【#19】秘策

 "秘策"。


 俺の言葉を聞いたティーシャとラビスさんは、心底驚いたように質問してくる。


「アヤカちゃん!? 秘策って!?」「教えて欲しいッス!?」


 :なんだなんだ

 :いつからそんなの考えてた!?

 :ハッタリじゃないよな!?


 みんなの質問に対し、俺は着物を大きく広げて見せた。


「フフフ……当然、"これ"です!!」


「「!?」」


 「ドドド!!」と着物から落下していく酒!! 酒!! 酒!!


 ビール、梅酒、ウイスキー、日本酒……ありとあらゆる酒がそこにあった!!


 :なにーーーー!?!?

 :いつのまに、こんなに隠し持ってたの……!?

 :手品師かな?


 俺は足元に広がる大量の酒を見下ろし、驚くティーシャ達に向かって言う。


「今から……!! 短時間で今までにない量の酒を飲む事で、更なるパワーアップができれば……あのモンスターを倒せるかもしれません!!」


 :おいおいおい!? 正気かー!?

 :今までやったことないんだろう? 上手くいくのか? 

 :無茶に決まってる!!


 そう。第三者的に見れば、かなり常識はずれな作戦だろう。みんなが焦るのも無理はない。だが──。


「ま、他に良い策もないしやってみよっか?」「そうッスね!! 今は少しでも可能性がある方に賭けるッスーーー!!」


 どうやら二人は作戦に乗ってくれるようだ。……かたじけない!!


『グレヌス……エウアトラ……』


「──っと、敵さんも魔力を回復したみたいだね?」「そのようッスね。もう少し大人しくして貰ってもよかったんスけど」

 

 再び戦闘にむけて気合いを入れるティーシャとラビスさん。それからティーシャがこちらを横目に見ながら言ってくる。


「今からあたしとラビスちゃんで全力で時間を稼いでみる。その間、アヤカちゃんは頑張ってお酒を飲んでもらっていいかな?」


「えぇ!! できるだけ、ガンガン飲みますので!!」 

 

「ふふっ♪ これ以上なく、説得力のある返事だね? ──そうだ、アヤカちゃん!! これ!!」


「!!」


 その時、ティーシャから何か投げ渡された。受け取ったものを見てみると──。


「これは……!!」


 なんと、シャンパンのボトルだった!! しかも、前から俺が飲みたがっていたヤツ……!!


 ティーシャは可愛くウインクしながら、とびっきりの笑顔で言う。


「それはあたしからのサービス♡ そのお酒もアヤカちゃんの力に変えて?」


「ティーシャ……恩に着ます!!」


 俺が深く頭を下げると、ティーシャは軽く手を振ってからラビスさんの方へ向き直った。


「それじゃ、ラビスちゃん。行こっか?」


「うっす!!」


 ミラージュ・ウィッチに向けて、攻撃を仕掛けに行くティーシャとラビスさん。


 今、二人は俺を信じて戦いに向かってくれた。こんな不確定で無茶苦茶な作戦にも関わらず、その成功を信じてくれた。


 ──だったら、しっかりとその”たくされた想い”にむくいるべきだ!!


「オラぁぁああああああああああああああああ!!!!」


 ヤケ酒!! ヤケ酒だぁぁ!!!


 次から次へと酒ビンを開けて、一気に喉の奥へ流し込んでいく!! まさに浴びるように!! 今まで溜め込んでいた酒への欲求を解放するように!!


 :す、すげぇ……!?

 :今まで見たこともない飲みっぷりだ!?

 :てか、常人なら間違いなく死んでるぞ!?


 そうして俺が飲んでいる間、ティーシャ達はミラージュ・ウィッチとの戦いに挑んでいた。


「これで足止めするよ!! 詠唱キャスト──【バインド・アイス】!!」


 ティーシャの両手から氷のムチが出現し、ミラージュ・ウィッチへ巻き付けていく。


 だが、ミラージュ・ウィッチは軽く薙ぎ払うように氷のムチを粉砕する。


『カディヴァ……』


「──まだだよ!! ラビスちゃん!!」


「うっす!!」


 すかさず後方からラビスさんが飛んできて、間髪かんぱつ入れずに攻撃をくわえていく。


「これでもくらうッス!! 【忍術ニンジュツ・エンリュウバースト】!!」


 ラビスさんの背後から、巨大な龍を模した火炎が出現した。火炎の龍はうねるようにくうを舞い、ミラージュ・ウィッチへと食らいついて行く。


『ヴェスラ……リゴルデ……!!』


 流石のミラージュ・ウィッチでも、この連続攻撃はさばけなかったようだ。火炎攻撃を杖でどうにか受け止めている状態だ。


 そのように二人は敵をうまく足止めをしていた。やはりそこはSランク冒険者。しっかりと有言実行できる実力はあって頼りになる。


 だが、敵も黙ってばかりではないらしい。ついに本気を出してきた!!


『ガヴィル……クトゥディーテ……!!』


「きゃぁぁあああああああ!?」「うわぁあああああッス!?」


 突如、ミラージュ・ウィッチの周囲に激しい魔力爆発が起きる!!


 二人はその爆風に吹き飛ばされ、お互いにダメージを負っていた。その様子を見て、胸の焦りが加速する。


 :えぇい!? とにかく俺たちゃ応援するしかねぇーーー!!

 :急げ!! 急げ!!

 :酒クズちゃん、がんばれーーーーーー!!!!


「ハイ!! もっとペース上げます!!」


 リスナー達の熱気が込められた応援に、俺は強く頷いた。


 もう躊躇ためらってるヒマはない。一刻いっこくも早く酒を身体にぶちこむ!!


 そんな暴飲ぼういんにつぐ暴飲により酒がなくなっていき──ついに俺は最後の酒に手をつける。


 くしくも、最後の酒は"ティーシャに貰ったシャンパン"だった。


(ティーシャ……飲ませていただきます!!)


 俺は改めて心の中で礼をした後、勢いよくラッパ飲みする!! 


「ぷはーーーーーーーーーー!!」


 全て一気に飲み切ってしまった!! 


 こんな時に言うのもアレだが、最高に美味い一本だった。こうやって一気に飲んでしまうのがもったいないほどに。


 ──そして、ついに"その時"が来た。


「!!」


 ドクン! ドクン!


 身体中に心臓の鼓動が響き渡る。明らかに今までと違う感覚。


 全身にみなぎる力を解放するように、俺は思いっきり叫んだ。


「うぉぉおおおおおおおおおおおおお!!」


「アヤカちゃん!?」「まさか……ついに来たッスか!?」


 慌ててこっちを見てくる二人。


 そんな二人の元へ、俺は妖刀を片手にゆっくりと歩み寄る。まるで酔っていない時のように、威風堂々いふうどうどうとまっすぐな足取りで。


 全身に”紅いオーラの魔力”をまといながら。


 そして、俺は静かに微笑みながら言った。


「──お待たせしました、二人共。ここからは任せてください」

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