【#32】分断されるパーティー

 その違和感が起きたのは、地下20階への階段を降りた時だった。


【雑司ヶ谷ダンジョン・地下20階】


(!? なんだ!?)


 地に足をつけた途端、周囲の霧が更に濃くなってきた。その変化は明らかに自然なものじゃなかった。何かの魔法だろうか?


 そして、霧がまた薄くなると──俺はとある異常に気づいてしまった!!


「あれ!? !?」


 ミカリアちゃんとフィオナさんに呼びかけると、彼女達も動揺したように周囲を見回していた。


「ホントじゃん!? 二人ともいないじゃない!? どうなってんの!?」


「変ですね……つい数秒前は我々と共に歩いておりましたが」


 :な、何が起きてる!?

 :配信ちょっと巻き戻して見たけど、階段前までは一緒にいるな

 :でも、地下20階に降りた瞬間……二人が消えちまってるよ~~~~!?

 :心霊現象!? 神隠し!?


 ま、まさか? まさか今度こそ……?


 思わずまたビビってしまっていたが、そこで意外な一報が入った。


『アヤカちゃん!! こっちこっち!!』


 別の撮影ドローンから連絡が入る。どうやらティーシャがどこかで起動したらしい。


「よかった!! ティーシャ、ラビスさんも無事ですか!?」


 すると、向こうからの映像にラビスさんのウサ耳が画面にインした。


『ウチは大丈夫ッスー!! いやー、ティーシャパイセンと一緒で良かったッスねー、マジで!!』


「ふぅ……なら、とりあえずは安心ですね」


 俺は少しだけ落ち着いて、なるべく冷静を心がけて質問した。


「ティーシャ。そこが何階か分かりますか?」


『多分、構造的にはアヤカちゃんと同じ20階だよ。でも、こっちは悪魔の闇魔法によって作られた"二重世界デュアルワールド"だと思うから、もはや別の場所といってもいいと思う』


二重世界デュアルワールド???」


『今ね、あたし達は一緒の階層にいるようで、んだよね。たとえるなら、"ダンジョン限定の小さな並行世界パラレルワールド"みたいなモノかな?』


 :なるほど、わからん

 :まず、闇魔法自体を扱ってる資料が少ねぇからなぁ

 :こんなのも知ってるティーシャはやっぱすげぇな……

 :ところで、ティーシャ~。転移魔法は試した?


『うん。一応やってみたけど……ダメだった』


「えっ!? 転移魔法でもダメ!? じゃあ、どうやって合流しましょう!?」


 急に不安になった俺へ、ティーシャは完全に状況を把握している様子で言う。


『大丈夫。このダンジョンのどこかにいる闇魔法の術者を倒せれば、二重世界デュアルワールドは解除されるはず。どちらの世界にいるかは分からないけど……』


「なるほど。じゃあ、それぞれの世界を手分けして探すことにしますか」


『そうだね。それじゃ、あたしの方でもこのまま配信するから、何かあったら情報共有を──ザザッ……ザザッ……』


「──あ、あれ!?」


 ザザッ……ザザッ……。


 激しい砂嵐と共に、ティーシャのドローンから信号が途絶えた。ま、またかよ、くそっ……。


 :おーーーい!? ティーシャ!?

 :ダメだ……配信も切れてる

 :二人は無事なのか!? クソっ!? 確かめらんねぇのか!?


 他にもスマホでメッセージを打ってみるが、そっちの方も返答はなし。


 なんてことだ。またティーシャ達と連絡が取れなくなってしまった。これも二重世界デュアルワールドの影響だろうか。


 とりあえず、今の俺達にできることは……。


「ミカリアちゃん、フィオナさん──とにかく急ぎましょう!! ティーシャ達と合流しなければ!!」


「えぇ!!」「了解です!」


 俺の呼びかけに対して、ミカリアちゃんとフィオナさんは気合いの入った表情で答える。


「まったく、面白いサプライズを仕掛けてくるわね〜? あの臆病チキン悪魔は♡」


「えぇ。私達にこんな罠を仕掛けたこと……たっぷりと"お礼"をして差し上げましょう」

 

 そうだ!! 待ってろよ、剣の悪魔とやら!!


 ◇◆◇◆◇


 そして、俺達は行動を開始した。目指すはティーシャ達との合流。


 ミカリアちゃん、フィオナさんと組むのは初めてだが、俺達三人は上手いこと敵を蹴散けちらしていた。


 ゾンビ、骸骨、人食い植物……見るだけで気味の悪い敵の軍団であるが、ミカリアちゃん達のおかげでサクサクと撃破。


 早くティーシャ達と合流するためにも、こんなところで時間は食ってられなかった。


 そうして長い墓場地帯を抜け、俺達の前に現れたのは──。


「な、なにこれ……!? 急に変なやかたが!?」


 なんと、巨大な洋館ようかんが目の前に現れた!! 


 その館はまるで意図的に道を塞ぐように造られており、手前の正門のカギも俺達をいざなうかのように開け放たれていた。いかにもサバイバルホラー系のゲームで出てきそうな風格だ……!!


 :こんな地下深くに館が……?

 :待てよ!? こんなのおれが前に来た時はなかったぞ!?

 :おかしいな……まさか人間が住むような場所でもないし……


「そうですよ!! こんなモンスターだらけのところに住むやつなんかいるはずありません!!」


 すると、ミカリアちゃんがアホを見つけた顔でクスクス笑って言う。


「──でも、それ……実際にダンジョンに住んでる酒クズに言われても説得力なくな~い♡?」


「あうっ!?」


 た、確かにそうだが。でも、あれはフリールームのおかげだからな……。普通に考えたら、ダンジョンで暮らすってのは正気の沙汰さたじゃないんだ!!


「と、とにかく!! 超怪しいですよ!! こんなの罠に決まってます!!」


『フォッフォッフォ!! そう見えるかの、カワイイ小娘こむすめ共ぉ~~??』


「「「!?」」」


 どこかから響き渡る謎の声。その出所でどころを探していると、空に浮かぶ一つの影があった!!


『これはこれは。はじめましてじゃのう? 招かれざる者共よ?』


 そこにいたのは、執事のようなスーツを着た奇妙な老人だった。


 まるで血が凍ったような青い肌に、とても歪曲わいきょくした鷲鼻わしばなが特徴の顔。


 さらに怪しげな丸いサングラスをかけており、オールバックの白髪頭しらがあたまにはシルクハットを被っていた。第一印象で怪しさがすごい。


 とにかく明らかに普通の人間じゃないのは確かだ。さっそくフィオナさんがロングランスを構えながら警告する。


「お前は誰だ!? 名を名乗れ!!」


『フォッフォ!! 血気盛んな娘じゃて!! そう焦らずとも、教えるつもりじゃったわい』


 青肌の老人は歯を見せて笑うと、空中でわざとらしく一礼しながら言う。


『ワシの名は”マクサル”!! 我があるじ──”剣の悪魔”様につかえる智略ちりゃく担当の悪魔じゃ!!』


「「「!?」」」

 

 つまり、敵の仲間ということか!!


 その場に緊張の空気に包まれる中、ミカリアちゃんはすでに迎撃の準備をしていた。


「あらら~、かわいそうなジジイねぇ~~♡ ノコノコとミカリア達の前に現れるなんて♡ ──食らいなさい、【ホーリー・ショット】!!」


 ミカリアちゃんは有無を言わさず、両手から強力な光弾こうだんを発射していく。だが──。


『無駄じゃ!! 無駄じゃ!! ワシに攻撃は効かん!!』


「なっ!?」


 放たれた光弾は、あの老人悪魔──マクサルの身体をすり抜けていく。


 その反応から察したのか、ミカリアちゃんは「チッ」と軽く舌打ちして呟く。

 

「……なるほど。”幻影”ってワケね」


左様さよう。まったく最近のガキ共はせっかちじゃのう? オマケになんでもタイパだの、ファスト映画だの、生き急ぎおってからに……ブツブツ』


「るっさいわね!? 老害ジジイが!! ブツブツ関係ないこと話してないで、さっさと用件だけ言いなさい!!」


 :おー、ミカリアちゃんこわ……

 :幼女の姿か? これが……?

 :でも、ブチギレてるミカリアちゃんもカワイイ


 そんなミカリアちゃんの猛攻に対し、マクサルは丸サングラスをクイッと動かしてため息をつく。


『ハァ~。これじゃから、ガキは苦手じゃわい……。ま、ええわい。ワシとて仲良く長話ながばなしするつもりもなかったからの』


 そう言って、片手で指パッチンする幻影のマクサル。


 それが合図だったのか、洋館入り口の大扉がギィ~~っと奇怪な音を立てて開いていく。そして、マクサルは館の中へと招き入れるような仕草と共に言う。


『さぁ、この館へ入るといい』


「……意外とあっさり開けるんですね?」


 俺の問いに対し、マクサルは声を上げて笑った。


『フォッフォッフォ!! ワシは親切じゃからのォ!! まぁ、進むも進まぬもお主らの自由じゃが、ぞ!!』


「「「!?」」」


 なにっ!? じゃあ、コイツがこの魔法の術者か!! 確かにこういうまわりくどい事しそうではあるな……!!


 やがて、俺は後ろのミカリアちゃん達へ振り返って告げた。


「──入りましょう。どちらにせよ、行くしかなさそうです」


 こうして、俺達は謎の洋館へと突入する事になったのだった。

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