【#25】不死教会本部へ!!

【目黒ダンジョン・地下一階】


 こうして、俺はティーシャと二人で不死教会に訪れる事となった。

 ここには一般冒険者もいるため、ちゃんと変装は欠かさない。


 もっともリスポーン者の少ない朝だからか、すれ違う人はまばらだったが。


「ここが不死教会本部ですか……!!」


 広大な目黒ダンジョンの中に現れたのは、見上げるほどに巨大な大型教会の建物だ。


 パッと見た感じはヨーロッパの大型教会みたいな見た目をしていて、各所に真っ白な下地にコバルトブルーの縦長十字のデザインが施されている。


 そして、その中央には不死教会のシンボルである”天使”の石像が彫られており、まるで訪問者の心を見通すかのようにこちらを見下ろしていた。


 隣を歩くティーシャは、その建物をまっすぐな瞳で見渡しながら問いかけてくる。


「アヤカちゃん、ダンジョン冒険者にリスポーンの恩恵を与えてる"不死の加護"の魔法がいつ発明されたか知ってる?」


「え、えっと……いつでしょう?」


「正解は"100年前"」


「100年!? そんな昔から……」


「そうだよ。今じゃ当たり前になってるから、知らなくてもしょうがないかな」


 その後、ティーシャはいつになく真剣な表情でそのまま語り続けた。


「今から約100年前、異世界で起きた魔界との戦争──『第一次魔界侵攻』の時、”不死の加護”は強大な力を持つ大天使達によって編み出されたの」


「大天使──たしか異世界では"神"のような存在でしたね。ところで、"不死の加護"はどういう目的で作られたんですか?」


「当然、悪魔との戦いのためだよ。その結果、リスポーンの力を手に入れた異世界の人々は、数でまさる悪魔達にも対抗できるようになったワケだね」


「なるほど。つまり、"不死の加護"は元を辿れば悪魔と戦うために作られた魔法だったんですね……」


 やはりティーシャは詳しいな。むしろ俺が不勉強すぎるのかもしれんが。


(……ん? 待てよ?? 悪魔といえば──)


 つい不安にかられた俺は、声を潜めてティーシャに聞く。


「あの……今さらですけど、本当に大丈夫なんですか!?」


「んー? なにが?」


「こう言っちゃなんですが、そもそもティーシャって”ハーフサキュバス”じゃないですか!? 天使の影響力が強い不死教会に”悪魔”って知られたら大変なことになるんじゃ……!?」


「ふふっ♪ それならご心配なーく」


 ティーシャは誇らしげに胸を張った後、ハーフサキュバスのピンク色の瞳を見せながら微笑んでくる。


「配信活動を始めて以来、今までこっちの世界で色んな人と会ったけど……現状あたしの正体を知っているのはアヤカちゃんだけだよ。──この意味、分かるかな?」


 瞳を元の青色に戻して聞いてくるティーシャに対し、俺は苦笑いしながら答えた。


「つまり、……ってことですか」


「そゆこと~♪」


 そのまま軽快な足取りで不死教会本部へと歩いていくティーシャ。

 ……まったく流石の度胸だな。まさに『魔性の女』ってヤツだ。


 ◇◆◇◆◇


 そして、教会本部の入り口まで来たのだが。


「──とまれ」


 そこで門番をしている長身の女性に呼び止められた。


 前髪で右目を隠すように伸ばした、茶髪ロングポニーテール。その隠した右目は眼帯で覆われており、こちらを見つめる左目は狼のような灰色の瞳。


 そして、全体的に鍛え上げられた引き締まった身体をしており、騎士団の証である白と青で彩られた軽装鎧を装備していた。


 また、白いスカートから見える足は黒いニーソで覆われており、モデル並みの凄まじい脚線美きゃくせんびを放っている。


 まさに”クールビューティー”と呼ぶにふさわしい雰囲気を纏った美しい女性だ。


 彼女は右手に持った槍に力を込めながら、冷たい眼差まなざしをこちらに向けて問う。


「私は熾天使騎士団セラフィムナイツ、"四翼フォース"のフィオナ・レイフィールドだ」


(えっ!? ”熾天使騎士団セラフィムナイツ”って……あの!?)


 これは流石の俺でも知っていた。


 ”熾天使騎士団セラフィムナイツ”とは、天使に忠誠を誓った者の中でもに与えられる称号だ。


 その人数は熾天使セラフィムの翼の数になぞらえており、一翼ファースト六翼スィクスまでの呼び名がつけられる。


 そんな熾天使騎士団セラフィムナイツのフィオナさんは、俺達を警戒するように左目を向けていた。


「お前達、怪しいな? そのような顔を隠すような格好をして、この不死教会に何の用だ?」


(ひ、ひぃ~~~~~!? 顔こわっっっっ!?!?!?)


 凄まじい威圧感。少し対応を間違えば、大変な事になってしまう気しかしなかった。


 そんな剣呑けんのんとした状況の中、ティーシャは頭の帽子を握りながら笑う。


「フフフ! 顔見知りに見破られなくなったなら、あたしもけっこう変装が上手くなったかな? ──ね、フィオナさん♡」


「!? ティーシャ殿!?!?」


 フィオナさんはただちに構えを解いて、アワアワと焦ったように口を開いたまま礼をした。……あれ? ひょっとして、可愛いな?


「こ、これは失礼しました!? その、非常に言い訳がましくなってしまいますが、今は厳重警戒せねばならない状況だったので──!?」


「いーよ、いーよ。わかってますから♪」


 『気にしてない』と示すように手を振るティーシャ。


 その後、フィオナさんはホッとしたように一息ついて、俺の方へと視線を移して聞いてくる。


「では、そちらの方は……?」


「ふふふ〜♪ 多分フィオナさん、正体を見たら驚いちゃうよ〜? ──それっ!!」


「あっ!?」


 急にティーシャにサングラスを剥がされた!? おいおいおい!?


 その後、フィオナさんは素顔をあらわにした俺を見て、更にブワッと冷や汗を流しながら叫ぶ。


「酒ク……いえ、アヤカ殿!?」


 ……今、酒クズって言いかけてたな!? まぁ、そっちで呼ばれても全然気にしないけど!?


 またしても驚きで震えるフィオナさんへ、ティーシャが変装を戻して話を続ける。


「フィオナさん。今回の一件、ミカリアちゃんから話は聞いてるかな?」


「えぇ、存じております。この度は大変失礼しました。それと、向こうでラビス殿もお待ちしております」


「えっ? ラビスさんも??」


「ハイ。ミカリア様より聞いた話では、"とにかくSランクの冒険者を集めたい"……とのことです。私も召集がかけられております」


 なるほど。確かに彼女もまた、ティーシャと同じSランク冒険者だからな。


 しかし、その様子からすると、生半可なまはんかな強さでは対応できない頼み事らしい。

 いったいなぜミカリアちゃんは実力者ばかりをつのっているのか? 謎は膨らむばかりだった。


「じゃあ、行ってくるねー♪」


 教会本部の中へ入ろうと歩き出すティーシャ。俺も便乗びんじょうして、彼女の影のようにコソコソついていこうとしたのだが──。


「お、お待ちください!!」


 またフィオナさんに声をかけられた。彼女は敬礼しながら


「ミカリア様の部屋には、私が案内いたします。そろそろ門番も交代しますので。──それと」


「それと……?」


 すると、フィオナさんは少し顔を赤くしながら、色紙とペンを取り出して言ってくる。


「あの、アヤカ殿……サインをくれませんか? い、いつも配信楽しませてもらって……ます」


「へ……?」

 

 ちょっと待て。それって──。


「フィオナさん……もしかして、わたしのファンなんですかぁ!?」


「ハイ!! そうです!!」


 意外だ!? 正直そういう俗っぽいのとは無縁なイメージだった!!


 ……というか、よりによって俺のファンなんだな。どこから出てくるか分からんもんだな。


「それじゃ、失礼して……」


 俺は色紙とペンを借りると、サササッとサインを書いてあげた(実はこっそり練習してた)。


 サインを書き終えると、俺はひっくり返して確認を促す。


「じゃあ、こんな感じで……?」


「おぉ……!! ありがとうございます!!!」


 フィオナさんはそれを大切そうに受け取ると、少し気持ちの悪いニタニタした笑みを浮かべて一人呟く。


「フフ、これで騎士団のみんなにも自慢できるな……!! ──あぁ、失礼! 教会内を案内しましょう!! さぁ、こちらです!!」


(……もしかして、この人も意外と変な人??)


 まぁ、いいや。とにかく教会本部に入ろう。

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