【#35】剣の悪魔
「……ここは?」
隠し部屋から伸びる通路を歩いていくと、大理石の円形ホールへと辿り着いた。
暗闇に覆われたホール内に沿うようにガーゴイルの石像が配置されており、その口の中では青い炎が
まるで古代の闘技場のような場所であり、みんなの緊張も高まっているようだった。そんな中──。
「クハハハハ!! 待ってたぜェ~~!! 酒クズ女どもよォ~~~!?」
:!?
:ついに来たか!?
奥から聞こえてくる甲高い声。
そこへ現れたのは、紫色の肌を持つ巨大な悪魔だった。
ヤギのような歪曲した角に、
その体格は人並み外れてデカい上に、筋肉も明らかにすごかった。
太く盛り上がった両腕には巨大な剣をそれぞれ一本ずつ持っており、その重さを苦ともせずドシドシ歩いてくる。確かにそんな見た目だけでも、凄まじく強そうな感じではある。
悪魔は俺達を見下ろしながら、
「クーハッハッハ!! オレこそが剣の悪魔、ネェール様だァ!! さっきはよくもナマイキ言ってくれたなァ~~!? ”
「「「………………」」」
思わず黙ってしまう俺達三人。どうやら他の二人も察したらしく、俺はため息つきながら”剣の悪魔”に聞き返した。
「……あなた、違いますよね?」
「は……!?」
すると、”剣の悪魔”はギリギリと歯ぎしりしながら言い返してくる。
「な、なにがだァ!? オレこそは、正真正銘の”剣の悪魔”で……!!」
「確かに。アナタはあの時に画面越しに話した──わたしの挑発でキレた悪魔ではあるみたいです。しかし、こうして
──さぁ、どこですか? 本当の”剣の悪魔”は?」
「ふ、ふざけるなぁ~~~~~!! 今すぐぶっ殺してやるぁ~~~~~~~~~!!」
両手の大剣を振り上げて、襲い掛かってくる”剣の悪魔”。
その瞬間、俺は左手でビールをがぶ飲みしながら、右手は腰の妖刀に手をかける構えをとった。そして──。
「──遅い」
「ガハっ!?」
まさに一瞬で勝負はついた。
俺は
「グ、グボハァ……!? お、オレの筋肉二刀流が……敗れるなんて……!!」
──そして、悪魔はそれだけ言い残して完全に気絶してしまった。
:あれ? よわ……
:なんだぁ? 剣の悪魔、ホントはザコだった……?
:いやいや、酒クズちゃんが強すぎるだけでしょー? ねぇー?
「コイツ、おそらくは”影武者”ね?」
倒れた悪魔をジト目で見つめるミカリアちゃん。隣でフィオナさんも同意したように頷く。
「ハイ。私もそう思います。そもそも最初に配信に割り込んできた時から、この悪魔はあらかじめ”代役”として立てられていたんでしょう」
それに関しては、俺も完全に同意見だった。しかし、そうなると余計に疑問が生じてくる。
(なぜこんな事をする必要があるんだ……?)
この館で最初に戦ったマクサルも、今倒した影武者のネェールも……ここの悪魔達は”真の黒幕”を隠すように動いている気がする。
(もしかして、素性を知られたくない理由でもあるのか……?)
そんな事を考えていた時、またしても異常な出来事が起きた。
「あれ!? また配信の調子が……!?」
突然、配信画面にノイズがはしっていく。これはまさか……!?
:!? なにこれ!?
:おい!? また配信がジャックされてるぞ!?
:どうなってんだ、いったい……?
どうやら最初にダンジョンへ入った時と同じように、配信を乗っ取られてしまったようだ。
そして、そこに映っていた光景は──!!
「ティーシャ!? ラビスさんも!?」
ティーシャとラビスさんの姿だった!!
◇◆◇◆◇
突如、配信画面に映し出された二人の姿。
どうやらそこは
:なんだこりゃ?
:とりあえず、ティーシャ達は無事っぽいけど……
:だ、大丈夫かな……ホントに?
静寂に包まれたホールの中、暗闇の中から高い靴音を響かせながらその"悪魔"は現れた。
『やぁ、久しぶりだな──ティーシャ・クラリオン?』
豪快に笑いながら現れたその"悪魔"は、まるで鬼のような姿をしていた。
まるで血のように染まった赤い肌に、波のようにウェーブした白髪から生えた
背の高い
……恐らく、ヤツが真なる”剣の悪魔”──この雑司ヶ谷ダンジョンで魔力を吸い取っていた犯人だろう。
赤い肌の悪魔は威風堂々とした歩調でホールの中を歩いて行き──やがて、ティーシャ達の前で足を止めて告げた。
『いや、”
『あ、アナタは……まさか!?』
ついに姿を現した赤い肌の悪魔に対し、鏡の向こうでティーシャが驚きの表情を見せる。明らかに普通じゃない反応だ。
それを不自然に思ったのか、隣のラビスさんが意外そうな顔で問いかける。
『ティーシャ!? まさか知ってるんスか……あの悪魔を?』
『そ、それは……』
言葉を
『クハハ! 何をトボけている? ティーシャよ? ──だが、まぁちょうどいい。貴様を”絶望”に叩き落とすにはいい機会だ』
そう言って、赤い肌の悪魔はまるで指揮者のような身振りと共に、ホール中にその低い声を響かせて言った。
『よく聞け!!
:【
:それって、”魔界を統べる九つの血統”のアレか!?
:やべ……思った以上にヤバイ相手だぞ……これ
そうして、あの悪魔──ヴァルフレッドはまるでリスナーに語りかけるように告げる。
『さて──今、この映像を見ている
「!?」
アイツ……まさか!?
:は? 急になに?
:ティーシャの正体だと??
:そんなの『最高の美少女』に決まってるだろうが!!
『おやおや? その様子では、まだ誰も気づいてないようだな? ならば、ちょうどいい機会だ!! 今こそ、お前達の信じる
次の瞬間、ヴァルフレッドは両手から爆風を放った。映像越しでも理解できるほどの、凄まじい威力を持った強力な魔法──!!
『ラビスちゃん!? 危ない!?』『うわッ!?』
その動きを察知したティーシャは、隣にいたラビスさんを
ヴァルフレッドが放った爆風は周囲の床を破壊しながら、彼女達へと襲い掛かっていった!!
(ティーシャ……!?)
黒い煙で覆われた画面の視界。俺はその光景を見ながら、焦っている自分に気が付いた。無意識に『ここからの先の光景が映らないでほしい』と願っていたのだろう。
だが、ついに──ついにその”秘密”が露わになってしまった。
『てぃ、ティーシャ……!? なんッスか……その姿は?』
明らかに震えたラビスさんの声。やがて、コメント欄も困惑によって埋め尽くされていく。
:え!?
:おい、これって……?
:待て待て待て待て!?
『うっ……!?』
画面の向こうのティーシャは──ハーフサキュバスの姿で立っていた。
頭の猫耳の横に生えた黒い二本角。メイド服の背中側から生えたコウモリの翼や細長い尻尾──もう言い逃れができないほどに悪魔の姿そのものだった。
そんなティーシャの周囲にはバリアが張られており、恐らくさっきの爆発を防ぐために本来の力を解放したのだろうと考えられた。
ラビスさんを守るためとはいえ……その力を解放した代償はとても大きい。
まるで耐えるように唇を噛むティーシャへ、ヴァルフレッドが追い打ちをかけるように言ってくる。
『見よ!! 愚民共よ!! これがティーシャ・クラリオンの真の姿──”ハーフサキュバス”としての姿だ!! 今こそ絶望をその目に焼き付けるがいい!! クーッハッハッハ!!』
わずか数秒の間だったが──ヴァルフレッドの笑い声はまるで永遠に続くかのように響き渡っていた。
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