【#18】思わぬ強敵……?

 昼飯食べて、酒もいっぱい飲んで──ダンジョン攻略再開!! ガンガン進むぞー!!


【池袋ダンジョン・地下24階】


「てやぁあああああ!!」


「「「ギギィ!?」」」


 小型モンスター、ミズトカゲの群れを撃破!! 


 みんなそれぞれ自分のスキルを活かしつつ、効率よくモンスターを倒すことができた。

 その手応えを感じていたのか、ラビスさんがウサ耳をピョンピョンさせて上機嫌な様子で言ってくる。


「なんか調子いいッスねー♪ もうゴールもすぐそこッス!!」


 :このパーティー、ホントにみんな強いよな?

 :もう次の階でゴールか。ちょっと簡単すぎたかもなー

 :まぁ、酒クズちゃんの実力も予想以上だっただろうから


 それらの意見にティーシャも同意のようで、「んー」っとくちびるに指を当てて考えていた。


「そうだねー。次はもっと強いモンスターがいるところに行ってもいいかも? ね? アヤカちゃん?」


「ふふふ~♪ いいですよぉ~、ティーシャとならどこへでもお付き合いします~~♪」


 酔っぱらった勢いのまま返事すると、ティーシャは俺の片腕に身を寄せて挑発的に聞いてくる。


「おー? 言ったね~、アヤカちゃん? じゃあ、どこに連れて行っちゃおうかなぁ~♡」


「!?」


 :うわぁ~~!? カップルかな!?

 :酒クズ×ティーシャ……良き

 :百合営業いただきました!!


「そーそー!! 営業!! あくまで営業です!! もちろん本気じゃないよ~~♪ ──ね、アヤカちゃん?」


「え!? あ、あぁ!? そぉですよねぇ~~!? アハハ……」


 ……完全にハーフサキュバスの目になってますけど!? しかも、俺にしか見えないようにしてるし!?


 こんなの見せられちゃったら、こっちとしては冗談なのか対処に困ってしまう。


 他のみんなからは単なる”ふざけた女子のノリ”に見えるだろうが、ティーシャの正体を唯一知っている俺だけが困る案件だった。


 ──そうして、しばらくは気楽なダンジョン探索が続いていた。


 遭遇するモンスターも特に問題はなく、みんなも泳ぎを楽しみにするような雰囲気になっていた。


 だが、ついにその空気を変える出来事が起きる。


「!! 前方に敵ッスよ!!」


『アクエテ……エヴィヌ……』


 前方に見えたのは、七色に輝く水晶を人型にしたような魔法生物のモンスターだ。


 大きな三角帽子にボロボロのローブ、片手には宝石のはまった杖。そんな”魔女”のシルエットを想起そうきさせる相手。


 知性のあるモンスターのようだが、まるでうわ言ように意味不明な言語を喋っていて意思疎通いしそつうはできなさそうだった。


 :何だ、あのモンスター!? 

 :誰か知ってる人いる!?

 :いや……自分も初めて見るな


詠唱キャスト──スキャン!!」


 すかさずティーシャが敵を分析する魔法を唱える。だが──。


【ミラージュ・ウィッチ】


 Unknown(データなし)


「うそっ!? データなし!?」


 スキャンは。つまり、それで"データなし"になるということは……。


 :このモンスター、史上初遭遇ってことか!?

 :おいおい、穏やかじゃなくなってきたぞ!?

 :なんかヤバそう……


「データはわからないッスけど、魔法系の敵ならこれが効くッス!! 【忍術ニンジュツ・マキモノホムラ】!!」


 空中に複数の巻物を展開していくラビスさん。


 その後、巻物は生きているみたいに空中でおどり、静止しているミラージュ・ウィッチの元へ張り付いていく。


 そして、その瞬間。ラビスさんは指をパチンと鳴らして告げた。


「──”起爆イグニッション”!!」 


 ドォン!! 


 凄まじい轟音と共に、絡みついた巻物が激しく爆発する。


 ラビスさんの巻物は敵の魔力に反応して起爆するものであり、その魔力が高ければ高いほどその威力を増す。

 彼女の見立て通り、やはりあの敵には有効だったようだ。


 :うおぉおお!!

 :さすがはラビスちゃん!!

 :こりゃもう助からないでしょ……


 しかし、爆風が晴れた後──俺達は信じられないものを見た。


『ヴェギロサ……』


「そんな!? ”ノーダメージ”ッス!?」


 :は!?

 :うそでしょ!?

 :バカな!? Sランクのラビスが使うスキルだぞ!?


 そして、ミラージュ・ウィッチは既に反撃の準備をしていた!! 杖の先に紫色の魔力が集中している!!


『オロディア……エヴキス……!!』


「ラビスさん!? 危ない~~!!」


 俺はすぐにラビスさんへ飛びつき、身体ごと引っ張るような形で避難させる。

 そのまま地面にうつ伏せで倒れ込んだ俺の頭上を、ミラージュ・ウィッチの魔弾がかすめていく。その直後。


 ドゴォ!!


 後方で着弾した部分の壁がえぐれていた。それを見たラビスさんは、青ざめた苦笑いで言ってくる。


「さ、酒クズちゃん……助かったッス!!」


「え、えぇ!! 助けられてよかったです……!!」


 もしアレに当たってたらと思うと……ゾッとしてしまう。


「次はあたしがいく!!」


 そうして俺がラビスさんの元へ向かった間に、ティーシャが反撃の準備をしていた。


「風の神、シルファーより与えられし力!! 吹きすさべ、風のやいばよ!! 詠唱キャスト──【レギオン・サイクロン】!!」


 ティーシャの両手から放たれる無数の暴風。これまで配信でいくつもの強敵を倒してきた魔法だが──。


『グルルト……』


「あ、あたしの上位魔法が……効かない!?」


 激しい攻撃に対し、微動びどうだにしないミラージュ・ウィッチ。そんな様子を見て、俺は改めて妖刀を握り直した。


(これは……なかなか恐ろしい相手が出てきたな)


 ◇◆◇◆◇


『メウティ……ジャティス……』


 ラビスさん、ティーシャの攻撃を続けて耐えたミラージュ・ウィッチ。それらを立て続けに食らったのに、傷一つついていない様子だ。


 :うわ……化け物じゃねぇか!?

 :ホントにこの階層に出るモンスターか!? 本来ならSランクの二人がいたら楽勝だろ!?

 :↑たぶん、"UアンノウンEエネミー"ってヤツだ!! 階層に合わない強さを持つモンスターがそう呼ばれてる!!


 そうだ、こんなヤツがまだこの階層に出てくるはずがない。とはいえ、こうして目の前に出現した以上は戦うしかない!!


「このぉ!!」


 俺もミラージュ・ウィッチを狙って走っていく。


 さっき酒も十分補給して、【酔剣すいけん】もしっかり発動できてる。素早く間合いに入り、両手に構えた妖刀へ思いっきり力を込める!!


(──もらった……!!)


 この距離ならば、もはや逃げる場所などない。そう確信した俺はミラージュ・ウィッチに向けて斬撃を見舞った。だが──。


『アィリヴィ……!!』


 ガキィン!!


「!?」


 ──止められた!?

 

 俺が斬ろうとした瞬間、ミラージュ・ウィッチは持っていた杖を魔法剣へと変えて妖刀を受け止めた!! ……少し予想外なことだった。


 :マジかよ!? 

 :コイツ、近距離もいけるのかよ!? 反則だろ!?!?

 :もはや弱点あるのか……!?

 

「てやぁ!! はぁ!!」


『ポリヴォ……ギクス……』


 妖刀と魔法剣の激しいぶつかり合い。斬り合いながら動きを探るも、敵はなかなか隙を見せない。

 

 そして、ミラージュ・ウィッチと戦っている間に、ヤツの腹部に高濃度の魔力が溜まっているのが見えた!! ──まさか!?


 俺は敵の魔法剣を受け止めながら、大声で後ろの二人に警告する。


「二人とも!! 伏せてください!!」


「えっ!?」「と、とにかく了解ッス!!」


「エイギオス……ヴィアーデ……!!」


 その瞬間、全方位に向けて強力な波動弾が放たれた!! やはり大技を隠し持っていたらしい!!


「くっ!?」


 俺は急いで柱を盾にして、波動弾の攻撃を防いだ。その後、敵から距離をとってティーシャ達と合流する。


「アヤカちゃん!? 無事!?」


「えぇ、なんとか……!!」


「そっか……よかった!!」


 ティーシャは少しホッとしたように頷いて、向こうに浮かぶミラージュ・ウィッチを見据みすえる。


『エルヴォ……セクイテ……』


 敵は大技を撃った後だからなのか、こちらの様子をうかがうように静止している。だからといって、安易に攻撃はできなそうだが。


「あれ……あたし達で大丈夫かな?」


「でも、どうにかするしかないッスよね。逃がしてくれるような相手でもなさそうッス……!!」


 そんな緊張に満ちた状況の中、俺は二人に向かってこう言い放った。


「一つ、"秘策"があります」


「「えっ!?」」


 ……それも、イチかバチかの秘策だが。

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