【#30】雑司ヶ谷ダンジョン攻略開始─宣戦布告─
──そして、ついに雑司ヶ谷ダンジョン攻略当日を迎えた。
【雑司ヶ谷ダンジョン・地下一階】
周りに広がるのは、まるで西洋の墓場を模したような光景。
各所に不規則なドミノのように墓石が並び、白い骸骨のぶら下がった枯れ木が影を落としていた。周囲には白い霧が常に漂っており、どことなく空気が重たいような感覚に
そんな見るも恐ろしき世界の中、俺は撮影ドローンに向けて挨拶をする。
「みんなぁ〜〜!! 飲んでますかぁ〜〜〜!?」
俺は日本酒の入ったビンを片手で掲げ、ほろ酔い気分のまま叫んだ。ただちに出待ちのコメントが押し寄せてくる。
:配信キターーーーー!!
:待ってましたーー!!
:ホラーな雰囲気ぶちこわしの酔っ払いで草
「さーーて、今日はなんと美少女5人でコラボですよぉ〜〜〜!! ミカリアちゃん、どうぞーー!!」
「もぉ〜〜、いきなり酔っ払っちゃって可愛い〜♡」
ゆっくりと撮影ドローンの前に飛んでくるミカリアちゃん。
彼女は小さな身体を浮遊させながら、お得意のメスガキ口調で俺を煽ってくる。
「今日はよろしくねぇ〜♡ 酒クズ〜〜♡ せいぜい足を引っ張らないように頑張ってねぇ〜〜♡」
「ほぉー? 言いますねぇ〜〜!?」
そうして俺がミカリアちゃんと
「いやはや、二人ともテンション高いねぇ〜? これはあたし達もアゲてかないとね!! ──ラビスちゃん!!」
「うッス!! ウチらも負けてらんないッスよーー!!」
どっちも気合い充分らしい。
みんなこの日のために仕上げてきたのか、パーティーのモチベは最高潮といった感じだ。
そんな中、一人だけコソコソしている人がいた。
それを察したミカリアちゃんが、さりげなく誘導してくる。
「あっ! それとぉ〜、今日はウチの部下を紹介するわ♡ ──フィオナ、出ておいで!!」
「は、ハイ……」
小さく返事しながら、柱の影からフィオナさんが出てきた。そのまま騎士のように優雅な礼と共に名乗る。
「……はじめまして。フィオナ・レイフィールドだ……よろしく」
:はじめまして〜
:お? 新人かな?
:ちょっと怖そう
:あなたがあの
「そ、そうだが……?」
そうしてフィオナさんは最初は堂々とした態度を取っていたが──すぐに耐えきれなくなったのか急に座り込んだ!!
「──あぁ、やはり恥ずかしいです!! すいません、ミカリア様!! アナタの"部下代表"として振る舞う必要のある私が、こんな醜態を
:可愛い
:顔赤くて草
:だいぶ緊張してたのね……
そうやって落ち込んでいたフィオナさんの元へ、ミカリアちゃんが頭をナデナデしながら言う。
「よしよぉ~し♡ 大丈夫よ、フィオナ~♡ ミカリアぁ~、フィオナのそんな真面目なトコも大好きだよぉ~~♡」
「お、おぉ……!! ミカリア様……!!」
褒められて嬉しくなったのか、フィオナさんはスッと立ち上がった。そして、何事もなかったように前髪を撫でて言う。
「すまない。もう大丈夫そうだ」
「復活早いッスね!?」
ツッコむラビスさんに、フィオナさんは少し照れたように俯いていた。
──そんな感じでゆるっと始まった配信。俺はまた日本酒を一杯飲んで、みんなに向けてさりげなく
「さ~て、そろそろ出発しましょうか〜? お化けでもなんでもかかってこいですよ!! アッハッハ!!」
:まーた調子に乗ってるよ……
:酒クズちゃん、怖さを飲酒でごまかしてそう
:↑それな
「なっ!? そ、そんなわけないでしょう!? 怖くなんてないですから!? ──って、あれ? 回線の調子が……!?」
その時、急に配信中の画面にノイズがはしった。
:え? なになに?
:機材トラブル……?
:いや、でも回線自体は生きてるな
:じゃあ……心霊現象!?
いやいやいや、まさかね?
怖くてドキドキする俺を
『よォ……? ごきげんよォ、冒険者諸君?』
◇◆◇◆◇
:なんだ!?
:電波ジャック!?
:まさか魔力通信による干渉か!?
突然画面に出てきた謎の声によって、リスナー達も大混乱になっていた。
謎の声はかなり加工されていて、そこからどのような相手かは想像できなかった。
パーティーの中にも緊張がはしる中、ティーシャが謎の声に向かって冷静に問いただす。
「ねぇ、あなたは誰? まさか、”幽霊”ってワケじゃないよね?」
『クハハ!! オレか?』
謎の声は軽く
『そうだな。オレァ……"
「「「「「!!!!!」」」」」
:おいおいおい!?
:やっぱ”悪魔”ってガチだったんか……!?
:いよいよ一ミリも見逃せない配信になっちまったな
とりあえず敵が悪魔である事は確定。そこから更にティーシャは追及していく。
「……それで、あなたの目的はなに? 挑んできた冒険者達から魔力を奪って、どうするつもりなの?」
『まぁ、それぐれェは教えてもいいだろう。どうせ知ったところで……テメェらには防ぎようもねェ』
”悪魔”は俺達を見下すように笑った後、まるで恐れを知らないのか堂々と”その目的”を言ってきた。
『オレの目的は──"地上への進出"だ』
「ち、地上への進出……!?」
そう呟くティーシャの頬に、一筋の汗が流れていた。
ダンジョンと地上の間には結界が張られており、人間や亜人といった友好種以外の純粋なモンスターを弾くようにできている。
現状、悪魔の中で地上を行き来できるのは、亜人との
やがてその言葉を聞いたミカリアちゃんは、何か気づいたようにハッとした顔で言った。
「まさか!? 結界を強引に突破するつもり!?」
『クハハハハ!! そうさァ!!』
”悪魔”は絶望を
『ダンジョンに挑んでくる愚かな人間共から吸い上げた魔力ゥ!! それらをオレの更なる力の
:は!? 地上まで来るつもりなのか!?
:おい、待てよ!?
:あれ?? 思ったよりやばくね?? 避難とかした方がいい?
一気にパニックになるコメント欄。ここからでもリスナーの不安が伝わってくるようだった。
”悪魔”はそれを
『クハハ!! いいぞ!! か弱き人間共!! オレをもっと恐れろォ!! クーハッハッハ!!』
沈黙に包まれる墓場の中で、”悪魔”の笑い声だけが響く。あたかも既に勝敗が決したような雰囲気。恐らく、その場の誰もが心の底に重いモノを感じていただろう。
だが──。
「フフフ……アハハっ!!」
こういう時こそ、思いっきり笑い返してやるってもんさ。
そのままずっと笑い続ける俺を、みんなが驚きの視線で見ていた。
『……あ?』
気づけば向こうの”悪魔”も笑うのを
『……おい? 今、笑ってる女ァ? テメェ、死にたいのか?』
「いやぁ〜、ごめんなさい。あまりにもおかしくって……。もしわたし達を倒すつもりなら、やってみればいいんじゃないでしょうか〜〜?」
『なにィ……?』
俺は笑いすぎて出た涙を拭いながら、おかわりの酒をぐいっと一杯あおる。
そして、のどの辺りに熱いモノを感じながら、
「──あっ! でも、やっぱ無理かもしれませんねぇ~? そうやって今まで地下でコソコソ魔力だけ吸ってるような──自分から動かない”臆病者”になんかに負ける理由なんてありませんから~~♪」
「あ、アヤカちゃん!?」「挑発やばすぎッス!?」
ティーシャをはじめとして心配の目で見てくるみんな。そんな中、敵の”悪魔”は明らかに怒りの混じった声で聞いてくる。
『……テメェ、名を名乗れェ!!』
「アヤカ。わたしは
『チッ、ふざけた女だ』
悪魔は吐き捨てるように言った後、憎しみのこもった口調で続けてくる。
『いいだろう……テメェは確実になぶり殺しにしてやる!! もはや”不死の加護”で復活しようと関係ねェ!! オレに二度と逆らえないように、最大限の痛みと恐怖を与えて心を叩き折ってやらァ!!! 覚悟しとけェ!!!』
……こうして、その言葉を最後に”悪魔”との通信が切れた。
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