思うヤツだっているでしょう!!

 ……でも、ティーシャがみんなを裏切った?? 今まで築き上げたモノが全て無駄?? ──そんなワケないじゃないですか!!」


 その瞬間、俺は今までのティーシャの配信を思い出した。


 最初期は今見ても本当に慣れてない感じだった。

 でも、それから一年間。色んなダンジョンでの冒険を重ねて──配信界のトップスターになっていく。

 どれもこれも……ティーシャとリスナー達でつむいできた大切な想い出だ。


 それを侮辱されて……黙ってなんかいられるワケがない!!


「わたし達のようなファンは、今までティーシャに色んなものを貰ってきたんです!! 夢中になれるような楽しい時間を!! 明日を生きていくための”希望”を!!!」


 息を切らし、叫び続けた。誰かが声にしなきゃいけない想いを。


 俺が話し終えた後、一瞬その場に沈黙が降りた。その直後──撮影ドローンに一つのコメントが書き込まれた。


 :そ、そうだ!! 酒クズちゃんの言う通りだ!!


 そして、それを呼び水にしたかのように、リスナー達によるコメントが連鎖的に書き込まれていく。


 :おれだって、ティーシャのファン辞めるつもりねぇーぞ!! 

 :そうそう!! この想い、簡単に断ち切れねぇーんだよ!!

 :楽しい時だって、辛い時だって、ティーシャの動画から元気を貰ってきたんです!!

 :がんばれ!! ティーシャ!! がんばれ!! ティーシャ!!


「みんな……!! ありがとう……みんな!!」


 ドローンに浮かぶコメントを、涙目で見つめるティーシャ。


 やがて、彼女はゆっくりと立ち上がると、強い感情のこもった声で全員に向けて宣言した。


「あたし、もう一度やり直したい!! ハーフサキュバスである事を知ってもらったうえで、もう一度!! そう──今日がだよ!!」


 :うぉぉおおおおお!!

 :ティーシャ……一生推していきます!!

 :これまでと一緒だ!! 全力で応援する!! それだけだ!!


「そうッス!! たとえティーシャがハーフサキュバスでも……ウチの大切な友達なのは変わりないッスから!!」


 ティーシャの横へ並び立つラビスさんに、ミカリアちゃんとフィオナさんも続く。 


「ま、ティーシャには後でたっぷり話を聞かせてもらうとしてぇ~~、まずは目の前の”クソ悪魔”からぶっ飛ばすのが先決ねぇ~♡」


「そう、ミカリア様の言う通りです。今は成すべきことを成しましょう」


 そして、ティーシャは俺の隣へと歩み寄り、両手に魔力の炎を宿しながら聞いてくる。


「……アヤカちゃん。一緒に戦ってくれるかな?」


「──えぇ、喜んで!!」


 こうして、パーティーが完全に再結集さいけっしゅうした。


 :うおぉおおおおおおおおおお!! キタキターーーーーー!!

 :同接やばw

 :今日は全力で盛り上げていくぞーーー!!

 :そんな悪魔、やっちまえぇーーーーーーーーーーー!!


 配信の同時接続数もすさまじい事になっており、リスナー達の応援も一気に増える。その応援による効果が発揮されているのか、かつてないほどみんなの魔力も高まっているようだ。


 そんな五人と相対あいたいしたヴァルフレッドは、六本の剣を空中へ浮かせながら俺達へ見下みくだすような視線を向けてくる。


「フン、いいだろう!! 貴様らを全員倒せば、地上侵攻への魔力も十分にりる……!! まとめて片づけてやろう!!」


 そして、ついに【憤怒】の血を引継ぐ”剣の悪魔”──ヴァルフレッドとの戦いが始まった!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る