【#13】水着を買いに行こう

【ネットニュース】ティーシャ、酒クズ、ラビスによるコラボ配信決定!


《ネットの反応》

・マジか!?

・またにぎやかになりそうだな

・次の場所は池袋ダンジョンか。地底湖のダンジョンだね

・どうやら泳ぎもするっぽいぞ!? 

・ってことは、水着かぁ!?

・↑うぉぉおおお、永久保存版~~!!


◇◆◇◆◇


【渋谷・裏路地(ダンジョン入り口前)】


「うはぁ〜!! コラボ配信の告知した途端、すっげー口コミ広がってるッスよーー⭐︎」


 みんなでダンジョンから出た時、ラビスさんがスマホを片手に喜んでいた。


 気になって俺も見てみると、確かにネット各所で話題になりまくっていた。……こういうの見ると一気にハードル上がるよなぁ。


 さて、事前にフリールームで変装用の私服に着替えて、渋谷の街に出てきた俺達三人。


 ティーシャは丸い帽子で猫耳を隠し、白いブラウスと黒のスカート……というシックなファッション。変装しつつも”オシャレに抜かりなし”な彼女。


 ラビスさんは頭のウサ耳をニット帽で隠し、顔にはサングラスをかけて変装。

 服は薄手のニットセーターとショートパンツを組み合わせたギャル系ファッションだ。


 そして、俺も……。


「うぅ~~、この格好恥ずかしい~~!? 足の辺りスースーするぅ~~~~!?」


 ラビスさんにギャル系ファッションに身を包んでいた!!


 学生風の真っ白なシャツの上に、少し着崩きくずしたピンク色のカーディガン。スカートは赤と黒のチェック柄で、太ももからローファーまでは完全な生足なまあしあらわになっている。


 一応黒縁メガネで変装しているものの、俺が落ち着けないせいで変装効果があるかは微妙であった。


「あぁ~……最高ッスね♡ 美人をギャルファッションで染めるのはっ!! これで酒クズパイセンも”ギャル染め”完了ッス!!」


「うぅ~~、染められちゃいましたぁ~~……」


 服を貸してきた主であるラビスさんは、興奮した様子でスマホで何度も写真を撮っていた。


 そう、これが配信界でも有名なラビスさんのへき──”ギャル染め”だった。


 彼女は『ギャルファッションこそが至高!』と考えており、常に魔法カバンにギャルの服一式を持っている。それを女子に着せるのが定番化しており、ティーシャも洗礼を受けた経験がある。


 こうしてギャル一色に染められてしまった俺は、二人に隠れてコソコソ街を歩き出す。通行人とのすれ違いざまに、こんな声が漏れ聞こえてきた。


「あの子、可愛くね?」「お? ホントだ?」「なかなか大胆なスカート履いてんな~。パンツ見えそうじゃね?」


「~~~~!!!!!」


 慌てて後ろでスカートを押さえる俺。そんな俺を見て、ティーシャとラビスさんは微笑ましそうに笑っていた。


◇◆◇◆◇


【原宿某所・水着ブティック】


「う、うわぁ……!?」


 それからやってきたのは、女性向けファッションの店舗が集まったオシャレな商業施設。その中の一つに水着を中心に扱った店舗があり、二人はそこへ案内してきた。


「…………」


 店内に入ると、水着を着た女子のマネキンと目が合う。これまた色んなモノをさらけ出したような開放的な格好。

 今から俺もこういうの着るのか……と思うとドキドキが加速してしまう。


 そんなさっきからキョロキョロしている俺へ、ラビスさんがジトーっと目を細めて言う。


「酒クズパイセーン? なんだかお店に入ってから挙動不審ッスよー?」


「そそ、そーですか!? アハハ……実はこういう店全然入った事なくて~~……。というか、自分で遊び用の水着買うのも初めてかなぁ~~??」


「「えぇ〜〜〜〜!?」」


 同時にリアクションするティーシャとラビスさん。


「えっ!? そんなに美人なのにマジッスか!?」


「そ、そうですよ~」


 そりゃそうだ。元は男。彼女がいた経験もなし。つまり、こういう店来るの初めて。


 ……なーんて、言えるはずないんだけど。


「じゃあ、アヤカちゃんの初めての水着、しっかり選んであげますか!!」「うっすーー!!」


 なんだか余計に気合いが入った様子のティーシャとラビスさん。二人は店の方へ散らばり、手分けして俺用の水着を探してくれていた。


「アヤカちゃんー!! これどう!?」 


「ちょ、ちょっと派手すぎる気が……!?」


「酒クズパイセーン!! これは似合いそうじゃないっすかーー!?」


「うわーー!? 布が薄い!?」


 ……とまぁ、そんな感じで試しにどんどん持ってくる二人に俺は困惑していた。


 女子の買い物、そりゃ長くなるワケだよなぁ……。女になって改めてそう思った。


◇◆◇◆◇


「それじゃ、試着してきますね~♪」


 いくつかに候補を絞った後、俺はその水着を持って更衣室の中へ行く。さて、久しぶりに一人になれる時間が来て少しだけホッとする。


「アヤカちゃん、カーテンしめとくね~」


「あっ、ありがとうございます──って、なんでティーシャも来てるんですか!?」


 なぜか待っているはずのティーシャも一緒に来ていた。ティーシャは少し恥ずかしそうに猫耳をペタンと倒して笑う。


「ちょっと心配だったんだよ~。アヤカちゃん全然水着買った事ないって言うし、着替えも慣れてないかなって思って♪ だから、あたしが着替えるの手伝ってあげる♡」

 

「よ、幼稚園児じゃないんですから……!!」


 なんだか強引な感じで来られたが、もうこの際だから手伝ってもらう事にした。俺はティーシャの前で下着だけの姿(!)になり、試着の準備ができた。


 やがてティーシャは背中側にまわり、ブラジャー型の水着を装着してくれる。


「ふふっ♡ 動かないでね、アヤカちゃん♡」


 前方の鏡に映るティーシャの表情。気が付くと、彼女の目はピンク色の蛇目へびめになっていた。こ、これは……!?


「ティーシャ!? ハーフサキュバスになってます!?」


「あっ、ごめんごめん♡ つい、興奮しちゃって……♡」


 周りにバレないように、小声で会話する俺とティーシャ。ティーシャは背中の翼と尻尾を器用に動かしながら、ペロッといたずらっ子みたいに舌を出して言う。


「でもさ、ここにいる間だけは許して? 擬態ぎたいしてない姿見せれるの、アヤカちゃんの前だけだから~~♪」

  

「……!!」


 てぃ、ティーシャ……正体を現してからかなり大胆アグレッシブになってる気がする……!!


◇◆◇◆◇


「ふぅ~~、ようやく買えた……」


 俺は水着の入った白い紙袋を手に、お店の外へ出た。そして、隣を歩くティーシャとラビスさんへ一礼する。


「でも、二人のおかげで良いモノが買えたと思います~~♪ ありがとうございます~~♪」


「ふふっ、アヤカちゃんが満足ならよかったよ~♪」「礼にはおよばんッス~♪」

 

 その日は用事も終わり。それからは三人で気の向くままに街を歩いた。


「うわぁ~~♪ ここのクレープ、クリームがトロトロして美味しいね~~♪」「ハイ!! こんな美味しいの初めて食べました……!!」


 三人で焼き立てのクレープに舌鼓したづつみを打ったり。


「今日はとことん歌うッスよ~~!!」「「いぇ~~~!!」」


 そのままノリでカラオケに突入して、みんなで歌いまくったりと。


 ……とまぁ、そんな感じで『水着を買う』という今日の目的からだいぶ外れてしまったが、全員楽しそうだったのでそれで良しだろう。


 夕暮れの帰り道。みんなで並んで歩いていると、こんな事を思ってしまった。


(ひょっとしたら、俺の”青春”は今来たのかもしれない!! うおぉおおおおおお!!)

 

 そうして一人勝手に盛り上がっていた俺(元おっさん)であった。……今まで人生灰色だったからしょうがないな、うん。

 

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