【#31】ゾンビ軍団との戦い

 こうして悪魔との通信が切れた後も、コメント欄は大騒ぎになっていた。


 :酒クズちゃん、度胸ありすぎワロタ

 :てか、大丈夫か? 未知の相手にあんなこと言っちゃって?

 :あの煽りはヤバすぎだわ……


「さ、酒クズーーーーー!? アンタ、とんでもない事言ってくれたわねーーーー!?!? 悪魔をあんなに刺激してーーーー!?」


 ミカリアちゃんもに戻って、青ざめた顔で叫んでくる。彼女の顔は幼女なのにすごく怖くて……俺は思わず反射的に謝ってしまう。


「す、すみませ〜〜ん!?!? ──でも、と思ったんですよー!!」


「マズい!? なにが!?」


「いわゆる、『流れ』ってやつですよ」


 ミカリアちゃんの問いに対し、俺なりに酔った頭で考えて返答した。


「あのまま敵のペースで話されたら、よくない『流れ』になる気がしたんです。そして、もしその『流れ』が続いたままあの”悪魔”と実際に戦うことになった場合、その戦闘で確実によくない影響を及ぼしてくると思ったんです」


「……!!」


 少し意外そうな表情で固まるミカリアちゃん。その後、彼女はまっすぐな視線を俺に向けて問う。


「……つまり、敵に心理的な有利アドバンテージを築かせたくなかった。そういうことかしら?」


「そうです。それに──」


 俺はまた一杯酒を飲んで、「ぷはーっ」と息を吐いてから言った。


「やっぱり悔しいじゃないですか? ああやってになるのは」


「「「「!!」」」」


 少しの沈黙。まるで各々おのおのがその言葉に何か思うものがあったように。その後、ラビスさんが口を開いた。


「……そうッスねー。ウチら、いつの間にか敵の空気に飲まれてたかもしれないッス」


「うん。ラビスちゃんの言う通りだと思う」


 ティーシャも同意するように軽く頷いて続ける。


「それにね、正直言って……ちょっとスカッとしたよ? アヤカちゃん、『ぶちかましてくれたなー』ってね?」


 やがて、フィオナさんも左目でこちらを見つめて礼をする。

 

「アヤカ殿。私からも礼を申し上げたい。あなたには人を鼓舞こぶさせる"カリスマ"があるのかもしれないな」


「か、カリスマッ!? わたしがぁ!?」


 フィオナさんの言葉に、俺は顔の火照ほてりを酒でごまかしながら答えた。


「そそ、そんなぁ〜? わたしを褒めてもしか出ませんからね? ふへへへ〜〜♪」


 :すーぐ調子に乗る

 :こういうおバカなのも可愛いんだ!

 :パーティーのムードメーカー感ある


 そんな感じでみんなの雰囲気も良くなり、ティーシャがそのタイミングを待っていたように言ってきた。


「さて、そろそろ出発しよっか! 早いところ進んで、あの悪魔をぶっとばしちゃおーう!!」


 それを合図に、俺達は雑司ヶ谷ダンジョン攻略を本格的にはじめた。


◇◆◇◆◇


「わたしは~~気ままなお酒飲みぃ~~♡」


 不規則な墓場で作られた道をフラフラと歩きつつ、俺は適当に歌を口ずさんでいた。


 パーティーの中で俺が一番先頭を歩く中、ミカリアちゃんが後ろからジトーっと呆れた視線を送って来ている。


「まったく……こうして見てると、やっぱタダの"酒クズ女"ねぇ〜? 賢いんだか、アホなんだか……」


「フフ、そののではないですか? 彼女は?」


 楽しげにクスクス笑うフィオナさん。どうやら少しは配信の緊張も取れてきてるらしい。


 そのまましばらく墓場地帯を突き進んでいくと──。


「「「ヴェァァ……!!」」」


「うわっ!? ゾンビだぁぁ~~~~~~~~~~~!?!?」


 墓の中からゾンビ達が這い出てきた!! しかも、数えきれないくらい大量に!!


【ヘルゾンビ】


 悪魔の魔力を体内に入れ、突然変異で強化された"複製人クローン"(※つまり、本物の人間ではない)。

 普通のゾンビと違い強靭きょうじんな肉体を持ち、一匹の獲物に容赦なく群がっていく。

 

 :数多すぎだろ!?

 :なにこれ!? ハリウッド映画か!?

 :こんなんAランクの僕でも無理だぁーーーー!!!!


 ゾンビ達の迫力に気圧けおされた様子のリスナー達。しかし、ウチのパーティーはそれでも冷静そのものだった。


 そして、この事態に真っ先に名乗り出たのが──。


「敵はアンデッド……だったら、ここは美少女シスターである、このミカリアちゃんの出番ね♪」


 ミカリアちゃんだった。


 彼女は幼い身体を空中で静止させると、全身に金色のオーラを纏わせて呪文を唱える。


あまつの声にてめいずる。三ツ木みつぎ十字架じゅうじかにて、の者達へ安らかなる封印を与えよ──【トライデント・クロス】!!」


「「「ヴゥァ……!?」」」


 空中より降り注ぐ、三本の巨大な光の十字架。

 この光魔法の影響により、ゾンビ達は指一本動かせない状態へおちいっていた。


「フィオナ!!」


「──ハッ!! すでに準備できております!!」


 呼びかけに応えたフィオナさん。


 彼女は右手には白きおおかみが描かれたロングランスを、左手には魔法で精製した大弓をたずさえていた。


 フィオナさんはロングランスを矢の代わりにして、グググ……と力を込めながらゾンビ達に狙いを定めていく。そして──。


極夜きょくやの空を穿うがあおき閃光!! つらぬけ──【グングニル】!!」


 凄まじい魔力と共に、ロングランスが発射されていく。

 まっすぐな青い軌跡が伸びていき、その一撃が通った後には倒れたゾンビ達だけが残った。


「「「「ヴゥ……ゥ……」」」」


 :かっけぇぇぇええええ!?!?

 :これが四翼フォースの実力か……!!

 :ミカリアちゃんもいつもより本気だな!!


 この二人の活躍に奮起ふんきしたのか、ティーシャがメイド服の両袖りょうそでをはたきながら言う。


「あたし達もいくよ!! アヤカちゃん!! ラビスちゃん!!」


「ハイ!!」「了解ッス!!」


 全方位から迫るゾンビ達に、俺達はそれぞれに背中を預けるように応戦する。


 数は圧倒的に向こうが多かったが、戦いに関してはこちらが優位になっていた。


 目の前の敵を全力で対処できるのは、全員がお互いの強さを認めているからだった。それは"冒険者同士の絆"というべきか。


 そのまましばらくは順調に敵の数を減らしていたが、ふと墓場の奥から金切り声が聞こえてきた。


「「「ギャヒャァギャヒャァ〜〜!!」」」


「あれは……メイジ・スケルトン!?」


 ティーシャの視線の先にいたのは、紫のローブをまとう骸骨がいこつ司祭だ。

 魔法の準備をしていたのか、上空に紫色の魔力を溜め込んでいる。


 そんな光景を前に、ティーシャはみんなに警告する。


「──気をつけて!! 強力な闇魔法が飛んでくるよ!!」


「だったら、わたしの出番です!!」


 俺はすかさず焼酎をがぶ飲みして酒をチャージ、腰の妖刀をゆっくり抜きながら呟く。


酔剣すいけん──”鏡面きょうめん”の刀技とうぎ・【八鏡ヤカガミ】!!」


 さらに妖刀で円の軌跡を描くと、紅い魔力による防御円バリアが展開されていく。


 頭上から降り注ぐ闇魔法。それは俺達を押し潰すように降ってくるが──【八鏡】の防御円バリアは全てを飲み込んでいく。


 さて、今回もお返しといこうか。


「──砲撃!!」


「「「キャヒャァーーーーーーーー!?!?!?」」」


 :出た!! 例の必殺技!!

 :かっこいいーー!!

 :酒クズちゃん、この時だけはイケメンだ……!!


 これにてメイジ・スケルトンも全滅。その後、増援が来る気配もなかった。


 俺はふーっと一息ついて納刀。みんなの方へ振り返って笑った。


「さぁ、進みましょう!!」


 ……その後もしばらくは快調な探索だった。やはり敵は強いものの、こちらも最高のメンバーで来ているため苦戦はなかった。


 しかし、地下20階への階段を降りた時──俺達のパーティーは異常な事態に見舞われた。


(あれ!? ……!?)

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