【#29】ダンジョン掲示板の様子→ティーシャと星空の下

 《ダンジョン総合掲示板》


 345:名無しの冒険者


【速報】酒クズちゃん、ついに不死教会ともコラボする!!


 酒クズちゃんのD-CONNECTディー・コネクトより(参考URL省略)

 ↑今回の簡単なまとめ


 ・次回のダンジョン攻略は雑司ヶ谷ぞうしがやダンジョン

 ・メンバーは5人パーティー(酒クズ、ティーシャ、ラビス、ミカリアちゃん、あと一人はミカリアちゃんの部下)で行く予定


 ・また、不死教会よりお知らせ。『雑司ヶ谷ダンジョンには”悪魔”の影響が見られるため、しばらく一般冒険者は行かないようにしてほしい』とのこと


 350:名無しの冒険者


 >>345

 おいおい、しかもウワサのゴーストダンジョンじゃねーか!? しかも、”悪魔”だって!? 俺っちも来週行くつもりだったんだけどぉ!?


 357:名無しの冒険者


 >>350

 ばーか。ありゃどう見てもうさんくさいだろ

 あそこに案内する闇ダンジョンバイト(?)っぽい広告とかもいっぱい出てるけどさ、ちょっと行った事あるやつなら誰でもおかしいって気づく話だ


 360:名無しの冒険者


 >>357

 まさか急に増えた『雑司ヶ谷ダンジョンに行った方がいい』的な書き込みも悪魔の仕業しわざだった……?


 363:名無しの冒険者


 >>360

 だろうな

 そして、おそらく酒クズちゃん達はその悪魔を倒しに行くってワケだな!!


 365:名無しの冒険者


 >>363

 『デビルハンター・酒クズちゃん』ってことですか

 

 368:名無しの冒険者


 しかし、"悪魔"がこっちの世界に絡んでくるって怖いなぁ

 だって、アレだろ? 魔界の奴らって異世界に何度か侵攻してきてるんだろ? おれ達の世界にも来る可能性はあるよな?


 375:【異世界出身のAさん】


 >>368

 そんなに心配すんなって

 確かに魔界デモニア異世界アルターに過去何度も侵攻してきてる。

 だが、現代世界こっちに奴らが侵攻してこれないのは大きな理由がある。分かるか?


 378:名無しの冒険者


 >>375

 ダンジョンと地上の間に"結界"があるから?

 

 380:名無しの冒険者


 >>378

 正解!

 ダンジョンの入り口には大天使達の作った"結界"があって、邪悪なるモンスターは入れないようになっている


 383:名無しの冒険者


 >>380

 そうそう。それで地上にモンスターが来れないんだよなぁ


 385:名無しの冒険者


 そう。つまり、悪魔も絶対にこの地上には入れないワケ。だから心配しすぎだよ、みんな


 388:名無しの冒険者


 >>385

 でもよぉ、ふと気になったんだけど、? たとえば人間と悪魔のハーフだったりしたら?

 

 390:名無しの冒険者


 >>388

 それは……ちょっと分からないな


 391:名無しの冒険者


 >>390

 もしかしたら、普通に結界通り抜けられたりして?


 393:名無しの冒険者


 >>391

 いやいやwないないww

 

 394:名無しの冒険者


 >>391

 ない……よね?


 395:名無しの冒険者


 まぁ、実例がないから何とも言えんが……流石にありえないだろ。こっちの社会で悪魔が普通に生活してるなんてさ


 397:名無しの冒険者


 だよなぁ

 そもそも友達の異世界人から聞いた話じゃ『悪魔は他の部族との混血を好まない』って聞いたぜ?


 400:名無しの冒険者


 >>397

 あー、それウワサで聞いたことあるわ

 じゃあ、やっぱり心配なくね? 元からそういうハーフがいなければ、起こり得ない問題だろうし


 402:名無しの冒険者


 >>400

 確かにな! ちょっと陰謀論めいてたわ!! 忘れてくれ、ガハハ


 405:名無しの冒険者


 とりあえず、次の酒クズちゃんの配信めっちゃ楽しみだな〜。絶対リアタイするわ!!


 ◇◆◇◆◇


【東京・多摩近辺】


 雑司ヶ谷ダンジョン攻略前日の夜、俺はティーシャに呼び出された。


 街の夜景が一望できる小高い丘の上。


 ここには横に広がるデッキが作られており、観光客と思われる人が点在していた。都会にしては珍しく、星も綺麗に見えるロマンティックな夜だった。


 そんなデッキの上で、彼女を探していたのだが──。


「アヤカちゃん、こっち!!」


 至福の声がした方を見ると、私服姿のティーシャが立っていた。


 白いブラウスの上に、ピンクのカーディガン。おしゃれな黒のロングスカート。

 一応黒縁メガネで軽く変装しているが、猫耳の生えた銀髪ミドルショートの頭は特に隠していなかった。


 そんな彼女の元へ、俺は慌てて駆け寄った。


「あっ!! すいません、遅れちゃって……」


「いいよー。むしろごめんね? 急に呼び出しちゃって」


「いえいえ。ティーシャに呼ばれれば、どこへでも行きますよ? わたしは?」


「アハハ。多分アヤカちゃんなら、本当にどこへでも来ちゃいそうだね?」


 冗談っぽく笑うティーシャ。俺も自然と一緒に笑いだすと、ティーシャがコンビニ袋から何か取り出して言った。


「ねぇ、二人で飲もうよ?」


「えっ?」


 トクン、と心臓が高鳴る。


 ティーシャが持っていたのは、チューハイの缶。

 こっそり袋の中を覗き見ると、まだ他にも酒が入っているし、色々とツマミも用意しているようだ。どうやら長く飲むつもりらしい。


「え、えっとぉ……貰っちゃっていいんですか!?」


「いいの。今日はアヤカちゃんと飲み明かしたい気分だったから」


「!!」


 その誘いは当然のようにファンとして嬉しかった。……だが、ちょっと"ティーシャらしくない"とも思った。


 多分いつもだったらもっと気楽な感じで、俺を飲みに誘うだろう。でも、今日は少しはかなげな感じだ。


 何か空気に張り詰めたモノを感じながら、俺はその誘いに応じた。


「わ、わかりました……では、いただきます」


 俺が受け取ったと同時、ティーシャは微笑を浮かべて


「ふふっ、それじゃ一緒に開けよっか?」


「は、ハイ!」


 プシュッ、とチューハイ缶から気持ちいい音が鳴り──。


「「──乾杯」」


 遠くに見える夜景に向かって、俺達は乾杯した。


 その後、一緒にそれぞれのチューハイに口をつける。しかし、お互いにゆっくりと飲む。まるでこの静かな時間を飲み込むように。


 そして、ティーシャがデッキに寄りかかりながらこう切り出した。


「……あたし達、きっと明日には例の”悪魔”と戦う事になるんだよね」


「えぇ。十中八九じゅっちゅうはっく、そうなるでしょうね」


 あの雑司ヶ谷ダンジョンの地下に悪魔がいる以上、戦いは避けられないだろう。まさか話し合いで解決するとも思えない。


 俺はティーシャの方を見て、少し気を遣うように言った。


「……やはり気が進みませんか? 悪魔と戦うのは?」


「……うん。でも──とは思ってたから」


 それからティーシャは少し景気をつけるように、一口チューハイを飲んでから言った。


「前にアヤカちゃんには少し話したよね? あたしがハーフサキュバスだから魔界まかいで迫害を受けてた……って話」


「ハイ、聞きましたが……」


「そう。それで……アヤカちゃんにはもう少し詳しく話しておこうと思うの。あたしの大事な"家族"について、ね。」


「えっ!? どうしてわたしに?」


「……もっとアヤカちゃんには知って欲しいの。あたしのこと」


「…………」


 それ以上、言葉はいらなかった。


 きっと誰かに聞いて欲しいんだろう。ティーシャは周りにハーフサキュバスとは言えず、その想いをずっと一人で抱えていたに違いない。


 だから、その秘密を知る俺に話す事にしたのだろう。それなら聞こう。


「──分かりました。それじゃ、付き合いますよ。このお酒の礼もありますから♪」


 それで少しでも彼女が楽になるなら。


 ティーシャは「ありがとう」と小さく告げて、星が輝く夜空を見上げて続けた。


「まず、あたしの苗字──"クラリオン"って言うのは偽名でね、本当は"クライヴィア"っていうんだ」


「"クライヴィア"……?」


「そう。魔界デモニアに九つ存在する獄区ごくく九獄門ナインスゲート』。第二の獄門ごくもん色欲しきよく】の血統を受け継ぐ一族、それがあたしの家系"クライヴィア"なの」


「!?」


 『九獄門ナインスゲート』。


 それは魔界にうとい俺でも知っているくらい、こっちの世界でも有名かつ恐れられている言葉だった。


 その言葉が意味することは──。


「それって……ティーシャは悪魔の中でもトップクラスの名門貴族ってことですか!?」


「……うん」


 そして、ティーシャはさらに驚くべき事実を語っていく。


「あたしのママはね、クライヴィア家の純血サキュバス。そして、パパは猫耳族キャトルの戦士。

 今から約20年前の異世界侵攻時。二人は戦場で敵同士として出会って、悪魔と亜人という種族の壁を越えて愛し合った。──そして、あたしが生まれた」


 まさか……ティーシャが生まれるまでにそんなドラマが? 確かに普通じゃないだろうとは思ったけど……。


 しかし、今までの話をまとめると一つ疑問があった。


「でも、ティーシャがハーフサキュバスで迫害される可能性がある事は、お母様かあさまも分かっているんですよね? そうなると、まさかそのまま魔界に戻ったワケではないですよね?」


「そう。だから、ママは”クライヴィア”を──そして、魔界デモニアてたの。自分の子を……あたしを守る一心でね」


「!!」


 その話を聞くだけで、ティーシャのママの覚悟がうかがえた。


 我が子のためならなんでもするという覚悟。たとえ彼女が悪魔であっても、そういうモノはあるらしい。


 ティーシャは話を続ける。


「その後、しばらくはパパと一緒に異世界アルターで暮らしてた。

 あたしはまだ小さかったから記憶もあんまりないんだけど……肩車してくれるパパの背中が大きかったのは覚えてる。多分、パパにとってもママにとっても一番幸せな時期だったと思う」


 そこでティーシャはチューハイを一口飲んでから、どこか寂しげなトーンで話し始めた。


「でも、あたしが五歳になった頃──魔界デモニアからの使者が来た。そして、パパは殺されて……ママとあたしは捕虜ほりょとして魔界に戻されたの」


「そんな……ひどい……」


 まだ五歳の時にそんな辛い経験をしていたとは……。


 普段は明るくふるまっているティーシャだが、その奥底にはそういう過去も眠っていたらしい。そして、それはみんなに隠していた想いだったのだろう。


「それからは地獄のような監視生活だった。あたしは亜人との混血種まざりものとしてずっと悪魔達からさげすまれて、ママは名門”クライヴィア”の裏切者として拷問ごうもんの罰を受け続けた。

 最終的にあたし達は一緒に魔界を逃げ出せたんだけど……今でもその時の辛い記憶は頭の中で残って消えないよ。あの悪魔達の恐怖はね」


「……お辛いですね」


 俺の言葉に対し、ティーシャは深く頷いて返した。


「そう。でも……いや、だからこそ。今回はちゃんと立ち向かおうと思うの。その”悪魔”に」


 そして、ティーシャは夜の街をまっすぐに見つめて、どこか強い決意を秘めたような目で呟く。


「もし、ダンジョンの地下に潜んでるその"悪魔"が何かたくらんでるなら……絶対に阻止しないといけないと思う!! だから、今度は相手が悪魔でもビビらずに戦う!! そう決めたの!!」


「ティーシャ……!!」


 彼女の想い、確かに聞き届けた。


 それと同時に、胸の中でこんな想いが湧き上がった。


 そう、俺だけはティーシャの味方でいよう。たとえどんな状況になっても。

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