3章

【#24】不死教会のメスガキ幼女ロリ天使シスター

【渋谷ダンジョン地下一階・フリールーム内】


「アヤカちゃーん、晩御飯できたよー♪」


 両手に湯気が立ち昇る皿を持ったティーシャが、BARカウンターの向こうからやってくる。


 今夜は俺と二人っきり(フワンちゃんもいるけど)なので、ティーシャはハーフサキュバスの姿で過ごしている。

 彼女いわく、こっちの姿の方がリラックスできるらしい。……俺としては目のやり場に困るんだが。


「じゃーん♪ 今日はカレーで~す♪ 簡単なメニューでごめんねー?」


 そんなティーシャが作ってきたのは、喫茶店でよく見かける欧風カレーだ。


 肉や野菜が赤ワインやスパイスと共に煮られて、とても食欲をそそる豊潤ほうじゅんな香りを放っていた。


(おぉ、めっちゃいい匂い……!!)


 カウンターに並べられた大皿のカレーを見て、俺はよだれを我慢しながら返事した。


「ティーシャ、これすごいですよ!? お店で出るやつみたい!!」


「そうかな~~? アヤカちゃんってば、お上手なんだから~? ──さぁ、冷めないうちにどうぞ♪」


「ハイ!! いただきま~~す♪」


 いよいよカレーをスプーンで口に運ぶ。そのお味は──。


「うまっ!? これ、ご飯何杯でもいけちゃいますよ!? しかも、お酒にもよく合う!!」


 まぁ、ティーシャが作ったものだから、美味いのは当然といえば当然だが!! 


 俺の感想を聞いて、ティーシャはバーテンよろしくカウンターに胸を置きながら言ってくる。


「ふふっ、よかった~♪ もっと食べたかったら、おかわりもあるからね~♪」


  ……さて、今日ティーシャがこんな風に夕食を作ってくれたのは、このフリールームに一泊するついでだった。


 それまでの経緯はこんな感じ。


 ◇◆◇◆◇


【アヤカとティーシャのNINEナイン・メッセージログ】


 ティーシャ:お願い!! アヤカちゃん!!


 ティーシャ:明日の仕事早いからさ。今日はアヤカちゃんのフリールームに泊めてもらえると助かるんだけど……どうかな?(スタンプ:両手を合わせるミニティーシャ)


 アヤカ:もちろんオッケーに決まってるじゃないですか!! すぐに掃除しておきます!!


 ──とまぁ、そんな感じで。


 流石にティーシャのファンである『猫民ねこみん』として、彼女のお願いは断れなかった。

 ティーシャが困っているときは、いつでも力になるのがファンというものだ。


 ……でも、よくよく考えてみると。


(いくら朝が早くても、使……? だったら、このフリールームに泊まる必要性は……?)


 ティーシャがどこに住んでいるかは知らないが、都内に住んでいるのであれば転移魔法を使えば遅刻するような事にはならないはずだ。


 ま、まぁ、きっと何かしらの理由があるんだろう。うん、そういうことにしよう。


 ◇◆◇◆◇


「ふぅ~~、もう食べられないです~~」


 カレーを三杯もおかわりしてしまった俺は、ワインを一口飲んでからティーシャに聞いた。


「そういえば、明日のお仕事ってどういうものなんです?」


 すると、ティーシャは興奮したように瞳の色をピンク色に変え、まるで内緒話するようにヒソヒソ話し出す。


「この話、友達やSNSで言わないっていうなら話せるよ?」


「え? もしかして、それは守秘義務的なヤツじゃ……」


「んー。厳密に決まってないけど、告知自体はもう少し先だからね~。アヤカちゃんが喋らないなら話してもいいけど……どうかな?」


「わ、わかりました……約束します!!」


 ──というか、そこまで言われたら気になってしょうがない!! ティーシャにハメられてる気がする!?


 俺の返事に満足した様子のティーシャは、まるでASMRのように耳元へ真横からささやいてきた。


「なんと、明日は”不死教会ふしきょうかい”で打ち合わせ~♡」


「不死教会!?」


 不死教会といえば、ダンジョンでも重要な要素となる”蘇生リスポーン”をつかさどる組織だ。


 もしダンジョンで死ぬようなダメージを負った場合、”不死の加護”によって『不死教会』という場所へリスポーンされる。(ただし、本人の持病・寿命による死亡などは除く)


 もちろん命が助けるだけありがたい話だが、リスポーンした場合は多額のお金がかかり……死に方にもよるが⚪︎⚪︎⚪︎万円なんびゃくまんえんと取られる可能性も!! なお、不死教会に借金がある場合、加護の効果によってダンジョンに入れなくなる。


 そんな感じで、人々から感謝も恨みも買ってるのが『不死教会』だ。


 さて、ティーシャがそんな組織に何の用だろう? ──そう思っていると、彼女自身が答えを出してきた。


「うん! しかも、"この"とコラボするんだよ~♪ もうすぐ配信始まるから見せるね〜?」


 ティーシャは耳元から離れて、スマホをいじって配信を再生する。そこに映っていたのは──。


『こんばんわ〜♪ 不死教会所属、Sランク天使のミカリアでぇ〜す♪』


「えっ? ミカリアちゃん……!?」


 不死教会の幼女アイドル、ミカリア・エルエストだった。


 頭の真ん中からピョコっとアホ毛が飛び出した、丸いシルエットの水色ショートボブ。瞳は星のようにキラキラ輝く金色。服は身体より少し大きめな青と白を基調にしたシスター服を着ている。


 それだけ見たら、危険なダンジョンとは無縁な可愛らしい幼女に見えるだろう。


 だが、そんな彼女の正体は神聖なる『天使』の一族である。


 頭の上には天使の証である光輪ヘイロウ。背中からは小さな白い翼が生えている。その身体は常にフワフワと浮遊しており、彼女をタダ者でない事をうかがわせる。


 そんなミカリアちゃんもまたSランク冒険者であり、不死教会を代表する実力者だった。


 画面中のミカリアちゃんは、嘲笑ちょうしょうするような眼差しで小さい手を振る。


『あはっ♡ "雑魚羊ざこひつじ"のみんな、元気にしてたかしらぁ〜〜♡? それとも、ミカリアの声が聞きたくてメソメソしてたぁ〜♡?』


 :メェ〜〜!! メェ〜〜!!

 :ミカリアちゃん……今日も天使すぎる!!

 :↑マジで天使だからね

 :不死教会の守銭奴しゅせんどめ!! 金返せー!!(モデレーターにより削除されたコメント)

 :んんー、この生意気な顔がたまらん!!


 雑魚羊ざこひつじ──ミカリアちゃんファンのあだ名。


 それは"雑魚"と"子羊"を繋げたもので、直球ドストレートでののしってくるようなあだ名だ。


 にもかかわらず、ファン達はむしろ呼ばれたがっているフシがある。……ようするに、そういう変態HENTAIが多いってこと。


 それからミカリアちゃんは原稿に目を落としながら語り出す。


『えっとぉ、まずは本日のリスポーン者数から報告しまぁ〜す♪ 本日"東京のダンジョンで情けなく死亡してリスポーンした冒険者数"はぁ〜──1000人くらいだってぇ〜♡』


 すると、ミカリアちゃんはカッと目を見開いて驚いた。


『──は!? リスポーン1000人!? 一日で!? ちょっと多すぎじゃないのぉ!? ヤバすぎですけど!?』


 :キタ!!

 :たまに出るがまた可愛い!!

 :これこれ!! このギャップがいいんだ!!


 明らかに焦った様子のミカリアちゃんは、首を振ってすぐにキャラを戻した。……確かに可愛い。


『あはっ、ごめんねぇ~♡ つい取り乱しちゃったぁ♪ でもさぁ~、こんだけリスポーンしてたら驚くのがフツーじゃない~?』


 :まぁ、たしかに

 :ついこないだまで"300人でも多い"って言ってたのにな

 :最近は発生するダンジョンも多くなってるから、挑戦心かきたてられるヤツが増えてるのかも

 

『あのさぁ~? みんな身の丈に合わないダンジョンに行くからこうなんのよぉ〜? ミカリアがこう言っちゃなんだけどぉ、自分の実力に合ったダンジョンに挑戦する方がずっと有意義だと思うけどなぁ~~? その辺、ちゃんと理解できてこそ真の冒険者じゃない? ざぁ〜こ、ざぁ〜こ♪』


 :くっ……ナマイキなガキめ!!

 :ザコですみません~~♡ ザコですみません~~♡

 :ミカリアちゃんに屈服しないように、もっと強くならないと……!!


 そんな風に配信をずっと見ていると、ティーシャが思い出したように「あっ」と言った。


「そうだ!! 明日はアヤカちゃんも一緒に連れて行こっか!!」


「えぇ!? わたしもですかぁ!?」


「うん! 実はミカリアちゃんからね、”今回は実力がある人がいたらスカウトしてほしい”って言われたの。アヤカちゃんなら今までの戦績から言って十分だと思うし、一緒に来てもらってもいいかな?」


「そ、それは……」


 いつのまにか、『話を聞く』から『実際に行く』へ。なんだかトントン拍子だな。


 しかし、そんな風に誘われたら──。


「じゃ、じゃあ、とりあえずミカリアちゃんに会うだけあってみましょうかね?」


「おっけー!! それじゃ、あとでミカリアちゃんにDMダイレクトメール送っとくねー!!」


「お、お願いします……」


 また一人、有名人と会うことになりそうだ。改めてとんでもない事になってるな……最近の俺。

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