【#28】ファミレスで会食?

 そうして次のダンジョンの話もまとまった頃、フィオナさんが部屋の時計を眺めて言った。


「ミカリア様、そろそろ昼食の時間です」


「あら? もうそんな時間なのね?」


 その返事にフィオナさんは「えぇ」と軽く頷いて、俺達を見回すようにしてさりげなく誘ってきた。


「よろしければ、皆様もご一緒にいかがでしょうか? ついでに会食の中で、『雑司ヶ谷ダンジョン攻略の方針』を話し合いたいと思うのですが?」


「あっ! それ、いいね〜♪ ちょうどあたしもお腹空いてたし〜」


 気軽に応じるティーシャ。俺としても断る理由はなく、全会一致でそのプランを採用する事となった。


 そんな中、ウサ耳をピクッと立たせたラビスさんが、ちょっと悪い顔をしながら俺に耳打ちしてくる。


『──酒クズパイセン〜〜!!  もしかしたら、こりゃ美味いモノ食わせてくれるかもッスよ〜〜!? なにせ"不死教会はリスポーンの治療費でたんまり儲けてる"ってネットでもウワサッス!!』


『えぇ!! えぇ!! わたしも聞いたことあります!! ついでに美味しい酒も出してくれたりして……!?』


 こっそりゲス顔で笑い合う俺達。ハッキリ言って、タダで飲める酒ほど美味いものはない!! どうしてもテンション上がってしまう!!


 そんな意地汚い二人組で、どこへ行くのかワクワクと期待していたのだが。


「サイゼイア!! サイゼイアに行きましょう!!」


「「……え?」」


 ミカリアちゃんの言葉に、俺とラビスさんは固まった。


 サイゼイア。全国チェーンの某ファミレス。『安い! 多い! 美味い!』がキャッチコピーの庶民のためのお店。


(いや、そりゃサイゼイアも好きだけど……このタイミングで!?)


 結局ここ本部より一番近いサイゼイアで昼を過ごすことになった。


 ◇◆◇◆◇


【サイゼイア・不死教会入り口前店】


「んはぁ〜♡ これこれぇ〜♪」


 ジュワッと肉汁を出しながら焼けたハンバーグがテーブルに置かれて、アホ毛を揺らして興奮するミカリアちゃん。


 彼女は小さな手で器用にナイフとフォークを動かし、そのままパクッと肉を一切れ口に入れた。あたかも世界で一番幸せそうな顔で。


「やっぱサイゼイアのハンバーグが最高だわぁ〜♡ ねぇ、フィオナ?」


「えぇ。このお値段でこの美味しさを提供できているコト、もはや"驚異的"と言わざるを得ません」


「「…………」」


 つい苦笑いする俺とラビスさん。


 もちろん俺もサイゼイアは好きだ。そこは誤解なきよう。


 だが、ここで飯を食うのは”会食”というよりも、”学生の帰り道”っぽい感じがした。

 もっとも俺はそんな青春時代過ごしてないから想像にはなるけど……。


「なに? アンタら、早く食わないの? ──もし食べないんなら、ミカリアちゃんが貰っちゃうけどぉ〜♡?」


 ミカリアちゃんはハンバーグをモリモリ食べた後、何か気づいたように眉を逆立てて指摘してくる。


「あっ! もしかして『』とか思ってるでしょ〜!?


「「ギクッ!?」」


 ピンポイントで見切られてビビる俺とラビスさん。慌てて二人で顔を合わせて言い訳する。


「そんなこと、1ミリも思ってないッスよ〜!? ね!? 酒クズパイセン!?」「ハイ!! これっぽっちも思ってませんから!?」


「ハァー……そんなこと言ってもバレバレよ?」


 ため息をついて呆れた様子のミカリアちゃん。それから日頃の苦労を吐き出すように続けた。


「いい!? 確かに不死教会ウチは世間のイメージだと"大儲け"してるかもだけど、現実的には結構カツカツなのよ!!」


「えっ!? そうなんスか!?」


 意外そうに驚くラビスさんに、ミカリアちゃんが止まらず話し続ける。


「そうよ!! みんな当たり前だと思ってる"不死の加護"だけどね、あの魔法を維持するのも大変なのよ!? 

 教会地下にある大型魔法陣を24時間シフト制で維持しなきゃいけなくて、そのおかげで莫大な人件費をかけてるんだからね!? それとねぇ、ちゃんと税金もたっぷり払ってるし──!!」


「まぁまぁ。落ち着いてください、ミカリア様」


 フィオナさんが暴走を止めるように口を挟み、隣からメニュー表を見せながら微笑み混じりに言う。


「ほら、今日はアイスクリーム頼んであげますから♪」


「わぁ〜い♡ ミカリア、アイスクリームだいすきぃ〜♡」


『…………』


「さて、そろそろ本題と行きましょう」


 そんな感じでスルッと本題へ突入するフィオナさん。なんだかミカリアちゃんの扱いにわりと慣れてそうな感じだな……。

 

「まず今回の雑司ヶ谷ダンジョン攻略にあたって、皆さんには"ダンジョン配信"を行っていただきます」


「え……? いいんですか? 配信しても??」


 少し意外だった。


 なにせ今回の仕事は『不死教会は内密に終わらせたい』と勝手に思っていたから。もし俺達がそれを配信してしまえば、全世界にその光景が流れることになるだろう。


 すると、フィオナさんは衝撃の事実を明らかにしてきた。


「これは我々の最上位にあたる組織『大天使の樹セフィロト』で最近発見されたのですが──”多くの人を集める配信者には強さに一定の補正がかかるようなのです”。つまり、配信が盛り上がれば盛り上がるほどそれに比例して実力以上の力を発揮できる……というワケです。」


「え!? そうなんですか!?」


 驚きだった。


 どうやらティーシャとラビスさんも初耳だったようで、どこか今までの事を思い返すような表情で言う。


「そういえば……強いモンスターと戦って配信でバズった時、みんなの応援もすごくて”いつもより速く動けてた”ってコトはあったよ」


「ウチも心当たりあるッスよ~。配信中に場が盛り上がってくると、不思議とレアアイテムが拾えたりするんスよねぇ~」 


 ……なるほど。人気配信者である二人が言うなら、信憑性しんぴょうせいも増してくるか。


 その後、ミカリアちゃんが部下の話を引き継ぐように続けた。


「今回の相手は"強大な悪魔"と予想されるわ。そんなヤツと戦うには、万全の状態で挑む必要がある。だから、この後はしっかりと告知もして当日までに盛り上げられるようにするつもりよ」


「……わかりました。じゃあ、そのつもりで準備しておきます」


 現状、五名でのコラボ配信になるのか。また今回は大きなイベントになりそうだな。おまけに、みんな人気を誇る配信者だし──。


 ……ん? 待てよ?? 


 その同じ疑問を持ったのか、ラビスさんが不思議そうな顔で指摘する。


「そういえば、フィオナパイセンって今まで配信出た事あったッスかね……?」


「!?」


 突然、顔を真っ赤にするフィオナさん。それから彼女はスカートを両手で押さえながら、今までと全然違う消えそうな声で言う。


「そ、その……お恥ずかしい話ですが、今回が初めてになります。私はカタブツな女ゆえ、配信には向いてないとは思うんですが……!!」


「──大丈夫ですよ、フィオナさん」


「!!」


 俺の言葉を聞いて、こちらを見上げてくるフィオナさん。


「ゆ、ゆーて、わたしが配信始めたのもまだ最近ですし? だから……そんなに気負う必要はないと思いますよ? 何かあったら、わたしもできる限りサポートしますから!!」


 少しの沈黙。「ちょっと恥ずかしい事言っちゃったかな……?」と思っていると。


「あ、ありがとうございます……!! アヤカ殿!!」


 少しだけ表情が明るくなったフィオナさん。どうやら多少は元気になったようだ。


 それから彼女の上司であるミカリアちゃんが肘で軽く突いて言う。


「そうよぉ~♡ 大丈夫だって、フィオナ~~♡」


 ミカリアちゃんは部下である彼女の肩を叩き、誇らしげに胸を張ってみんなに紹介するように言う。


「フィオナの強さに関しては、ミカリアが保証するわ!! それに、フィオナは……ミカリアにとって一番信頼できる人間だから!! だから、フィオナはもっと自分に自信をもって良いと思うわ!!」 


「ミカリア様……!!」


 その言葉で完全に立ち直ったらしい。フィオナさんはスッキリした表情で敬礼する。

 

「かしこまりました、このフィオナ・レイフィールド──配信でも全力を尽くします。ミカリア様に仕える四翼フォースの名にかけて……!!」


 そうしてフィオナさんも一緒に配信に出てくれる事が決まり、俺達はSNSで『雑司ヶ谷ダンジョン攻略』の告知をした。


──────


次回は掲示板+ダンジョン攻略前日のお話です


~補足~


『不死教会の税金』


 リスポーンの治療費のいくらかは、異世界側に税金として納められる。


 また”教会”という名前ではあるが、ため普通の企業と同じように日本の税金も払っている。


大天使の樹セフィロト


 異世界の均衡きんこうを守る"10の大天使"を中心に成り立つ、天使達の最上位機関。不死教会はこの系列の組織である。

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