【#26】ミカリアとの会合

 こうして、俺達は門番を交代したフィオナさんをともなって、不死教会本部へと入っていく事になった。


 入り口を抜けた先に現れたのは、この不死教会本部の中心である巨大な聖堂塔せいどうとう

 中は見上げるほどに大きな吹き抜けの塔になっており、遠くの天井に張られた巨大なステンドグラスが見る者を感動させる。

 まるでこの建物自体が芸術品のような素晴らしい空間だった。


 その一階にあたるエントランスホールでは不死教会の職員が受付をしており、今日もダンジョンからリスポーンしてきた冒険者達が手続きをしていた。


 そのパーティーのうちの一つ──冒険者の男二人組がどこか気落ちした顔で向こうからやってくる。


「うわぁ……すげぇ金取られたな……」


「な? だから、言ったろ? "あのダンジョン"はやめた方がよかったんだよ!! あんなの……オレらみたいな"Bランク"の凡人じゃ無理に決まってる!! どうしてあそこへ行こうと思ったんだよ!?」


「……だってよぉ、最近はレアドロップがすげーって聞いてたし、前はあんなにヤバくなかったんだよ……」


 そんなすれ違う男二人組を、俺もティーシャも自然と視線で追っていた。


 何か少し気になる事を言っていたが……今はミカリアちゃんとの用事が先だ。


「さぁ、こちらへお乗りください」


 やがて、聖堂内のエレベーターへ案内される。

 小部屋の中には円型の石板が浮いていて、フィオナさんが魔力を放つとゆっくりと上昇していった。


(すごいな……話には聞いてたけど乗るのは初めてだ!!)


 勝手にワクワクしてるのを二人にさとられないようにしていると、ティーシャが口を開いた。


「そういえば、フィオナさん。なんで今日は四翼フォースのアナタがここで門番をしてたのかな? 本来だったら、アナタのようなSランクの実力を持つ人がやる仕事じゃないですよね?」


「えぇ。その通りです」


 フィオナさんは小さく頷くと、「ハァ〜」とため息をつきながら俯いて言った。


「……実は私、今日は元々"休み"でしたが、門番担当の部下が体調不良で休んだので代わりに来たのですよ」


「「あっ……」」


 思わず声を揃えてしまう俺とティーシャ。ようするに、”休日出勤”というワケか。


 それからフィオナさんは俺達に気を遣ったように苦笑いする。


「仕方ありませんよ。我が隊は人材不足ですから。それに、今は少し立て込んでいますし。私の働きで部下の負担が軽くなるなら安いものですよ」


(か、かっこいい……!!)


 どうやらフィオナさんは、かなり部下思いの人らしい。なんだか理想の上司感がすごい。


(……でも、働きすぎには気をつけて!! 生きてくれ!!)


 そんな風にひそかに心の中で祈っていると、エレベーターの動きが止まった。


「──さぁ、着きましたよ」


 降りた先には長い廊下が続いていて、その突き当たりには豪華な大扉おおとびらがあった。


 フィオナさんは大扉の前に立つと、軽くノックしてから言う。


「ミカリア様。お客様をお連れしました」


『了解〜♡ 入っていいよぉ〜?』


 ゴゴゴ……と扉が左右に開かれる。


 フィオナさんに続いて、ティーシャと一緒に中へ入る。


 室内は特別に広い部屋だった。そこへ並べられた家具なども豪華なもので、明らかにVIPルームという雰囲気の場所。


 その部屋の一番奥──高級感あふれるプレジデントデスクの向こうから、”彼女”の声が聞こえてきた。


「ふふっ♡ 待ってたわ〜♡ ティーシャ……そして、酒クズ!!」


 ◇◆◇◆◇


「あはっ♡ 配信で話題になってから見てたけどぉ~、思ったより頼りなさそうな雰囲気のねぇ~? ウワサの”酒クズちゃん”は♡」


 不死教会のアイドル天使、ミカリア・エルフィール。


 彼女は小さな体格に見合わない大きな回転椅子に座り、水色のアホ毛をピョンピョンさせながら自慢げな微笑を浮かべる。


 ……やはり実際にこうして会ってみると、ホントにメスガキのオーラがすごいな。少し気を緩めると、軽く手玉に取られてしまいそうな気配すら感じる。


 そんな俺としては対応の難しい空気の中、フィオナさんがペコリと頭を下げて言った。


「初対面での無礼をお許しください、アヤカ殿。ミカリア様は普段からの"キャラ作り"のためにこういう喋り方しかできないんです」


「ちょっとぉ!? フィオナのバカぁ!? そういうのバラしちゃダメでしょーーー!?」


 可愛くキレるミカリアちゃん。つい俺も笑ってしまい、一気にその場の空気がなごんだ。


 前にティーシャと一緒に観た配信の時も思ったが、は割と常識人なのかもしれない……。


 そんな中、ガチャンと入り口の扉が開いた。そこにいたのは──。


「おっ!? ティーシャパイセンに、酒クズパイセーン!! おひさっすー!!」


「おっ、ラビスちゃんだ~!!」「ラビスさん!! お久しぶりです!!」


 ウサ耳が生えた金髪ポニテの褐色美少女──ラビスさんが部屋に入ってきた。

 どうやら今まで近くのトイレに行っていたらしく、両手をハンカチで軽く拭き取っていた。


「いやはや、ティーシャとご一緒するってのはウチも聞いてたんスけど、酒クズちゃんも一緒ッスか?」


「うん。アヤカちゃんはあたしが推薦すいせんで連れてきたの」


 ティーシャは俺の肩に両手を置き、どこか嬉しそうに言ってくる。


「少しでも実力者が欲しいって言ってたから、アヤカちゃんならその基準にも達してるんじゃないかなって思ってね〜♪」


「なるほどッスね~。確かに例のUアンノウンEエネミーを倒してしまうほどの実力者ッスもんね~?」


 からかうように上目遣うわめづかいで見てくるラビスさんに、俺はずかしくなって両手をブンブン振った。


「い、いやぁ~!? アレは好条件が重なったというか~!? 文字通り、お酒の勢いで倒せてしまったというか~~!?」


 すると、ミカリアちゃんがフワフワと空中を浮遊して、俺の目の前で指差してくる。


「なによ!? ハッキリしない女ね!?」


「えっ!?」


 思わず後ろへ身を引く俺。まるでとがめるようなミカリアちゃんの眼差し。


 やがて、ミカリアちゃんは少しバツが悪そうに頬を染めて、両方の人差し指をツンツンさせて呟く。


「ちょうどミカリアも見てたんだからね、あの"池袋ダンジョンでの配信"!! あのモンスターは……明らかにフツーじゃなかった!! 配信で見ていただけのミカリアにも分かるほどにね!!」


「えっ!? ミカリアちゃんもご覧になったんですか!? あの配信!?」


「あっ……」


 すると、ミカリアちゃんは気まずそうに目を背け、なおも威厳いげんを保つように腕組みしながら言う。

 

「べ、別にアンタが気になったんじゃないから観たんじゃないからね!? ざぁ〜こ♡ ざぁ〜こ♡」


 ……"旧石器時代のツンデレ"みたいな事を言われてしまった。


 更にその場の空気が沈黙に包まれ、ミカリアちゃんは仕切り直すようにオホンと咳払いして言う。


「まぁ、いいわ。とにかくね、アンタ達をここに集めたのは他でもない。今回はアンタ達のような実力者に"攻略して欲しいダンジョン"があるからよ」


 ミカリアちゃんはリモコンを押して、部屋内の魔力投影機プロジェクターを起動した。

 すると、部屋の中央にダンジョンの映像が出現し、彼女はその近くまで浮遊しながら言った。


「今回みんなに攻略してもらうのは──雑司ヶ谷ぞうしがやダンジョン。通称、"ゴーストダンジョン"と呼ばれてる場所よ」

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