【#36】暴かれし秘密
ついに暴かれてしまったティーシャの正体……コメント欄は
:あああああああああ!?
:くぁwせdrftgyふじこlp
:待ってくれ!? これマジで現実か!?
:ウソだよな……まさかティーシャが魔物!? はぁあああああ!?
静まり返った空気の中、ヴァルフレッドは口元を歪めて
『クハハ! そうだ!! その姿こそが、我の見慣れたティーシャ・クライヴィアだ!! まったく、
『ヴァルフレッド……!!』
ギリギリと歯をくいしばるハーフサキュバス姿のティーシャ。
今まで見た事のない彼女の姿に、俺の隣にいる二人も驚きを隠せないようだった。
「うそ……? ティーシャが……ハーフサキュバス……?」
「バカな!? そんなこと……ありえません!! 私はティーシャ殿とは
にわかに信じられない様子でつぶやくミカリアちゃんに、フィオナさんがまるで自分に言い聞かせるように叫んでいた。
どうやら彼女達も初めて知った事実らしい。それだけティーシャが正体を隠す技術に優れていた証だった。
(くそっ!! そういうことか……!!)
その配信画面を見ながら、俺は悔しさと共に拳を握りしめて痛感する。
今、分かった。これまであの悪魔──ヴァルフレッドがなかなか姿を現さなかった理由が。
恐らく、ヤツはこのタイミングを狙っていたのだ。ティーシャ達が自分の目の前に現れる瞬間を。
そして、そのタイミングで『全世界にティーシャがハーフサキュバスである』という事実を叩きつける。それにより彼女が一番絶望してしまう瞬間を見ようとしたのだろう。
ただ、その様子を愉悦するためだけに。
『このぉーーーーーーーーーーーー!!』
(ラビスさん!?)
画面の向こう側──ラビスさんが走り出していた。
いつも明るい彼女が滅多に見せない怒りの感情。それは純粋な
『お前……絶対に許さないッス!! これ以上、ウチの友達を傷つけるのは──!! 食らえ!! 【忍術・ゲンエイホタル】ーーーー!!』
その瞬間、ラビスさんが全員で五人に分身──そのまま目にも止まらぬ速さで、ヴァルフレッドへと攻撃を仕掛ける!!
『でやぁーーーーーーーー!!』
分身による多方向からの同時攻撃。その特性上、単身では防ぎきることは難しい攻撃だ。
ラビスさんの分身達が
『フン、なかなかやるではないか?』
『!!』
だが、ヴァルフレッドは──全ての攻撃を受け止めていた。
あらかじめ携えていた六本の剣を魔力で浮遊させ、ラビスさんの攻撃を剣によってブロックしていた。自身はその場から一歩も動くことなく、魔力の操作だけで剣を操っている。
ヴァルフレッドは魔力を剣に込めながら、ニィと口元を歪ませてつぶやく。
『ふむ……これが”Sランク冒険者”とやらの実力か。確かに予想以上ではある。だが──悪いが、
ヴァルフレッドは空中に剣を固定したまま、ラビスさんの分身の一体に蹴りかかった。
『がはっ!?』
それと同時、ラビスさんの分身が消えた。
どうやら本体を一発で見抜いたらしい。あの一瞬で看破できるのは凄まじい観察眼としか言いようがなかった。
吹き飛ばされたラビスさんを受け止めるように、ティーシャがサキュバスの翼を使って飛んでいく。
『ラビスちゃん!?』
『くっ……!? アイツ、とんでもなく強いッス……!?』
そんな二人に対し、ヴァルフレッドは勝ち誇るように両手を広げて言う。
『ティーシャよ、お前の仲間もその程度か?
『あたしが……騙した……!?』
『そうではないか? 違うのか?』
ヴァルフレッドは顔を手で押さえながら笑い、民の総意を問いかけるようにカメラ側へと問いかける。
『これを見ている全世界の諸君よ? 今まで知らなかったのではないか? このティーシャ・クラリオンという女がハーフサキュバスであることを!! それを隠していたのは──お前達に対する裏切りではないのか!?』
:確かに……
:この一年間、ずっと黙って過ごしてたんだよなぁ!?
:おい!? なんとか言ってくれよーー!! ティーシャ!!
『……!!』
だんだんティーシャを糾弾する方向へと誘導されていく。もしかすると、これもあの悪魔の力なのかもしれない。
人の悪意を
◇◆◇◆◇
そんな光景を目にして、俺が取るべき行動はただ一つだった。
「──二人共、離れていてください」
「ちょっと!? 酒クズ!?」 「アヤカ殿……何をする気ですか!?」
驚き混じりに見返してくるミカリアちゃん達。
俺はなるべく内側で
「今すぐに助けに行ってあげなくちゃいけないんです。ティーシャの元へ……!!」
「ちょっと待ちなさい、酒クズ!? 冷静になるのよ!?」
ミカリアちゃんは焦ったように必死に説いてくる。
「この
「えぇ、分かっています」
俺は日本酒のフタを片手で開けると、それを一気に全部飲んでからミカリアちゃん達に宣言した。
「だから、今からこの
「「!?」」
:酒クズちゃん……!?
:おいおい!? 無茶苦茶すぎる!?
:どうしてそこまで……!?
胸の中で巻き起こる不安を全て無視して、俺は妖刀を逆さにして床に向けるようにして構えた。そして、一気にその妖刀へと渾身の力を込めていく──!!
「はぁぁぁああああああああああああああああああああ!!」
全身の細胞が震える。かつてないほどの力。きっとこの力はお酒によるものだけではない。もっと根源から湧き出るようなモノだった。
そして、妖刀への力が最高潮へと達した瞬間──俺は一気にそれを振り下ろした!!
「!!」
最初は岩のようにビクともしなかったが──ふと床へと突き抜けていく感覚がした。気のせいかと思ったが、そうじゃない。これは……!!
『!? なんだ……!?』
配信画面から聞こえたヴァルフレッドの声。ヤツは今までになく動揺した様子で、カメラ側へと視線を送って来ていた。
それがまるで”ありえない”とでも言うように。どうやら本来は想定していない突破の方法らしい。
だったら、その想定──打ち砕いてやるさ!!
「いっけぇぇええええええええええええええええ!!!」
カシャァン──!!
何かが壊れたような音と共に、俺はティーシャ達のいるホールへと突き抜けた。
さっきまでいた世界はガラスのような破片となって舞い散り、その無数の破片の中をミカリアちゃん達と共に落下していく──!! 恐らく、今ので
やがて、俺達はティーシャ達のいるホールの中へと着地した。
「アヤカ……ちゃん?」
驚愕の表情で俺を見上げるハーフサキュバス姿のティーシャ。
ティーシャは床に膝をついており、既に心が限界を迎えていたのは明らかだった。どうやら今まで悲しみに耐えていたらしく、彼女の目にはうっすらと透明な涙すら浮かんでいた。
そんなティーシャに向かって、俺は静かに笑みを浮かべながら告げた。
「遅くなってすみません。でも……もう大丈夫ですからね?」
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