【#15】湖のモンスターとの戦い

【池袋ダンジョン・地下一階】


 さて、ダンジョンへ繰り出す前に忘れてはいけないものがある。それは──。


「酒クズちゃん!! さっそく朝酒あさざけいきま~~~~す♪」


 :キタキターーーー!!

 :くぅ~~!! こんな朝っぱらから……羨ましいヤツ!!

 :それじゃ、行ってみましょぉぉーーーーー!!


 俺は宣言すると、赤い酒杯しゅはいに注がれた日本酒をゴクゴク飲みまくる!! ほのかに甘い味が口いっぱいに広がっていく。そして──。


「ぷはーーーーーーっ!! うまぁーーーーーい!!」


「よっ!! 流石はアヤカちゃん!!」「パネェ飲みっぷりッスね〜♪」「ピィー!」


「ふふっ、みんな〜。ありがとございまぁ〜す♪」


 俺は飲んだ後の口元をぬぐうと、ティーシャへ今回の計画をあらためて確認する。


「ところで、ティーシャ~。例の地底湖って、地下何階にあるんでしたっけ~~?」


「地下25階だね!」


 すると、ラビスさんがむーっとウサ耳をぺたんとさせながら唸る。


「そう考えると、結構遠いッスね〜。ティーシャパイセン、転移魔法ではどれくらい行けそうッス?」


「そうだねー。このダンジョンだったら、地下12階くらいまではいけるかな?」


 :あら? 『一発で地底湖まで!』とはいかないのか?

 :↑転移魔法は"地下深くを目指すほど消費魔力も大きくなる"んだよ。最初から深い層に転移したら、その後ティーシャが十二分に戦えなくなる可能性がある。

 :へぇ〜なるほどな。だから、転移魔法も使いたい放題なワケじゃないのか


「そうそう。一応あたしには時間経過で魔力を回復できる【自動魔力回復オート・リカバリー】もあるけど、すぐに回復できるってワケじゃないからね~~」


 そう。だから、今回は消費魔力の少ない階層まで転移して、そこからみんなで下層への探索を開始するワケだ。


「フワンちゃん〜、さっきは運んでくれてありがと~~♪ ちょっとここでお留守番しててねー?」


「ピィー」


 こうしてフワンちゃんをフリールームの中に入れ、三人で転移する準備が完了した。


「それじゃ、みんな行くよ!!」


 ティーシャは足元に魔法陣を展開。全身から湧き出る魔力でメイド服を浮かせながら唱える!


詠唱キャスト──【ワープ・リフト】!!」


 ◇◆◇◆◇


【池袋ダンジョン・地下12階】


「おぉー、一気に雰囲気がそれっぽくなりましたねぇ~♪」


 俺達が転移してきたエリアは、青白い光に照らされた洞窟。


 エリア全体に透き通った水色のみずうみが広がっており、足場として白い岩が連なっていた。今、俺達が立っているのはその岩だ。


 ラビスさんは嬉しそうにウサ耳を跳ねさせながら、池の水をゆっくりとすくい取って言う。


「うはぁ~~♪ 綺麗なところッスね~~♪ やっぱ自然が感じられるトコロは最高ッス~~♪ なんだか故郷を思い出すッスね~~」


 :ラビスもすっげぇ綺麗だよ!!

 :自然の似合うギャル……いい!! すごくいい!!

 

 ラビスさんの話を聞いて、俺は隣で酒をあおりながら言った。


「そういえば、ラビスさんの出身『兎耳族バニエルの里』は異世界の秘境にあるんですよね~?」


「うっす。当時は田舎暮らしでやんなっちゃったけど、たまぁ~に恋しくなっちゃうんスよね~」


 :あのー、ラビスの配信は最近見始めたんですけど、なんで里を出たんだっけ?


「あぁ、知らないっすか? まー、簡単に言うと理由は二つあるッス。一つはこっちの世界への憧れと……もう一つは家族との意見の相違そういッスかね~」


 :意見の相違?

 :確かラビスちゃんのとこは家柄が結構厳しいんだよな?


「そうそう。まぁ、それでちょっと色々あって喧嘩別れって感じッス~。まぁ、しばらく家族とも会ってないし機会があれば帰りたいッスけどねぇ~。ハァ~……」


 そんな風にラビスさんが物憂ものうげに水面を眺めていた時だった。


「「「「「キシャァァァアアア!!」」」」」


「うおぉぉぉ!? 敵襲ッス~~~~~~~~!?」


 湖の中から"ビッグ・ロブスター"の軍団に襲われた!! その名の通り、デカいエビ型のモンスターである!!


 :エビだーーー!!

 :でっか!?

 :五匹もおる!?


「シャァァ!!」「シャァァ!!」


「おーっと、あぶねぇーッスね!?」


 前から来る二体。そのハサミによる連続攻撃を、見事に回避するラビスさん。さらにそのまま空中で回転し、胸の前で素早く印を結んで唱えた。


「【忍術ニンジュツ・カギナワショット】!!」


 ラビスさんの忍装束しのびしょうぞくの隙間から、無数の鍵縄カギナワが放たれていく!! 鍵縄の先はU型のアンカーになっており、それぞれが寸分すんぶんの狂いもなくロブスター達に突き刺さっていく。


「「「シャッ!?」」」


 完全に動きを止められたロブスター達。


 ラビスさんは服の中からアンカーを一つにまとめた”くさび”を取り出し、それを地面へと叩きつけるように突き刺した!! そして、彼女の視線の先には──。


「ティーシャパイセン!! お願いッス!!」


「オッケー!! 任せて!!」


 既にティーシャが呪文の詠唱をスタンバイしていた。


 ティーシャは足元に巨大な魔法陣を展開し、ロブスター達に狙いを定めて詠唱する。


「雷の神、トルロニスより裁きを与えん! 来たれ、せん万雷ばんらいよ! 詠唱キャスト──【ジャッジメント・ホーリーライト】!!」


「「「「「シャァァアアアアアアアアアアアアアアアア!?!?!?」」」」」


 前方に凄まじい轟雷ごうらいが放たれる! こうして離れていても勢いを感じ取れるほどの威力!! 


 :す、すげぇえええええええ!!

 :流石のコンビネーションだな!!

 :ラビスがアンカーで足止めしたおかげで、エビ共は逃げる事すら許されなかったワケだ……!!


「ナイスッス~♪」「いえぇ~♪」


 ハイタッチするラビスさんとティーシャ。そんな二人を遠巻きに眺めていると──。


 :あれ? 酒クズちゃん何もしてなくない?

 :もしかして酒飲んでただけ?

 :社内ニートならぬ、パーティーニート?


「う、うるさぁーーーーい!? 今のは邪魔しない方がいいって思ったのぉーーー!?」


 俺がツッコむと、ティーシャとラビスさんが軽く笑った。完全に戦闘も終わり、再び平和が訪れたかと思われた。


 ──その時だった。


「グシャァァアアアアアアアアアアアア!!!!」


「へ……?」


 俺の背後の湖から、凄まじい水しぶきが上がる。振り返ってみると──さっきの数倍はデカいビッグ・ロブスターが出現していた!!


「アヤカちゃん!?」「酒クズパイセン!? 逃げ──」


 向こうから二人の声が聞こえる。だが、その警告もむなしく俺は巨大ハサミに挟まれた!! そして──!!


「うぎゃぁあああああああ!? 引きずりこまれるぅ~~~~!?」


 :うわわわわわ

 :おいおい!? 大丈夫か、酒クズちゃん!?

 :早く助けないと!! 

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