【#22】憧れのBARで飲み会を

【池袋ダンジョン地下1階(フリールームで定住中)】


 ──例の三人コラボ配信の次の日。


 さて、今日はフリールームで配信だ!! もちろんお酒も入れて!!


「みなさーーん、こんちわ〜〜す♪」「ピィ〜〜♪」


 :始まった!!

 :おはクズ〜

 :フワンちゃんもおは〜

 :相変わらずさっそく酔ってんねー

 :今日は休みだから俺も飲んじゃおうかな?


 配信開始直後。すぐにリスナー達が集まってきて、俺は一升瓶いっしょうびん片手に酩酊めいていした心地よい気持ちで言う。


「飲も飲も〜♪ みんなで飲んだ方が楽しいですよぉ〜〜♪ 酒の誘惑に負けて一緒に飲みましょう♡」


 :気をつけろ!! この女、酒沼に引きずり込もうとしてくる!!

 :ダメだ!! ビール持ってくる!!

 :こんなの我慢できない〜〜〜!!


「あらら、これまた"酒テロ成功"ですねぇ〜〜♪」


 ギガント・シマエナガのフワンちゃんの”もふもふ”に身を預けつつ、優雅にワイングラスを傾ける俺。


 ……我ながら、酒クズ度マシマシな行動ムーブですごい。うーーん、ダメ人間!!


 ま、そんなおふざけはともかく。


 :ところでさ、なんか酒クズちゃん上機嫌じゃね? いいことあった?


「お、よくぞ聞いてくれましたー!! 実はですね〜、このフリールームに──」


 俺は撮影ドローンのカメラをゆっくりと横移動パンさせ、今回の目玉である"それ"を大きく映した。


BARバー、作っちゃいましたーーー!!!」


 :おーー!?

 :マジか!?

 :しかも、結構立派じゃない!?


「でしょでしょ〜〜?」


 そう。この前の池袋ダンジョンで強いモンスターをたくさん倒したおかげで、クラフト用の魔力もかなり貯まっていた。


 そして、ついに以前から構想していたこの"BAR"を作った。


 全体的にいい感じの照明が当てられた、高級感あふれるカウンター。


 その後ろにはたくさんのボトルが並べられ、もちろんカクテルを作るための道具も完備している。……ま、作る方は完全に”ド素人”なんですけどね。


 その後、俺はオシャレなジャズのレコードを流しながら、琥珀色こはくいろのウイスキーをグラスに注ぎながら語りだす。


「実は昔からこういうBARで飲むのが夢だったんですよ〜♪ ほら、なんかカッコいいでしょう? どっかの組織の"秘密のアジト"って感じで!!」


 :めっちゃ目がキラキラしてる!!

 :完全にオタクの語り方だ……

 :ははーん? ホントに趣味のためだけに作ったって感じだな?


「そうですよ〜? 充実した生活のために、趣味は大事ですから!! そして、その趣味にも"ロマン”を求める!! それがわたしの生き方なんです!!」


 :ロマン系女子!! いいね!!

 :ようするに、カッコつけたい感じでしょ?

 :酒クズちゃんってたまに男の子っぽい事言うよね?


「そ、そぉですかね!?」


 や、やば。ちょっと男っぽい意見だったかな?


「ほら!? わたしって、ニートしてたから普通の人よりも変わってるのかも!? アハハ……!!」


 :確かにそうだな

 :酒クズちゃん、オタク文化にも理解あるもんな

 :そもそもティーシャにのめり込んでるワケだしなぁ


 ……ふぅ、なんとかごまかせたかな。


 そう思って再びウイスキーのグラスを口につけた時、近くから魔法の発動音が聞こえてきた。


「あれっ!? この魔法陣は──ぐはっ!?」


 急に魔法陣が現れた事に驚き、俺は椅子から転げ落ちてしまった。いたたた……せっかくBARでカッコつけてたのに。


 てゆーか、このフリールームに入れる人といえば──。


「ティーシャに、ラビスさん!?」


「来ちゃった♪」「おはよーッス♪」


 ティーシャとラビスさん──二人のケモ耳系美少女が転移魔法によって現れた!! 今回はどちらも私服姿であり、ストリート系ファッションで統一していた。


「な、なぜここに……?」


 俺としてもこれは完全に予想外な状況であり、リスナー達も明らかに驚いた様子だった。

 

 :は!?

 :おいおい!? 聞いてないよ!?

 :二人共、コラボの予定あったっけ!?


「あー。ウチらはさっきまで仕事だったんで、完全に予告アポなしで来たッスよ!!」


 ウサ耳をピンと立てて言うラビスさん。


 それからティーシャがそれを補うように、自分の着ている私服を見せながら説明してくれる。


「さっきまで二人でファッション雑誌のゲストモデルしてたんだけど、撮影が想定よりも早く終わってねー。それでちょうどヒマになったから転移魔法で飛んできたの!!」


「そ、そういうことだったんですね……」


 なるほど。結構その場のノリで来た感じだったか。ビックリしたなぁ、もう。

 

「ピィ~~~!! ピィ~~~!!」


「お~~! フワンっち!!」「元気だった~?」


「ピィ~~~~~♪」


 フリールームに来た二人に対して、フワンちゃんが嬉しそうに駆け寄っていく。


 フワンちゃんは『良い人』と判断した人物にはなつきやすい性格をしているようで、この二人に対してもかなり馴染んでいた。


 そうして二人はひとしきり”もふもふ”を楽しんだ後、ティーシャがBARに視線を向けて言ってきた。


「ところで、アヤカちゃん!! これまたすごいの作ったねぇ~~!? なかなか雰囲気いいよーー!?」


「マジぱねぇッス!! まるでガチのお店みたいッスよ~~~!!」


「いやぁ~~!? それほどでも!? えへへへへ~~♪」


 :まーたニヤケてます

 :酒クズちゃん、素直すぎて可愛い

 :いい意味でアホの子ですわ


 それからティーシャはカウンターに手を置きながら、テンション高めにこう宣言した。


「じゃあ!! 今日はここの完成記念にパーっと飲み会やっちゃおうか!! ラビスちゃんもイケる?」


「もちろんッスよ~~♪ もうこの後は完全オフだし、全力で飲めちゃうッスよ~~!!」


「おぉーーーーー!? ホントですか!?」


 そういえば、二人のスケジュールの都合もあって、先日の配信の打ち上げをちゃんとしていなかった。

 

 つまり、これはまさに都合のいい状況だった!!


「それじゃ、ダンジョンBAR『酒クズちゃん』の開店と行きますかーー!!」


 ◇◆◇◆◇


「「「かんぱーい♪」」」


 重なったグラスから「カラン!」と快音かいおんが鳴り、みんな一斉に酒を飲み始めた。


 :飲み会キターーー!!

 :オレも熱燗あつかんで参戦するでーー!!

 :くぅーー!! やっぱ昼から飲むビールは最高っすよーー!!

 

 どうやら続々とリスナー達も酒を飲んでいるらしい。

 

 そんな感じで一応配信はしているものの、基本的には気楽なスタンスの飲み会だった。現に俺以外の二人もガンガン飲む感じだ。飲み始めて数分もすると──。


「見て見てぇ〜〜!! にゃんにゃんダンス〜〜!!」


「ふぅ〜♪ ふぅ〜♪」


 両手を猫みたいにして謎のダンスを踊り出すティーシャに、ラビスさんがノリノリで合いの手していた。


 見ての通り、完全に酔い潰れている。まだ飲酒歴も長くないだろうし、慣れてないのは当然だった。


 そんなみんなの酔いが最大に達した頃、ティーシャが何か思いついたような顔で微笑んだ。


「ねぇ、二人とも?」


 彼女はそのまま身を寄せてきて、ヒソヒソとささやくようなトーンで告げる。


「ちょっとギャンブルしない?」


「!?」


 ギャンブル!?


 その甘くて危険な誘いに、頭が一瞬クラッとした。


 だが、俺はさすがに冷静になって、釘を刺しにいく。


「わ、我が国でギャンブルは違法ですよ!? 異世界ではどうか知りませんが!?」


「ダイジョーブ!! ダイジョーブ!! 当然、お金は賭けないよ♪」


 ティーシャはヒラヒラと手を振ってから、人差し指をまっすぐ立てて説明を始めた。


「みんなで三回戦の"ババ抜き"をして〜、毎ゲームごとにの〜♪」


「!!」


 す、好きな格好だと!? 


 つまり、もし一番になったら……ティーシャにも、ラビスさんにも、好きな格好をしてもらえる??


 だが、もし負ければ恥ずかしい格好させられるリスクがある。それはそれでどんな要求をされるか怖い気持ちはある。


 でも……でも!! もし勝てれば、この美少女二人の可愛い姿が見れることになる!! それは何にも変えがたい価値がある!!


「おーっ!? 面白そうッスね!?」


 ラビスさんは同意らしく、流れ的に俺が引き受けるかどうかになっていた。


「──それで? 酒クズちゃんはどうッスか!? やるんスか!?」


「や、やりまぁ〜〜す!!」


 :即答!?

 :意外だな?

 :よう言った!!

 :コイツは面白くなってきたな〜!!!


 すると、ティーシャは満足そうに微笑んでこう言ってきた。


「フフッ、よかったよかった♪ じゃあ、あたしは転移魔法でワープして、友達からコスプレ衣装借りてくるからちょっと待っててねー?」


「うっすー♪」「は、はい……」


 そうして転移魔法で消えたティーシャに対し、俺は少し違和感みたいなものを覚えてしまった。


 な、なんだ? 今のティーシャの目は!? まるで罠にかかった獲物を見るような……?


──────────


 《下編に続く》

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